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ドラマの設定が非現実的だとか、そういったこと(2)

ドラマの設定が「非現実的だ」などというと、それを批判しているように聞こえてしまいますが、そういうつもりはありません。「非現実的=夢のある」お話は大好きです。3月終了のテレビドラマでは、非現実的設定の金字塔である「人物入れ替わり」と「タイムスリップ」ものがあり、とても楽しめました。

設定は「非現実的」であればあるほど〇

前回の(1)で、『天国と地獄~サイコな2人~』(TBS系)の感想を書く中で、「人物入れ替わり」の設定の魅力について書かせていただきました。

人の身体が入れ替わるというような設定は、明確に非現実的であるがゆえに割り切ってとても楽しめると思います。そのその一方で、普通にありうるような登場人物の行動や人間関係が、現実的な感覚と微妙にずれていたりするとかえって気になるものです。

恐らく、完全に現実と離れているものは、それを受け入れて楽しめても、微妙に現実と違う感触の部分は許せないものなのかもしれません。

タイムスリップものの楽しさ

3月終了のドラマでは、『知ってるワイフ』(フジ)と『江戸モアゼル〜令和で恋、いたしんす。〜(日テレ)という2つのタイムスリップものがありました。

言うまでもなく、タイムスリップものには、過去に行くものと未来に行くものがあります。また、意図せずにそうなってしまうもの(文字どおりタイムスリップ)があれば、意図してそうするもの(字面でいえば、タイムトリップ)もあります。『知ってるワイフ』は、意図して過去に行き(少なくとも2回目以降は)、一定時間後に自動的に現在に戻ってくる(その法則は不明)というもので、『江戸モアゼル』は行き(過去→現在)は意図せず、帰り(現在→過去)は意図してでした。

タイムスリップは、かなり昔から、小説、映画、ドラマで取り上げられてきた人気の「非現実的」設定ですよね。最初にこの設定を考えたのは誰なんでしょう。その人には相当なアイデイア料をお支払いすべきでしょう。

有名なところしかわかりませんが、H.G.ウェルズの『タイム・マシン』(1895年)がもともとでしょうか。これは80万年後の未来に行く話で、現在の格差社会の行く末を描いたような話でした。

ただ、調べてみたら、チャールズ・ディケンズの『クリスマス・キャロル』(1843年)は、さらに前なのですね。これは業突く張りの主人公が幽霊に連れられて、過去の世界に戻って、純粋だったころの自分を思い出すとともに、未来に行って自らの行く末を目の当たりにするというもの。これはタイムスリップした行先の世界では自分は登場人物にならない(外からその場面を目撃する)という意味で変形タイプです。

その後、これらの小説は何度も映画化されました。それ以外に、タイムスリップは、ロバート・ゼメキス監督の『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズを筆頭に、『戦国自衛隊』『ファイナル・カウントダウン』『ある日どこかで』『時をかける少女』『フィラデルフィア・エクスペリメント』『タイム・コップ』『猿の惑星』『ターミネーター』などの映画から、『ドラえもん』などの漫画・アニメはもちろん、戦隊もの仮面ライダーにも登場しました。

前回触れた新海誠監督の『君の名は。』は、人物入れ替わりとともに時点も入れ替わるという意味で、タイムスリップものでもありますね。

『知ってるワイフ』と『知らないワイフ』

さて、今回のドラマの話です。

『知ってるワイフ』は韓国オリジナルのドラマの翻案だそうですが、オリジナルの方は観ていないので、今回3月に終了した日本版だけを見た感想です。

前回(1)で、アメリカ・ドラマの日本でのリメイクに、時々違和感を感じる部分があると書きましたが、韓国ドラマのリメイクについては、そういう違和感を感じるところがほとんどないので、今回も安心して見られました。

大倉忠義演じる主人公が2020年の現在から2010年に戻って、人生をやり直すというお話です。現在の奥さん(広瀬アリス)と徹底的に仲が悪くなってしまったので、10年前の時点で徹底して広瀬アリスに出会わないようにして、その後違う人と結婚するわけです。それでもまた広瀬アリスに出会ってしまい、結局二人は結ばれることになります。

過去に戻って人生をやり直すというところは、バカリズム脚本の『素敵な選TAXI』(14年フジ)を思い出しました。誰しも、「あの時、こうしていれば」と思うことはありますよね。

それから、生瀬勝久演じる謎の男が言う「過去をいくら変えても、近しい人との関係は変わらない」という言葉に、グウィネス・パルトロウ主演の映画『スライディング・ドア』(98年)を思い出しました。

地下鉄のドアが閉まる前に乗り込んだ場合と、間に合わずに乗り遅れた場合の二つの話が交互に語られていく映画です。乗り込んだ場合には、主人公の男女ふたりはそこで出会いますが、乗り遅れた場合にも少し遅れて出会うことになり、最後にはどちらの場合も二人は結ばれるというお話です。

これは、まさに二人が「赤い糸」で結ばれているというファンタジーだと思います。『知ってるワイフ』も、そんな感じでちょっと心を暖かくしてくれるところがありました。

『知ってるワイフ』では、過去に戻って現実を変えた結果として、大倉忠義が元の奥さんとの関係をいろいろと反省し、生活態度を改めることで二人は結ばれます。ただ、ここで夫である大倉の側が一方的に悪かったかのようになっているのが少々不満です。できれば、夫婦双方が反省してやり直すという感じにしてほしかったです。だって、夫婦はお互いの関係ですから。

そのためには、広瀬アリスにも、最初の険悪な夫婦関係を経験した上でタイムスリップしてもらう必要がでてきます。それだと、複雑になりすぎるということでしょうか(広瀬も一度タイムスリップするのですが、それは大倉が一回現実を変えた世界からタイムスリップしますので、もともとの夫婦関係についての反省の余地はありません)。

ところで、「知ってるワイフ」っていうのは、どういう意味なんでしょう。旦那がタイムスリップしたことを知ってるワイフですかね。

『江戸モアゼル〜令和で恋、いたしんす。〜』

『江戸モアゼル〜令和で恋、いたしんす。〜』では、岡田結実演じる江戸時代の花魁が161年後の令和にタイムスリップしてきます。そして恋の三角関係・四角関係に入っていきますが、時間とともに江戸の記憶(自らの人格)を失うことがわかってきます。結局、それを悲しむ現代の恋人に背中を押されて江戸に帰ります。そしてさらに・・・という話で、全体としてお気楽なラブコメで楽しかったです。

令和での生活が長くなってくると、江戸時代の古文書に描かれていた主人公の絵の色が薄くなっていくというところが、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』を思い出させます。あれは、過去に戻った影響で現代の写真が薄くなるということでしたが。

ちょっと不思議だったのが、江戸からタイムスリップした時と同じ条件(満月とか流れ星とか)をそろえて、令和から江戸にもどるというところです。もし同じ条件をそろえたのなら、令和からさらに161年後の未来に行ってしまうのではないかと、心配になりました。そうなることを少し期待していましたが。

タイムスリップは非現実的か

考えてみると、タイムスリップで過去に行くのと未来に行くのでは、随分と意味合いがちがいます。

過去に行く場合、『クリスマス・キャロル』のようにその場面の登場人物にならない場合は問題ありませんが、登場人物になってしまえば、その時代に何らかの変化を起こしてしまい、結果「現在」にも変更をもたらすことになります。そうすると、以前に存在していた「現在」と新たに存在する「現在」はパラレルに両方存在するのか・・・それとも写真や絵が薄くなることで解決されるのか・・・。

過去に行く場合でも未来に行く場合でも、行先の時代の自分と現在の自分が共存するような場合、その相互の干渉の問題は生じます。『知っているワイフ』のように、共存しないで、その時代の唯一の自分になる場合にはこの問題は起きませんが、年齢が大きく違う場合はどうなるのか気になるところです。

非現実的かどうかということでは、未来に行く方が圧倒的に現実性が高いですよね。私の理解するところでは、アインシュタインの特殊相対性理論では、光速に近いスピードで移動すると周囲より時間の進行が遅くなるといいます。したがって、限りなく光速に近いスピードで移動する手段が開発されれば、未来に行くことができるということですし、それは実際にあり得そうです。でも、過去は無理です。

映画『猿の惑星』シリーズ(68年~)では、主人公はまず未来に行きます。光速近くで航行する宇宙船に乗って1~2年の人工冬眠の間に700年から2000年の未来に行くもの。遠くの宇宙の探査を行って地球に戻る予定だったのが、トラブルによって未来の「猿の惑星」に到着するわけです。

二作目の『続猿の惑星』でも、一作目の主人公を追いかける形で主人公が同様の未来へのタイムトリップをするというもので、ここまではわかります。ところが、三作目の『新猿の惑星』では、猿の惑星の住人である猿の夫妻が、破滅直前の惑星を脱出して現在の地球に来るという話です。つまり、ここで過去へのタイムスリップがあり、完全に次元の違う話になりました。

このように、未来に行くのと、過去に戻るのとを同じことのように扱うのはちょっとどうかなとは思います。確かに、過去に戻れるということが前提なら、未来にも行けるというのはわかります(『バック・トゥ・ザ・フューチャー』『知ってるワイフ』)。でも、その逆の想定はどうでしょう。

そういう意味で、『江戸モアゼル』の登場人物が、当然のごとく江戸時代に戻れると信じ切っていることに、ちょっとひっかかりました。

ま、それはともかく、そんなことを考えながら、3月までのドラマを楽しんでいました。

(見出し画像は、フジテレビのホームページより引用させていただきました。ありがとうございます。)



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