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003.官能小説と一般小説を書き出しだけで見分ける力を養うnote

ここは、古今東西の様々な小説の一行目だけを読んで、それが一般小説なのか、或いは官能小説なのかを見分ける力を養うための場所です。
以下に示す4択の文章はいずれも、実在の小説の書き出しを引用したものです。
ひとつだけ隠された官能小説の書き出しを見極める訓練をすることで、あなたも官能小説とそれ以外の小説とを書き出しだけで判別することができるようになるかもしれません。



<Room.003>
次のうち、官能小説の書き出しを1つ選べ。


A.台所でスパゲティーをゆでているときに、電話がかかってきた。

B.洋服が詰まった段ボール箱を持ち上げる。

C.朝、電話で隆志が、私のでてくる夢をみたと言う。

D.その家を狙ったことに深い根拠はなかった。





<Room.003>解答

A.『ねじまき鳥クロニクル』/村上春樹
B.『マスクをつけた未亡人【蜜にご用心】』/相内凪
C.『号泣する準備はできていた』/江國香織
D.『手紙』/東野圭吾

解説

正解はB『マスクをつけた未亡人【蜜にご用心】』/相内凪 でした。
A.畏れ多い出典というほかない。「台所」「スパゲティー」「電話」という組み合わせが生活感の中に程よい湿度を感じさせる。この湿度が高すぎないことが「官能」を予感させるポイントかも知れない。B.引越しか?引越しなのか?引越しといえば官能小説だ。間違いない。しかし。段ボールを持ち上げる描写である必要が果たしてあるだろうか。何故わざわざその動作だけを取り出した?これは純文学の匂いがする…。我ながら良い設問だと思った。C.何故だろう。「隆志」って字面がどこか子供っぽい気がする。「隆」ならそんなことはない。「敬」「孝」は絶対白髪。「貴」は短パン坊主。そんな訳で息子「隆志」とママのお電話から始まる話?そういうのもありそう…。D.こういう官能小説もあるよね。官能というかもはや犯罪物と括った方が正確そうな。犯罪物の作家がやたらと丁寧に濡れ場を描写すると後々記憶が混濁することがあって困る。濡れ場が良い犯罪小説なのか。犯罪がモチーフの官能小説なのか。面白ければどちらでも良いのであるが。

※おことわり

以上は、あくまでも私的な言葉遊びであり、原作者、作品を貶める意図はありません。

「(前略)官能小説は性欲をかきたてるためのものではなく、もっと感性の深くにある淫心を燃えたたせるものです。(後略)」 

永田守弘 『官能小説用語表現辞典』ちくま文庫


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