【JRの不思議】 なぜ「空席」が「赤色」ランプ?
1.はじめに ~JRの新しい着席システム~
2019年頃から、JR東日本の一部特急列車で、従来の「自由席」が無くなっているのはご存知だろうか? 中央線特急「あずさ」や「かいじ」、常磐線特急「ひたち」や「ときわ」など。
これは、特急電車の新型車両(E353系)導入に伴う変更で、代わりに、新たな着席サービスがスタート。
これらの特急では、全席が「指定席」となった。
(1)あらかじめ座席を指定する、「指定席特急券」は、従来通りの運用。
(2)座席を決めずに乗車することも可能だが、この場合「座席未指定券」を購入し、車内の空席ランプが点灯している席に着席となる(→着席後に、空席ランプが予約席ランプに点灯)。
いずれの場合も、これまでの「指定席」や「自由席」という区別がなくなり、事実上、全席指定席のシステムに切り替わった。
2.大きな問題点
ところが、このシステムには、乗客を混乱させる大きな問題点がある。
乗車時、「指定席特急券」の購入者も、「座席未指定券」の購入者も、座席着席前には、座席頭上についているランプの色を確認することになる。
「自分の指定した席は、ちゃんと予約席ランプ色になっているか?」
または
「この座席は予約席ランプになっていないから、着席できるか?」などなど
大きな問題は、このランプの色設定である。
JR東日本は、次のように案内している。
そう、「赤色=空席」、「緑色=予約席」なのだ。
すなわち「赤色=座ってもOK」、「緑色=座るのはNG」、ということ。
これは、信号表示(赤色=止まれ/緑色=進んでOK)と逆であり、信号表示に慣れている多くの人々にとって、直感的にもわかりづらい。
・・・皆さんは、すぐに理解できるだろうか?
3.色設定の不思議
本来であれば、「では、どうして空席=赤色点灯なのか?」の理由を突き詰めたいところだが、これがどうリサーチしても、理由が不明なのだ(わかる人は、是非教えてください)。
そこで次に、では一体、現在の仕様(すなわち「赤色=空席」、「緑色=予約席」)が設定として適当なのか、考察してみた。
4.ユニバーサルデザインの観点から
ここ数年、不動産開発業界の中で、特に、不特定多数の利用者が想定される商業施設やホテル、さらには特定多数の方がご入居されるマンションまで、幅広いカテゴリーで、「ユニバーサルデザイン」という考え方が注目されている。
(1)ユニバーサルデザインってなに?
ユニバーサルデザインとは、「年齢や能力、状況などにかかわらず、できるだけ多くの人が使いやすいように、製品や建物・環境をデザインする」という考え方。
アメリカで生まれたデザインの考え方で、建築専門のロナルド・メイス教授が1980年代に広めた思想だ。
特に重要なのは、「デザインをする段階から、使いやすさについての考えを取り入れる」という点。ここが、障壁を後から取り除く「バリアフリー」との大きな違いである。
「バリアフリー」の考え方では、例えば、階段昇降が困難な車いす利用者に対して、階段をスロープに変更するなど、特定の誰か(ここでは車いす利用者)に着目した配慮、となる。
他方で、「ユニバーサルデザイン」では、こうした年齢、性別、文化、身体の状況など、人々が持つさまざまな個性や違いにかかわらず、最初から誰もが利用しやすく、暮らしやすい社会となるよう、まちや建物、もの、しくみ、サービスなどを提供していこうとする考え方
近年、市区町村をはじめ、多くの行政機関でも注目されている考え方だ。
(2)ユニバーサルデザインから考察する色表示
本日の本題、JR特急列車のランプ表示に話を戻そう。
JR特急列車は、言わずもがな、不特定多数の方々が利用する交通手段であるから、「できるだけ多くの人が使いやすい」というユニバーサルデザインの観点を踏まえた色表示とすべきだ。
特に新型車両導入にあたっては、座席の通路幅や、シートの仕上材、座席テーブルの高さ、案内表示の文字フォントやサイズ、車内のピクトサインまで、多様な要素が出てくる。単に、デザインの洗練性のみならず、安全性や機能性と両立すべき必要性が極めて高い。
これは、ユニバーサルデザインの大原則の中に、以下2つがあることからも明らかだ。
★簡単に使える「単純性」
→単純性とは「使い方が簡単で直観的にわかること」。使う人の知識や経験の違いにかかわらず、”直感的に”理解できることを指す。
★欲しい情報がすぐに分かる「明確さ」
→明確さとは、「使う人にとって、その情報が理解しやすいこと」。何を伝えているのかが誰にでも分かることを指す。
5.最後に
もし本記事を、JR東日本の関係者または鉄道車両メーカーの担当者がご覧になったら、是非再考をお願いしたいと思う。
街の中には、子どもから成人、お年寄り、外国出身の方から、妊産婦、ベビーカーを押す人、車いす利用者や、視覚・聴覚の障がい者など、いろいろな人が暮らしている。
できるだけ多くの人が使いやすい・直感的に理解しやすいデザインや表記を考えることが、私たちの暮らしには必要不可欠ではないだろうか?
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