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「一番伝わる説明の順番」の著者による「それなりに伝わる出版の説明」|商業出版のコツを考える

更新情報:2020/7/13に、有料エリアに追記・更新を行いました。

ありがたいことに、これまで4冊の書籍を販売させていただくことができました。とはいえ、残念ながら過去の著作4冊の発行部数を合計しても、10万部に少し届かない ”零細執筆家” です。印税だけで食べられるような売れっ子作家さんではありません。

しかしながら「複数の本を出している」「1冊はそれなりに売れた(6万部突破)」ということを周囲の方に知っていただいたことで、「自分も出版してみたい」「どうすれば本を出せるのか」「こういう企画は本になりうるか」というご相談を受ける機会が増えてきました。

そうしたご相談に端を発していくつかの企画が始まり、幾つかはそのままお話が進んで出版に至り、幾つかは出版に至らずに立ち消えになっていきました。

その経験を通じて「出版できるかどうか(正確には ”商業出版”ができるかどうか)」というトピックに関して、幾つかの判断ポイントがあるんだな、ということが僕なりに見えてきました。せっかくなので「本を出してみたい」「商業出版に興味がある」という方向けに整理し、noteとしてまとめてみた次第です。

このnoteが商業出版を志す方にとって、何らかのインプットになれば良いなと思います。
(と思って軽い気持ちで書き始めたら、約1.7万字の大作になってしまいましたので、僭越ながら後半は有料ノートにさせていただきます。すみません。)

前提:僕の知見、観測範囲、制約など

出版社さん:過去4作品の出版にあたって、3つの出版社さんとご一緒させていただきました。また、出版に至らなかったお話もいくつかありまして、その際には、別の出版社さんとお話をする機会もありました。

出版した本:前掲の通り、3つの出版社さんから4冊出版しています。全て、いわゆる「ビジネス本」の類です。
一番伝わる説明の順番(フォレスト出版):2018/6/8
数字力×EXCELで最強のビジネスマンになる本(翔泳社):2016/1/22
論理思考力×PowerPointで企画を作り出す本(翔泳社):2017/6/17
デキる人が当たり前に身につけている 仕事の基礎力(すばる舎):2016/11/19
※全て電子書籍版(Amazon、Apple Books(iBooks) など)も販売されています。

海外翻訳:上記のうち、「説明の順番」は台湾と韓国、「数字力」は台湾で翻訳出版が行われています

立場/スタンス:出版業界の”中の人”ではありません。従って、業界慣習や慣例等について、十二分に理解できていない可能性があります。
また、個別具体的な印刷部数等については、出版社との契約の関係上、正確には書けないことがあります。(可能な範囲での記述になります)
出版経験が”ビジネス書”に限られます。従って、娯楽小説、漫画等の商業出版に関しては、状況が異なることがあると考えられます。

想定読者:想定する読者層は以下です。
・(主にビジネス書を)出版してみたい、とお考えの方
・本って誰でも出せるの?出版して、儲かるの?など、出版に関して疑問をお持ちの方
・僕の知人で、「出版に関して僕に訊いてみたい」と思っている/いた人 ←メインターゲットです。

このnoteで解説すること

皆さんの興味範囲がどこにあるのかは分からないのですが、ひとまずは、以下のような項目を記述します。もし、ご要望があれば書き足していきます。

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1.出版に至る流れ(僕の場合)
2.出版できる/できないを分けるもの
3.出版社・編集者の役割
4.出版にかかる時間、工数
5.印税の仕組みと、現実的な収入額(儲かるの?)
6.海外翻訳時の印税
7.売れる本と売れない本の違い
8.出版を起点としたお金の稼ぎ方
9.まとめ:出版したいと思ったら、なにをすべきか
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1. 出版に至る流れ(僕の場合)

まず、僕の場合は、所属する会社のウェブサイトで、1000記事以上のブログ記事をアップしていました。

その中の幾つかの記事が、色々な編集者さんの目に留まり「この内容を深く掘り下げたら、”売れる本”になりそう!」というご判断をいただいて、「こういう内容・コンセプトで、こういう本に仕立てたい」と、ご提案して頂いたところから始まりました。

1冊目のテーマは「EXCEL」でした。編集者さんの琴線に触れたのは、このブログだったようです。➡  https://www.gixo.jp/blog/362/
※ブログ移行時のバグにより、一部の表示画像が正しくありませんがご容赦ください。

尚、このタイミング(2015~16年頃)は、EXCEL本の全盛期だったようで、相次いで3社さんからお問い合わせ・ご提案を頂きましたが、「書きたいことに近いご提案内容」であったことと、こちらからの「こういう風な内容にしたい」という要望に、できる限り寄せていただいた翔泳社さんと御一緒することになりました。
(とはいえ、先方の社内方針などもあり、編集者さんの尽力叶わず、僕の要望が通らなかった部分も多々あります。もちろん、先方もビジネスなので仕方のない事だと思っています。)

1冊目を出版後、書籍が出た、ということで「アウトプットを作る能力がある」という風にご判断いただき、出版社さんからの問い合わせが増えます。

エクセルというテーマでもう一冊書かないか、というご提案が多かったのですが、正直、エクセルに関してはお腹いっぱいでしたので、そう言う内容に対してはゴメンナサイさせていただいていたところ、「仕事術」の書籍執筆の企画が持ち込まれます。こちらも、会社のブログがキッカケでした。 ➡ ブログカテゴリ:考え方を考える

2冊目を出版後、1冊目を出した翔泳社さんから「PowerPointで一冊書けないか」というお話があり、3冊目を執筆。

もう執筆はしばらく良いかなと思っていたところ、少し毛色の違うアプローチでお話を頂いた「説明力」の企画をお受けして執筆したのが4冊目です。なお、こちらも会社サイトに掲載しているブログ記事 ➡ 考えた順序と説明する順序は違います を読んでのご提案でした。

つまり、ひとことで言えば、僕の出版のキッカケは
世の中に出しているコンテンツを見た先方からの提案
ということに尽きます。(コンテンツはブログ記事と執筆書籍)

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2. 出版できる/できないを分けるもの

幸運にして、複数回の書籍執筆の機会をもらった僕ですが、これまでに友人などから相談を受けて出版社さん/編集者さんをご紹介してきた中で、出版にこぎつけた企画とそうでない企画があります。僕自身の経験も踏まえて、その分かれ目となるポイントをまとめてみました。

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以下に、詳しく解説していきます。

A. 書き手(著者)に関するポイント

A-1)著者が、既に有名である
芸能関係の方や、政治家、ビジネス界で言えばホリエモンさんに代表されるような「有名な方」「著名な方」の場合、その人が本を出すということ自体が、すでに ”バリュー(価値)”があります。
最近では、編集者さんが有名だったりするケースもありますね。
この部分は、当たり前であると同時に、多くの人にとっては「アンコントローラブル(制御不能)」な要素ですので、この程度の解説に留めます。

A-2)わかりやすい実績/肩書がある
著者本人が有名ではなくとも、所属企業(過去も含む)や、一緒に働いた方が有名であったり、数字で表せるような実績があれば、出版につながりやすいです。
一昔前に流行った「人生で大事なことは〇〇で教わった」系のタイトル(〇〇には、大手有名企業のお名前が入ります)や、「マッキンゼー流」「Google式」「Amazonで学んだ」などがわかりやすい例でしょう。
あるいは、「ソフトバンク孫正義さんの側近として▲▲年間・・・」「楽天三木谷さんの腹心として■■個の事業を・・・」というような形式もあります。
実績の場合は「偏差値30から東大合格」とか「入社3ヶ月で〇〇を100件販売した」とか「借金〇億円から、3年で総資産✖✖億円への復活劇」などが、使いやすいブランドだと言えるでしょう。
他にも、「起業家」「医者」「弁護士」「外資系コンサルタント」などの肩書きが使えるケースはありますが、具体的な企業名や有名経営者のお名前、数字で裏打ちされた実績に比べると、弱いです。

B. コンテンツに関するポイント

B-1)誰かの役に立つ or 誰かが読みたいと思う内容か
当たり前なのですが、書籍には読者がいます。読者がちゃんと読みたい・興味がある内容か、ということが重要です。
これは、本のテーマや方向性によって変わってしまいますので、一概には言えませんが、基本的な考え方として「ちゃんと読者にとっての便益があるか?」と捉えてみると良いと思います。
多くの場合、人は、何かしらの困り事(コンサル的に言うと”課題”)を抱えています。それを解決したい、という時に「読みたい・役に立ちそう」と思うような内容であることが大切です。
例えば、家を買うかどうか迷っている、という人に対して「どういう家を買えば良いか」「どういう基準で選べばよいか」「住宅ローンとはどういうものか」などを教えてあげると喜ばれるでしょう。
あるいは、就職活動中の人に「就職するとはどういうことか」「給料をもらって働くことの意義」「一人前になるとはどういうことか」「キャリアをどう考えるべきか」みたいなことを伝えるのも、おそらく有用です。
まずは、自分の書こうとしている内容が、そういう「誰かの役に立ちそうか(困りごとを解決できそうか)」「読みたいと思いそうか(彼らの興味に合致しているか)」と考えてみると良いと思います。
※娯楽小説や漫画等の場合は便益という表現が適さないかもしれませんが、”余暇時間を充てる価値があるか”という風に考え、「読み手に面白いと思ってもらえるか」「読み続けてもらえるか(興味を喚起し続けられるか)」などの視点でチェックしてみてください。

B-2)その「誰か」は一定数いるか(出版ビジネスとして成立する人数規模か)
商業出版はビジネスとして成立する必要がありますので、先ほどの「読み手」が、ある程度のボリュームがいないと出版社がGo!という判断を下せません。
ビジネス書は初版部数が3000~5000部程度が中心だと思います。(場合によっては1500部などもあるかもしれません) 
多くの場合、増刷がかからないと出版社は利益が出ません。正確に言えば、増刷・再増刷と繰り返していくことで、利益が出ます。確証はありませんが、利益を出すためには1万部程度は売っておきたいところでしょう。
そうすると、最低1万人は読者層がいることが求められます。
しかし、1万人の見込み客全員が、その本を買うということはありえません。見込み客が10万人なら10人に一人、100万人なら100人に一人=シェア1%、1000万人ならシェア0.1%を取ることを意味します。
もちろん、見込み客が多ければ多い方がいい、という話になるわけですが、それはそれで、競合も増えます。当然ながら、競合は、書籍に限りません。先ほどの住宅購入や就職の例であれば「ハウスメーカー」「リクルーティング事業者」などのプレイヤーが無料で情報を出し、さらにはアフィリエイト記事なども数多く世の中に出ています。それと勝負しながら、お金を払って本を買ってくれるかどうか、も吟味する必要があるでしょう。

加えて、ターゲット層を大きく設定しすぎると、コンテンツとしての差別性も薄くなりがちなため、B-1で述べた「困り事」へのミート率が悪くなります。
極めて感覚的ですが、30~50万人くらいのコア層をターゲットに据えて、そこのシェアを1-2%程度切り取れそうなコンテンツである、というのが損益分岐を狙う=商業出版として企画が通る最低ラインでしょう。(なお、多くの場合、コア層の”周辺”に、サブ層(=予備軍)がいますので、そこに拡大させていくのが理想です)

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B-3)切り口、視点などに「目新しさ」があるか
コンテンツとして興味を喚起できそうか。想定読者が十分にいるか。という部分を幾ら突き詰めても、切り口・視点が「当たり前」であれば、本は買ってもらえません。
ビジネス書の場合、一冊の価格は1300~1500円くらいが中心です。先ほども書きましたが、現在は、無料で情報を入手する機会が沢山ありますので「わざわざお金を払ってでも買う」という選択をしてもらうのは、とても大変なことです。
拙著の場合は「説明にはカギとなる”順番”がある」「エクセルの使い方ではなく、”数字で考える力”が大事」「パワーポイントの使い方ではなく、”論理的に企画を組み立てること”が大事」「仕事術は色々あるが、ベースとなる”基礎力”を身に着けることが必要」という風な部分が、目新しさとして設定されています。

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C. 執筆能力に関するポイント

C-1)大量の文章を、一定の期間で書ききれるか:
執筆は、かなりの重労働です。文章を書くのが苦ではない(むしろ得意)、というひとでも、8万~10万字を1テーマで書ききった経験があるひとは、ほとんどいないと思います。
ブログで、だいたい1500~3000字。長くても5000~8000字程度です。連載形式で5回分書いても、短いものなら1万字程度、長くても3-4万字程度で収まってしまいます。それくらいの文章量しか書いたことが無い人が、8万字、10万字というボリュームのコンテンツを書くのは、想像よりも困難です。例えていうならば、10㎞走しか経験のない人が、フルマラソンを走るようなものです。つらいです。
従って、それくらいの文章量を書いたことがある、というのは、出版に際しては大きなアピールポイントになります。
また、出版する場合は、出版社の都合でスケジュールを切られます。もちろん、多少の融通は効かせてもらえますが、基本的には「決められた期限までに、しっかり仕上げること」が要求されます。締め切りを守る能力が証明されていれば、出版社/編集者は、あなたに執筆を依頼しやすくなります。
僕の場合、 2015年に公開した、このブログ記事(名著「人月の神話」を読み解く) が22回連載で合計7.4万字です。執筆経験の前に、これを書ききっていたことは、僕の「執筆能力」を示す良い材料になりました。

※ちなみに、このnoteが1.6-1.7万字です。作成した図版も10枚を超えていますが、着想から公開まで1日(作業時間は10時間程度)で作成しました。

C-2)論理構成や言葉選びなどが、他人の目に耐えるレベルに達しているか
どれだけ大量の文章を書いている実績があっても、文章としてのクオリティが低ければ、執筆する際には大きなハンデになります。テキスト(文字)だけで情報を伝える、というのは、極めて難易度の高い作業です。
反対に、語彙力の豊富さや、状況に応じて平易な表現ができるか、わかりやすい言い回しを選べるか、例え話(アナロジー)や用いる例が適切か、といったある種テクニカルな部分が整っていれば、出版に向けた強力な武器として出版社/編集者に認識されます。
また、もう少し本質的な部分としては「論理性」が大切です。僕を含む「コンサルタント」というような肩書で仕事をしている人が求められる論理性は、一般の方から見ると意味不明なこだわりになる傾向がありますが、そういうレベルでの論理性は必ずしも必要ではありません。しかし、8万字、10万字というボリュームで、一つのテーマ(もし、いくつかのサブテーマに分かれるにしても、大きなテーマは一つです)について記述する際に「論理構成が正しい、誤謬がない」ということは、最低ラインと言えます。
文章記述の能力の方は、出版社/編集者の方でカバーすることも可能(後述します)ですが、論理構成力が足りない場合は、書籍という体裁で世に出すことがかなり難しいと考えていただく方が良いでしょう。

このうち、最低2つ、できれば3つくらいを満たしていると、商業出版として成立しやすいです。また、売れている書籍を見た際に、上記のどの項目に当てはまっているか、と考えてみるとイメージが付きやすいと思います。

なお、この基準に照らし合わせると、僕の本が出版に至った(出版社の企画会議を通った)のは、以下のような評価結果だったからではないか、と思います。

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4冊出しても「A-1:有名」というところに関しては、これっぽっちも評価が上がっていないことを自ら明らかにするのはいささか悲しいのですが、事実は事実として受け止めていきたいと思います。
なお、「A-2:実績/肩書」「C-2:文章力」などに関しては、”企画を通す(出版を実現する)”という段階においては、出版社や編集者からみてどう見えるか、が重要ですので、その視点で自己評価をしています。(つまり、僕自身の文章力をピュアに評価した場合に◯なのか◎なのか、あるいは△や✖が妥当なのかという点は何卒ご容赦ください、というエクスキューズです)

また、ご相談を受けた中で、企画が実現したものを思い起こすと
・A-1(有名さ)が◯:特定の領域にはしっかり名前が売れている。
・A-2(実績) が◎:とても強力(話題性がある)
・B-2(想定読者)が◯:十分多そう、
という企画や、
・A-2(実績) が◎:十分に説得力がある
・B-1(役立ち度)が◎:とても幅広く役立ちそう
・B-2(想定読者)が〇:上述の通り、多くの人に役立ちそう
という企画が通っていました。

当然ながら、出版社の得意領域および編集者との相性などによって、どういう部分を見て、どの程度強く評価するかは変わります。しかし、ここで挙げた評価項目そのものは、あまり変わらない、というのが僕の印象です。

3. 出版社、編集者の役割

出版社、編集者さんの担う役割は、大きく分けると

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