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シンクスクール卒業生インタビューvol.1|おぎのようこさん【前編】

北海道小樽市、小樽駅裏手の急な坂道を登ったところにトコトコ荘という古民家を利用したスペースがあります。トコトコ荘の運営に携わるメンバーの一人がシンクスクール企画コース4期・制作コース3期卒業のおぎのようこさんです。前編ではおぎのさんにトコトコ荘・サカノマチ学舎のことを中心に、トコトコ荘を一緒に運営するハシモトツグミさんを交えてお話を伺いました。


小樽には若者の居場所がない!? 

――2020年春にスタートしたトコトコ荘ですが、どのようないきさつで始められたのですか?

おぎのさん:トコトコ荘は私とハシモトともう一人ミネオの3人でtagayasu company(タガヤス カンパニー)というチームを組み、基本的な運営をしています。3人はもともとオタル若者ビレッジという若者を中心としたイベント企画をするコミュニティで活動していました。ずっと、公共施設などで場所を借りながらイベントなどをしてきたんですけど、やっぱり拠点となる場所があった方が活動しやすいなと。みんながふらっと行ったり来たりして、ほっとできる家みたいな共同リビングみたいなおうちがあったらいいよねということでトコトコ荘をやろうっていう話になりました。
高校生の頃から感じていたのですが、小樽ではまちの中にいても若い人の居場所がないんです。若者自体も少ないし、遊ぶ場所もない。私は大学進学で一度小樽を離れましたが、戻ってきてもそういうまちの様子は変わらなかった。だからやっぱり、ほっとできる場所があったらいいなと思って。

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――古民家を一軒借りて運営するのは、相当思い切りがいることだったのでは?

おぎのさん:大変です。でも、もう1人不登校関連の支援をしている方が運営をバックアップしてくれることになって。

ハシモトさん:場所を借りてやろうと考えた時に、若者のイベントのための場所がほしいというのと、不登校の子たちに場所を与えてあげたいという気持ちの2つがありました。じゃあ、ひとつの建物でその両方をできるのではと思っていたところ、不登校関連の支援をしている方がバックアップしてくれるということになり、それが後押しになりました。それならちょっと覚悟決めてやってみようかなというのが大きかったと思いますね。

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――運営の体制はどうしているのですか?

おぎのさん:基本的にはハシモトが常駐してくれて、サカノマチ学舎を平日の昼間をメインに開け、イベントの時はいろんな方が来ることも多いので、3人でできるだけ回しているという感じです。

ハシモトさん:家賃は管理している私たち3人と不登校関連のサポートをしてくれている方と折半という形で払っています。その他、サカノマチ学舎にマンスリーサポーターの方が何名かいらっしゃるので、そのお金で、例えば本を買ったり、こういう机などの備品を買ったりしています。

――運営費用はほぼ持ち出しということですよね? 長く続けていこうと考えると大変ではないですか?

ハシモトさん:完全に寄付に頼るというのはまだちょっと遠い話ですけど、サポートしてくれる方も少しずつ増えてはいますしなんとか。まあ自分たちの負担額で考えると、ちょっといい習い事してる……くらいの感じなので。


「リアルな場所」ではなくても、心のよりどころになる場所に

――トコトコ荘、サカノマチ学舎を開いてから中高生はどのくらい来ていますか?

ハシモトさん:オープンと同時期に新型コロナウイルスによる外出自粛要請が出されたこともあり、正直、ほとんど来ていないのが現状です(2021年1月現在)。ただ、数人は来る予定でいる子がいたり、SNSでつながっていたり。行きたい時に行ける場所としてずっとあり続けることが大事なのかなと思っているので、今は来られなくてもまあいいかという気持ちです。

おぎのさん:不登校の子たちは昼間、家以外にいられなかったり、図書館にいればいたで「学校に行かないの?」と声をかけられたりと本当に居場所がない。中高生くらいの子たちって自我が芽生えてきて親離れしたくても、親のいる家から離れていきなり社会に出ていくのはハードルが高いのかなとも思っていて。次へのステップのひとつとしてここで過ごして、勉強してもらったり、自由にしてもらったり、もしかしたら家でリラックスできない人もいるかもしれないから、安らげる場所にもなったらと。

ハシモトさん:何もしなくていい場所になってもそれはそれでいいなとも思ってます。

――何もしない場所ですか?

ハシモトさん:トコトコ荘をオープンする頃に『居るのはつらいよ ケアとセラピーについての覚書』(医学書院刊)という本を読んでいて。その中に、「何もしなくていいと言われても、つい何か役割がほしくなってしまうものだから、意外と何もしないでいるっていうのは大変だ」というようなことが書いてあったのが印象的で。こちらから「何もしなくていいよ」と呼びかけてトコトコ荘が「何もしなくても気兼ねのない場所」になったらいいなあと。

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――何もしない場であるために心がけていることや、準備していることはありますか?

おぎのさん:トコトコ荘の中には私設図書館があります。そこで、本を読んでいるフリをしていてもいいわけです。来てくれるきっかけとして「図書館に行くんだ」という状況だけは整えておいて。

ハシモトさん:それから、なるべく寛げるようにと、ジョイントマットを敷いてクッションをいっぱい置いて、そのまま床に座ったり、奥の畳の部屋でゴロゴロしたりできるようにしています。
あと、常駐している私自身が誰かと一緒でもしゃべらなくても気にならないタイプなんです。だから、私がぼーっとしていることで、ここに来た子たちもぼーっとできればいいという気持ちでいます。

保護者の方たちと話していると、「どうにかしなきゃいけない」という心配がやはり強くて、それが本人へのプレッシャーのようなものになっていることもあるようなんです。保護者の方もつらいし、本人もつらい。だから、家の中で煮詰まってしまっても、こういう場所で「別にいいんじゃない」っていう無責任な大人がいるのって大事なのかなと思うんですよね。親や先生の隙間みたいなところを埋める大人が。

おぎのさん:私たちが今28歳という年齢でここを開いているのにも大きな意味があるのかなと思っています。自分が中高生くらいだった頃にも、自分たちよりもちょっと大人で、でも、親ではないという人が近くにいたらよかったなあと思うんですよ。

そんなことを考えつつ、運営の形は常に変わっていっています。開ける時間を変えて、お試しで普通に学校に通っている子たちも来られるようにしてみようというのもやってみています。
私たち3人には不登校の経験はないんです。「行きづらいなぁ」とか「居場所ないなぁ」と思ってはいたけど、学校には行って高校卒業したので。でも、不登校になる、ならないってそんなのわからないじゃないですか。自分がなったかもしれないし。それなら、もしそういうことになったときの保険を作っておいてサポートしてあげるのは大事かなと。

ハシモトさん:大きな声では言えませんけど、そんな子たちがちょっと学校をサボって来てくれてもいい。学校をサボること自体は正しくないかもしれないけれど、それで少しでも救われるのならいいのではないかと。自分たちが大人になってから、どれだけ私たちは「こうあらねばならない」に縛られていたんだろうと感じているので、「正しくあらねばならない」だけが全てじゃないんだよと伝えてあげられれば。
トライ&エラーじゃないですけれども成り行きにまかせて、試行錯誤しながら続けている感じですね。

トコトコ荘

サカノマチ学舎

tagayasu company(タガヤス カンパニー)

(取材:ThinkSchool編集部/文:企画2期わたなべひろみ/写真:ThinkSchool講師 今村育子)

後編はこちらからどうぞ




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