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004.官能小説と一般小説を書き出しだけで見分ける力を養うnote

ここは、古今東西の様々な小説の一行目だけを読んで、それが一般小説なのか、或いは官能小説なのかを見分ける力を養うための場所です。
以下に示す4択の文章はいずれも、実在の小説の書き出しを引用したものです。
ひとつだけ隠された官能小説の書き出しを見極める訓練をすることで、あなたも官能小説とそれ以外の小説とを書き出しだけで判別することができるようになるかもしれません。


<Room.004>
次のうち、官能小説の書き出しを1つ選べ。


A.玄関のベルが鳴ったとき杉田夫人は冷蔵庫の掃除に余念がなかった。

B.男がその壺と出会ったのは、夏も終いの頃でした。

C.「これで最後の段ボールになります」引っ越し屋の青年が額から汗を流し笑いかけてきた。

D.蒼く澄み渡った夏空の下──。 この日、永田町に激震が走った。







<Room.004>解答

A.『干魚と漏電』/阿刀田高
B.『壺の魚』/幸田裕子
C.『コンカツ?』/石田衣良
D.『華と贄【供物編】』/夢野乱月 

解説

正解はD.『華と贄【供物編】』/夢野乱月 でした。
A. この情景はなんだろう。多くの人が冷蔵庫を掃除する婦人の後ろ姿を思い描くのではないだろうか。あるいは庫内の拭き取りに忙しい婦人の横顔ではないか。「余念がなかった」という言葉が官能というよりはある種の狂気、固執性を感じさせると読めば選択肢から除外できる。B.「男」が「夏の終いに」出会う「壺」といえば、もうそういうことでしょう。そういうメタファーなんでしょう。と思ったあなたが変態なだけです。 C.官能小説の書き出しとして一つの理想形と言えるのではないだろうか。汗ばんだ引っ越し屋の青年、最後のダンボール、あとはもうアレしかないでしょう。これが正解でない理由が私にも解らない。D.永田町と聞いてエロを連想する日本人の方がおかしい。これは設問として意地悪すぎると言わざるを得ない。ましてやそこに激震が走った瞬間、我々の脳は「地上の星」が自動再生されるように作られているのだから。


※おことわり

以上は、あくまでも私的な言葉遊びであり、原作者、作品を貶める意図はありません。

「(前略)官能小説は性欲をかきたてるためのものではなく、もっと感性の深くにある淫心を燃えたたせるものです。(後略)」 

永田守弘 『官能小説用語表現辞典』ちくま文庫


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