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日本の生物多様性の”実際の分布”を予測する

生物分布モデル(生息適地モデル)に関する図書を翻訳しました。

この図書は、生態学的ニッチに基づいた生息適地モデルの構築、評価および予測に関する分析手順を解説しています。「どこにどのような生物や生態系が分布しているのか?」把握することは、生態学の基本的な問いです。ですので、生息適地モデルは便利な分析ツールです。また、地球温暖化や生息地改変による生物分布の変化や、各種の分布予測を重ね合わせて生物多様性の変動を定量する場合にも、生息適地モデルが重要な役割を果たします。今回翻訳した図書が、日本のマクロ生態学、保全生物地理学、システム化保全計画の発展に役立つことを期待してます。

それで、今回の記事では、生息適地モデルを活用した事例として、日本の生物分布の潜在的な分布(ポテンシャルマップ)と”実際の分布”を予測・比較した予察結果を紹介します。

日本の維管束植物と脊椎動物(哺乳類・鳥類・爬虫類・両生類・淡水魚類)の種分布を、物理的環境データでモデリングしました。以下が物理的環境の変数です。


【基本変数】
標高
標高の標準偏差
地質
傾斜角度
表層土壌の陽イオン交換容量
表層土壌の有機炭素量
表層土壌pH
陸地面積
Bioclimの全19変数(Bioclimは生物の分布生息にとって重要な気候変数)
全天日射量の年平均値
日照時間の年合計値
水域面積
海からの距離

そして、この点が重要なのですが、生物の生息地に影響を与える土地利用に関するデータも、生物分布モデルに組み込みました。以下が土地利用の変数です。


【土地利用変数】
自然林面積
二次林面積
人工林面積
自然草原面積
二次草原面積
農地面積
水田面積
都市面積
荒地面積
海浜面積
周囲5km以内の自然林面積
周囲5km以内の二次林面積
周囲5km以内の人工林面積
周囲5km以内の自然草原面積
周囲5km以内の二次草原面積
周囲5km以内の農地面積
周囲5km以内の水田面積
周囲5km以内の都市面積
周囲5km以内の荒地面積
周囲5km以内の海浜面積

上述の【基本変数】だけを用いた予測が、気候や地形要因からみた場合の、つまり、自然本来の潜在的な生物分布(ポテンシャルマップ)を表し、【土地利用変数】も組み込んだ予測が”実際の分布”を表します。

なお、種分布モデルは、本来生息していない地域にも分布すると予測される場合があります。偽陽性(false-presence )とか、コミッションエラー(commission error)と呼ばれます。そこで、分布予測には、地域レベルで作成された生物種目録データを用いた検証も行って、分布予測の精度を高めました。

結果は以下の通りです。各種ごとに分布予測して、それを重ね合わせて種数マップにしてみました。

下の地図は、維管束植物の潜在的な分布(潜在種数)を示しています。

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下の地図は、”実際の分布”(実現種数)を示しています。

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以上の2つの地図を比較すると、潜在的な生物多様性がどのように変化して”実際の分布”になったのか把握できます。それを表したのが下の地図で、種数の変動を示してます。

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この種数の変動の空間パターンを詳細に見ていくと、人工林、水田、農地、市街地などの土地利用(自然環境の改変)が、植物種多様性に大きな影響を与えていることが把握できます。

脊椎動物(哺乳類・鳥類・爬虫類・両生類・淡水魚類)についても見てみましょう。下の左の地図が”実際の分布”(実現種数)、真ん中の地図が潜在的な分布(潜在種数)、右の地図が、種数の変動を示してます。

哺乳類:実現種数には、水田、農地、草地、森林などの土地利用が影響を与えていそうです。

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鳥類:実現種数には、水田や市街地などの土地利用が影響を与えていそうです。

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爬虫類:実現種数には、農地や水田、市街地、自然林や二次林が影響していそうです。

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両生類:実現種数には、人工林、農地、二次草原、自然林、二次林、水田などが影響していそうです。

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淡水魚:実現種数には、農地、市街地、森林などが影響していそうです。

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なお、以下の記事では、土地利用の変遷(時代変化)に関係した生物多様性の変動(種数変動マップ)を解説しました。分析の方法は、今回の記事とほぼ同じなのですが、それぞれの利点や問題点があります。

以上の記事の解説は、過去数十年間の実際の土地利用の変遷を考慮した投影(projection)に基づくもので、より実態を反映した種数変動の予測です。実際、この40年で日本の土地利用形態は劇的に変化してしまった地域が多いですから。しかし、分布データの時代ごとの偏りのため(時代間で分布データ数に違いがあるので)、分布予測はデータ分布のバイアスを強く受けることになります。

今回の記事で紹介している種数分布地図は、全時代をプールした分布データに基づいてます。ですので、実現分布と潜在分布の対比による種数変動は、時代間データバイアスの影響を受けにくく、予測の信頼性は比較的高いと考えてます。

別記事に紹介した時代毎の土地利用変遷を考慮した予測と、本記事のような全時代をプールした予測を併用して、環境変動に関する生物多様性の変動を解釈するのがいいのでしょう。具体的には、全時代を通した生物多様性変動の空間的トレンドを見つつ、時代間の生物多様性変動の詳細なプロセス(土地改変に伴う種分布の変化)を検証するようなアプローチです。

注)本記事は、以下のプロジェクトと論文が元になっています(全てオープン/オープンアクセスです)。

環境省 環境研究総合推進費プロジェクト 環境変動に対する生物多様性と生態系サービスの応答を考慮した国土の適応的保全計画(4-1802)(代表:久保田康裕)
Lehtomäki J., Kusumoto B., Shiono T., Tanaka T., Kubota Y., Moilanen A. (2018) Spatial conservation prioritization for the East Asian islands: A balanced representation of multitaxon biogeography in a protected area network. Diversity and Distributions 25: 414-429. オープンアクセス
Kubota Y., Shiono T., Kusumoto B. (2015) Role of climate and geohistorical factors in driving plant richness patterns and endemicity on the east Asian continental islands. Ecography 38: 639-648 フリーアクセス
Kubota Y., Kusumoto B., Shiono T., Tanaka T (2017) Phylogenetic properties of Tertiary relict flora in the East Asian continental islands: imprint of climatic niche conservatism and in situ diversification. Ecography 40: 436-447 フリーアクセス



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