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「全方向感動体験!」ラスベガスのSphereがスゴイわけ

ラスベガスの新エンタメベニュー

2023年、ラスベガスに完成したライブエンターテイメントアリーナ、「Sphere Las Vegas」。映像を見た人もいるかも!?
名前の通り球体型のアリーナで18,600席、立見席を入れると20,000人が収容可能です。コンサートやライブイベントに特化した高さ112m、幅157mの最上級の映像と音響を届けるアリーナとなります。
当初建設予算は12億ドルの予定でしたが、完成までに23億ドル(約3,400億円)かかったとのこと。2万人クラスのアリーナとしては破格の費用で、ラスベガス史上最も高額なエンターテイメント施設となりました。これは同じラスベガスにある65000人収容のAllegiant stadiumよりも高額なのです!
施設運営は、ニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンを所有するMSG社系列のスフィア・エンターテインメントが行っています。
イメージが付かない方は、まずはこちらをご覧ください!

唯一無二!最新鋭技術の結晶

まずはインパクトある外観について。球体型施設の外壁にはLEDビジョンが張り巡らされ、圧倒的な体験価値を生み出しています。煌びやかなラスベガスの街並みの中でも遠くからスフィアを一目で見つけることができます。圧倒的な視認性を獲得することもエンタメベニューにとって重要なファクターとなります。独立記念日やクリスマスなど様々なシーズンに合わせた映像を流すことができ、瞬く間にyoutubeやinstagramで世界中に拡散されました。

外壁LEDの拡大写真。外壁のLED照明のドット間隔は意外と広い。

では内部はどんな世界なのか。アリーナ内の壁面には、観客を覆いつくす世界最高解像度のLEDスクリーン(15000㎡・16K解像度)を設置しています。演者と映像が一体化する演出を売りとする設計になっており、音響においてもスクリーンの背後に16万個の超指向性スピーカーを設置することで、個々の席ごとに計算された最高の音質と音量が届けられる技術が詰め込まれています。映像コンテンツが必須なことから、インハウスのクリエイティブチームが制作しているそうです。TOPアーティストの誘致と、Sphereでしか表現できない、高い映像品質が求められます。
実際にU2のライブを見に行きましたが、リアルタイムで演者の映像を壁面に投影し、その曲に合わせた世界観をを作り出しています。舞台下に何台もモニターがある部屋をつくり、操作している様子が伺えました。ラスベガスでは著名アーティストが数か月滞在し、毎日公演を行うツアーを組むことが多く、その稼働率故に高額で高品質な映像・音響制作が可能になると考えられます。ちなみに、U2は当初2023年9月から12月までの25公演の予定のところ、大好評で2024年3月まで15公演が追加されました。2023年に行われた25公演は、41万3,000枚のチケット販売で1億5,980万ドルの興行収入を記録したとのことです。

U2のライブ。舞台と壁面の映像が融合した没入体験を提供している。
ステージの演者が壁面画像にも同時に投影される演出。

ちなみにコンテンツはロサンゼルス近郊にあるスフィア・スタジオで開発されています。スフィア・スタジオは、プロダクションとオフィススペースを備えたSphereのミニ版(4分の1のスクリーンも備える)で、MSGスフィアのオリジナルコンテンツと没入型体験の開発を行う施設となります。

公演が無い日も楽しめるラスベガスの新観光名所

公演が無い日も映像コンテンツを楽しむことができるシアター「postcard from earth(約50分・3~4回/日)」を上映しています。5000~10000人(約15,000円/人)が毎公演ごとに来場し高い収益を実現しています。客席を覆いつくすビジョンを有効的に使った映像表現が観客を魅了します。地球上のあらゆる自然や都市景観が映し出されます。中でも地平線が見えるような平原や、海原など自然景観の映像は圧倒的で、それに合わせて座席が振動したり、風が吹いたり、ほのかに香りが広がります。このようなハプティック技術が会場の座席のうち10,000席に組み込まれているそうです。ただし、球体のビジョンなので、座る位置によってはいびつに見える造形もありますね。

アリーナ内にはスイートBOXが23部屋完備されています。スポーツアリーナに比べて、食事系の店舗は少ないですが、バーとグッズショップは各所に配置され、ペットボトルや缶飲料は無人決済カウンターもあります。コンサートイベント中でも自由に動き回り、好きな飲み物を買いにいくことができることは長時間のライブで重要なポイントになります。
実は建物の周りの敷地は広くないため、退場時は警察車両も一時的に出動し車道2車線を封鎖し、歩行者ゾーンにするなど混雑を緩和する柔軟な運営手法も見て取れました。これは日本のスタジアムやアリーナ運営のヒントにもなりますね。おかげで2万人が滞ることなくスムーズに退場していきました。

アリーナスタンドの下部にあるバーラウンジ。コンサート中も自由に飲食が可能。
直通のエスカレーターと広々としたコンコースが入退場の混雑緩和にもつながる。

Sphereの本質は何か?

Sphereは圧倒的な映像と音響を体感できる、唯一無二のアリーナであることは間違いありません。しかし、コンテンツの制作には相当な時間とお金を費やす必要があります。実際に、ロンドンに第二のSphereを建設する計画がありましたが、景観などの理由もあり正式に中止となりました。
仮にSphereの双子ができれば、同時配信技術により、胸を突き刺す音響と没入できる映像は本質的な「体験価値」として一か所に留めず提供できるかもしれません。その可能性を示唆しているのがSphereの本質ではないでしょうか。
ラスベガスの唯一無二な存在であるべきか、世界中にSphereの兄弟をつくり、最高峰のエンタメを同時に多くの人に届けるべきなのか、これから様々な議論が生まれるでしょう。
将来の映像体験や配信技術などが日々議論されるなかで、VRゴーグルをかぶって視聴だとか、手元のデバイスで選手のスタッツを見れるとか、技術ありきの話はたくさんありました。しかし、これだけ多額の費用を投じた世界最先端のテクノロジーも、あくまで表現の方法論ではないでしょうか。
本質はここでしか表現できないアーティストやコンテンツのコンセプトを観客へ届ける「コミュニケーションデザイン」であり、Sphereは今後のライブエンターテイメントの在り方を示唆するアリーナなのです。
U2はSphereでの公演に18ヵ月もかけてコンセプトを練り上げていったそうです。単純に既存のアーティストやスポーツイベントを誘致して興行を行うだけでは更なる顧客満足は達成できない時代が到来しています。各地のスタジアムやアリーナにおける付加価値づくりに注目です!

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