SNSという諸刃の剣(もしくは皆殺しの剣)

発言力があまりない発信弱者が、SNSという強力な諸刃の剣を手に入れたのが、不幸の始まりなのかもしれない。

独自コンテンツがないと、突飛なことをしたくなる

普通の人は、有益なことを呟こうにも、そんな情報は手元にありませんし、面白いことを呟こうにも、そんなに簡単には思いつきません。

その結果、パクツイ、著名アカウントへの突撃、炎上必至の自爆芸のいずれかを選んでしまうという不幸への道を驀進してしまう人が増えてしまっているように思います。

承認欲求を満たすために、話題になりたいと思う。話題になるために、過激なことをしてしまう。過激なことは、法に触れたり、世間様から眉をひそめられることが多い。
ということで、あさらさまな破滅の道を突き進むことになります。

違う世界の人と、触れ合ってしまう

また、SNSには「普段なら知り合わない/触れ合わない人達」がたくさんいるので、会話のプロトコルが合いません。
その辺りを理解しないでコミュニケーションを進めると、大事故につながってしまいます。
これは、「自分の周りで通じる論理が、すべてのSNSユーザーに通じるわけがない」という当たり前のお話なんですが、そもそも、それが当たり前なのだと気づくには、リアルな世界で触れる人たちと、SNSを介して触れる人たちが「完全に別コミュニティの人なのだ」と先に理解せねばならないので、なかなか難易度が高いんですよね。
良いとか悪いとかではなく「違う世界を生きている人」が、一堂に会している。分かり合えるかどうかではなく「SNSがなければ、存在自体を知ることもなかった考え方」に接しているという事実に、気付けるかどうか。

また、SNSでよく見かける「有名人/著名人には一定の責任がある」と言説は、あくまでも、「その人たちには影響力があるが故に、倫理道徳や法令に背くようなことを発信して扇動すべきでない」というようなことであって、「素人には発言の自由があるが、有名人には責任があるので常に発言を制限されるべき」という話ではありません。
別に、有名人が責任ある行動を取らねばならぬ、ということではないし、素人は発言に責任を持たなくて良いわけでもない。

そして、それはつまり、「素人は有名人/著名人に何をぶつけてもいい」という話には決してならないんですよ、ということです。
有名人も、ヒトです。

攻撃力が高すぎる武器は、己をも傷つける

SNSがない時代は、居酒屋でテレビを眺めてどんなにひどい罵詈雑言を投げかけていても、相手には届きませんでした。
しかし、今は、届く。SNSで。あるいは、レビューサイトへの投稿で。

強い武器は相手を傷つけると同時に、己をも傷つけ得るのだと、自覚しないとダメですよね。

もちろん、これは、有名人/著名人の側でも同じことは言えて「自分の論理が如何に正しくても、プロトコルが違う人が山ほどいる」ということを理解しないといけません。「(論理的に/法的に)正しいことを言ってるのに、お前らは、なぜそれを理解しないの?」というアプローチを取っても、これはこれで、SNSの先にいる相手には響かないわけです。

だから、その辺りが上手な人たちは、適度なところで幕引きするし、絡んできた相手が一線を越えたら弁護士介入で強制終了に持ち込む。

先鋭化する気持ち良さを知ってしまう

また別の角度で捉えると「先鋭化する気持ち良さ」の問題があるように思います。

先鋭化すると、仲間が増えます。仲間は、あなたを支持してくれます。肯定してくれます。気持ち良いです。
先鋭化すると、敵も増えます。敵は、あなたを攻撃しますが、それも、一つの「反応」です。承認欲求にとってはプラスに働きます。
また、敵の存在は、あなたの仲間たちを奮い立たせ、あなたと、あなたの仲間たちとの結びつきをより強固なものにします。

有名人、著名人でも、市井の一般人であっても、この傾向は同じです。

政権を批判する/礼賛する、親米/親中、左派/右派、リベラル/保守、お客様は神様/店にも客を選ぶ権利がある、ベンチャー最高/大企業にも良さがある、うどん/そば... などなど、テーマがなんであっても、先鋭化すれば、仲間が増え、敵が増えます。

たとえば、うどん派が先鋭化したとしましょう。

普通のうどん好きは
・うどん、おいしい
・今日も、うどんを食べた
・出汁がうまいと、うどんが引き立つ
とか言ってるわけです。

これが、先鋭化すると
・うどんこそが最高の食べ物
・他のもので炭水化物を摂取するなんて、信じられない
・そばとかありがたがってる奴は、日本人じゃない
とか、言い出します。

さらに過激派になると
・うどんは、関西だししかありえない。濃口醤油のうどんとか、舌が腐ってる
・カレーうどんなんて、うどんの良さを殺してる。カレーは米だろ。うどんの方に寄ってくんじゃねえ。
・いろいろトッピングしてるのは、素人丸出し。七味もバカ。刻んだ白ネギだけかけるのが通。それ以外はカス。
とか、身内であるうどん派まで叩きに行きます。内ゲバ。

その後、コンビニで売ってるカレーうどんに苛立って店員に暴言を吐き、七味屋さんに行ってうどんの良さを殺すなと抗議し、濃口醤油の製造元にクレーム電話をかけまくるわけです。

ここまで過激化すると、かなり気持ち良いと思います。まぁ、世の中、生きにくくなるとは思いますけど、コアな仲間に、承認欲求を満たしてもらいながら生きていくことができるでしょう。


まぁ、ここまで書いて、冒頭の見解に戻るわけですが、「発言力のない人」が、なにかしら発信し、さらには承認欲求を得ようとすること自体が、割と危険なことなんですよね。
そんなところに「SNS」というパワフルな殺戮装置が全国的に配られてしまったので、みんなで殺し合いをしているんじゃなかろうかと思うわけです。

ジャック・ドーシーがバトルロワイヤルのビートたけしに見えてきましたね。「今から、皆さんに殺し合いをしてもらいます」って奴です。

なんとか、身の程を弁えつつ、ほどほどの事故承認欲求を抱えながら、それなりに満足してこの世を生き抜いていきたいものです。自戒自戒。

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