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5つの視点で見る 高橋喜代史展「言葉は橋をかける」インタビュー

高橋喜代史の《ザブーン》は2020年に『第3回本郷新記念札幌彫刻賞』を受賞。それを記念し、2021年10月1日(金)から2022年月1月16日(日)まで北海道札幌市の本郷新記念札幌彫刻美術にて、「高橋喜代史展『言葉は橋をかける』」を開催しています。

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今回は、高橋喜代史の本展示会に対する思いから、作品作りやテーマについての考え方などを5つの視点から伺いました。

視点1 「言葉は橋をかける」とは?

――本展覧会の「言葉は橋をかける」というタイトルの意図を教えて下さい。

高橋:僕は言葉を、かけ橋のような存在と捉えています。
言葉には人の「共感を育む」「理解を深める」「関係性を結びつける」力があり、“橋をかけるよう”な存在であると考えています。その一方で、言葉には「関係性を壊す」力もあり、 “壊れたかけ橋”として存在することもあります。
僕は、そういった言葉の多面性・両義性に興味があり、言葉や文字を扱う作品を作っていると思います。


視点2 彫刻作品《オノマトペシリーズ》について

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――「擬音語・擬態語(オノマトペ)」という言葉の表現はどういった存在でしょうか?

高橋:僕は学生時代から作品で言葉を扱っていましたが、前提として「言葉にはどうしても意味が付与されてしまう」ということに自分なりの課題がありました。かといって、この世に存在しない言葉、例えば「んのへ」のような、無意味な言葉を作品にしてもつまらない。そんな時に、「ドーン」という擬音語がドーンと壁から出ている作品を思いつきました。

擬音語は言葉自体には特に意味はないですが、言葉として存在している。そして日本に住む多くの人は漫画などでその言葉の意味や使用されている背景がわかると考えました。
また、音を模した言葉を扱う事で “音のないサウンドアート”のようにもなるし、壁から突き出すという形状も面白いなと思い、擬音語・擬態語をテーマにした《オノマトペシリーズ》を制作していました。

――彫刻作品《ザブーン》を契機に第二ステージへ向かったとのことですが?

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高橋:《オノマトペシリーズ》はインパクトとユーモアがあり、政治性の無さ(少なさ)もとても気に入っていたのですが、彫刻作品《ザブーン》の構想の際にその意味が揺らぐことになります。「ザブーン」は2007年にNYの海で遊んでいた時に思いついたものでした。しかし2011年に起こった東日本大震災から、このアイデアを封印することにしました。「ザブーン」という擬音語に震災を想起させる“暴力性”が付与されてしまったと考えたからです。

それから5~6年たったある時、何がきっかけというわけでもないのですが、ふとした時に「ザブーン」の着想が「海と遊ぶ音」「人が波に向かって飛び込む音」であったというアイデアの原点に立ち返りました。

「自然の脅威」でもあり「海で遊ぶ楽しさや喜び」「海の恵み」でもある「ザブーン」という擬音語。その“両義性”を大事にすることで、その複雑な感情を併せ持つ作品になれるのではないかと。

震災を想起させる彫刻作品を公共空間に置くことの暴力性についてはやはり考えました。が、「自然とどう向き合いどう付き合っていくか」、「自然との共生や公共性」「公共彫刻とは何か?」といった自身や社会への問いも含めて多義的に考えていけるテーマがこの作品に内包されていると思い、今回彫刻賞に応募するに至りました。

視点3 映像作品《言葉をせおう》について

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――今回展示されている映像作品《言葉をせおう》について質問です。
作中、作家が「人はみなそれぞれのカンバンをせおう」という看板を背負われていますが、その言葉の意図を教えて下さい。

高橋:日本における看板には2つの意味があります。
屋外などで広告や宣伝として使用される本来の用途としての看板の意味。江戸時代の歌舞伎用語として劇場で掲げられた看板の1枚目に主役、2枚目に色男、3枚目に道化が描かれていたことから役割や立場を表す意味です。
今作の「人はみなそれぞれのカンバンをせおう」という言葉は、後者の意味を表しています。看板役者や看板娘、看板作家など、その舞台や店や組織を代表する看板であり、現代社会において人はみなそれぞれ自分の看板をかかげているという考察です。」


――カンバンをせおっているのでしょうか、せおわされているのでしょうか

高橋:ウォーホールの有名な言葉に「人は誰でも15分だけ有名人になれる」というものがありますが、現代のSNS社会においては、すでにその言葉は凌駕されています。過去の言動も他者に監視され、これまでの言動を一生背負う責任を課せられて、知らない誰かに炎上させられるリスクを抱えている。「人は誰でも有名人にされる」息苦しさがあるのではないかと。

カンバンを「せおっている」のか、「せおわされているのか」。
映像を見ると、その宙ぶらりんの状態がよりダイレクトに伝わると思います。

視点4 映像作品《10万年をせおう》について

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――今回の展示で、おすすめ作品はどれですか?

高橋:新作の3本の映像作品《GOOD NEWS》、《言葉をせおう》、《10万年をせおう》はどれも新しい挑戦と次への布石・展開の起点になっていてお気に入りです。
その中でも、一番のおすすめ作品は《10万年をせおう》です。

この作品では、これまで扱ってこなかったいくつかの手法で制作しました。僕自身も、けっこう悩み迷った末に乗り出した“新しい挑戦”になっています。

――《10万年をせおう》はかなりリスキーな題材の作品だったかと思いますが、このような作品に取り組むことを怖いとは思いませんでしたか?

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高橋:正直、色々と怖いですが、「迷ったら怖い方を選ぶ」という人生の指針を、23歳の時の人生初個展を開く時に決めたので迷いはなかったです。

この作品は今やるべきだし、代表作になる手応えを感じながら制作しました。
このような政治的な問題を扱うことの様々なリスクも全部ひっくるめて「せおった」作品だと思います。

視点5 「彫刻作品」と「映像作品」

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――本展示では、「彫刻作品」と「映像作品」、大きく分けて2種類のタイプの作品が展示されていますが、この2作品の関係性を教えてください。

高橋:僕は彫刻も映像も、造形的な制作だと思っています。とくに映像は動くので「タイムライン(時系列)」がある。それを編集する事は無限の可能性と組み合わせの足し算と引き算があるので、とても立体的な作業です。

これまで映像でも彫刻でも一貫して「言葉の多面性を造形する」という軸で制作してきました。今回の個展では、立体作品も映像作品も、もう一段階踏み込んで「言葉の両義性」について考察しています。

最初の打ち合わせで「彫刻賞で彫刻美術館での個展なのですが、本展を映像作品を主軸に展開させたいと考えていますが、どうでしょう?」と館長の吉崎さんと学芸員の岩﨑さん、平井さんに相談したところ、全く問題ないと言っていただけました。
本郷新は公共空間に彫刻を設置してきた作家で、私の映像作品も公共空間でのパフォーマンスをしているものが多く「公共」というテーマに共通性があると、僕も気づいていなかった本郷新と僕を繋げる文脈を吉崎さんに言ってもらえたので、迷わず映像を思いっきり展開できました。

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高橋喜代史展「言葉は橋をかける」は2022年1月16日(日)まで開催です。
この機会をお見逃しなく。

【イベント詳細】

高橋喜代史展「言葉は橋をかける」 第3回本郷新記念札幌彫刻賞受賞記念
会期:2021年10月1日(金)~2022年月1月16日(日)
  ※臨時休館に伴う開催日数の縮小を受け、会期延長
会場:本郷新記念札幌彫刻美術館(札幌市芸術文化財団)
住所:北海道札幌市中央区宮の森4条12丁目
公式HPhttp://www.hongoshin-smos.jp/d_detail.php?no=139
休館日:月曜日(祝日等の場合は開館し、翌日休館)、年末年始(12月29日~1月3日)休館)、1月11日(火)
開館時間:午前10時~午後5時(最終入館は午後4時30分まで)

観覧料
一般 500(400)円、高校・大学生 300(250)円、中学生以下 無料
※( )内は10名以上の団体料金
※65歳以上は当日料金が400(団体320)円になります。年齢の分かるものをご呈示ください。

【アーティスト詳細】

高橋 喜代史 TAKAHASHI Kiyoshi
1974年、北海道妹背牛生まれ。1999年、CAIアートスクール卒業。主に言葉や文字を扱い「接続と分断」を主題に作品を制作。札幌を拠点とし、主な展覧会として、フランス、ニュージーランド、北アイルランドでの個展、カナダ、ドイツ、中国でのグループ展など国内外で活動。1995年、ヤングマガジン奨励賞。2006年、「第23回産経国際書展」入選。2000年、ビッグコミックスピリッツ努力賞。2010年、JRタワーアートボックス 最優秀賞。2020年、第3回本郷新記念札幌彫刻賞。
2012年より500m美術館の企画、札幌駅前通地下歩行空間でのPublic Art Research Center [PARC]の企画やThink Schoolの企画運営など現代美術のプロデュースも行う。2015年一般社団法人PROJECTA設立。2017年よりnaebono art studio運営メンバー。

(文:企画3期・制作5期 内田里沙/写真:本郷新記念札幌彫刻美術館(札幌市芸術文化財団)/編集:企画2期 わたなべひろみ)

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