見出し画像

「まちづくり」ってなに? 気づくことで身近に感じる 出張Think Schoolまちづくりの入口編 「まちのひとと作り育てる、まちの居場所」レポ

アートとまちづくりを学ぶシンクスクールは、2018年11月「さっぽろアートステージ」に「出張Think School」として参加しました。卒業生・現役生の見たい! 聞きたい! 聞いてほしい! という思いから始まった講義の第2弾は「IKEBUKURO LIVING LOOP」の企画運営をはじめ池袋のまちづくりをなさっている飯石藍さんをお迎えしました。その講演についてレポートします。

講師の飯石藍さんは、遊休化した公共施設や公共空間の活用、マッチングを進めるためのメディア『公共R不動産』の立ち上げから参画をし、現在はメディアの運営だけでなく、自治体からの公共空間の活用に関する相談や企画、コーディネートをしています。全国各地のまちで公共空間の活用に関するプロジェクトに伴走者として携わりながら、地元東京都豊島区の公園“南池袋公園・池袋グリーン大通り”の企画、事業推進など、街のプレーヤーを巻き込んだまちづくり会社nestの取締役としても活躍されています。


画像1

それでは池袋のまちに携わることになったきっかけはなんだったのでしょう。

メディア運営としての伴走者からプレーヤーへ

「2014年、民間有識者組織の『日本創成会議』が発表した『消滅可能性都市』(2040年には20~39歳の若年女性が半減し人口を維持できない)に豊島区が東京23区で唯一選ばれました。そこで豊島区として、女性にやさしいまちづくりなどの女性向けの政策を考えはじめました」(飯石さん)

その頃、飯石さんは公共R不動産の立ち上げに参画し、豊島区のシェアハウスに住んでいました。一軒家での8人暮らし。シェアハウス内にコミュニティがあり、遊びに来た人、集まってきた人たちでパーティを開いたりいろいろな活動をしたりと充実した生活を送っていたそうです。
豊島区在住であるとはいっても…

「豊島区、大変そうだなあって思っても、自分とは関係ないことだと思っていたんですね。豊島区への関心はゼロ、むしろマイナス。遊びに行くのは豊島区の外という日々でした」(同)

しかし、「豊島区は23区のうち最高の空き家率」……意外にもこれが飯石さんの関心をひいたのでした。

「人口が減って空き家が増えてどうなっていくんだって、そろそろ私にとっても他人事じゃなくなっていきます。池袋は都会と思っていたら、少し裏通りに入ると空家、空き店舗だらけなんです。そして数年もすると再開発で無個性にピカピカになっていくんですね。でも、私としては今の古いものが残る街並みがすごく好きなんです。人の営みが見えるし、人に会いに行ける関係性もあるまちなので。この街並みや関係性を残したり、こういう場所で何かできないか、と思っていました」(同)

そこで飯石さんは…

「楽しく暮らせるまちに自分でしていくにはどうしたらいいかなと考えました。
まずは、まちの面白いことを探そうと、トークイベントをまちの人達と一緒に企画し始めます。豊島区に住んでいて、何か活動をしている面白い人を月に5人集めて毎月トークイベント(としま会議)をやったんです。お寺の住職さんとか、カフェの店主、地元企業の社長とか、スーパー主婦。まちで面白い人を探し、イベントに出てもらうことを繰り返して、開催回数30回、スピーカー140人、来場者のべ1500人位が集まるようになりました。
このイベントに参加した人って、豊島区というまちにあんまり愛着を持っていなかった人たちだったんじゃないかなと思います。でも、よくよく探したらこんな面白い人たちが豊島区にいるんだって気づき、同時に、私たちもお客さんもみんな豊島区自体に興味と愛着を持ち始めるようになっていきました。
まちのことを考えて行動している人が身近にいるということを実感できましたし、そんな人に繋がっていくことが、としま会議そのものの価値だったなということで、このイベントをきっかけに、みんな仲良くなっていくんです。近所だし、知り合いも増えていって、そこからいろんなプロジェクトがまちで生まれていきます」
(同)

それまで、メディアを運営する側に立ちプロジェクトの伴走者として活動してきた飯石さんが、「豊島区の空き家率」がきっかけで、プレーヤーとして活動しはじめた瞬間でした。プレーヤー飯石さんの誕生ですね。

画像2

まちの人たちとの小さな活動が南池袋公園リニューアルのプロジェクトへ

まちの人たちと楽しむための小さな活動を進めていくうち、飯石さんにある相談が持ちかけられます。

それが南池袋公園リニューアルでした。

当時の南池袋公園は池袋駅ターミナルから歩いて5分と好立地にもかかわらず、鬱蒼と木が繁り、治安も悪く、子どもたちが遊んでいる奥でホームレスの炊き出しなどが行われているような場所だったそうです。そして近くにはラブホテルが乱立していたとか。

豊島区ではこの場所をリニューアルする計画が持ち上がっていました。それはまちの問題点を一挙に解決するという壮大な計画で治安のよい場所にすることはもちろん、子連れで憩える場所にしたい、路上駐輪問題を解決したい。

そこで、地上は隠れるようなところがないようなきれいな芝生の公園にし、飲食店舗を入れることで新しいまちの人たちが集まれる場所をつくろうとプランが考えられました。さらに、地下には駐輪場とちょうど敷地を探していた東京電力の変電所を埋め込みました。
実は、これだけの公園になるとかなりの維持管理費がかかります。東京電力からは変電所の占有料が区に支払われます。また、東京メトロの地下鉄も公園の下を通っていることからその占有料、さらに地上にできたカフェレストランからも賃料が支払われます。これらにより、税金に頼らず公園の維持管理ができるようになったそうです。

こうして南池袋公園は2016年4月にカフェレストランのあるクリーンな公園に生まれ変わりました。
その時に出店することになったカフェが地元のカフェだったことも大切なポイントだったようです。

画像3

ハードも大事だけれどそれ以上にソフトが大事

南池袋公園リニューアルオープン1週間前、出店予定のカフェレストランの社長さんから常連客だった飯石さんは声をかけられたました。

「カフェの社長から、『ただ公園が出来て、はい、おめでとうではなくて、動き出したあとの方が実は大事。だから、まちの人と一緒にまちの人がもっと使えるような動きをどうやって作ったらいいんだろう』という相談をされたんです。

カフェレストランの方が区に提案した時に描いたパースには、普通だったらレストランだけ描けばいのにみんなの公園の使い方みたいなものまで盛り込まれていたんですね。青空の下でお茶してたり、ヨガをやっていたり、本を持ってたり……。じゃあ、これをそのまま再現して、まちの日常の風景のスタートにしましょうということにしました。私たちはまちの人たちを個々に知っているので、それぞれの企画を誰にお願いするか、全部個別に当てはめました。公園をオープンする日に未来の公園の使い方をみんなで表現しませんか、と提案して、オープニングイベントの企画を詰めていきました」(同)

南池袋公園オープン当日はどうだったのでしょう?

「形式的なセレモニーは一瞬で終わりまして、その後オープニングイベントをやりました。マルシェやヨガ、ワークショップや音楽演奏等が楽しめる時間を作り出しました。そして会場の装飾等も空間つくりで重要なので手がけていきました。まちの人たちが使いたいように使える状況をつくろうと考えたんです。

それまで、子供がいない、子育てしづらいまちと言われていたんですが、当日は子ども連れの家族が殺到したんですよね。欲しい空間がなかっただけ、居心地の良い空間がなかっただけなんだなって、実際にやってみてすごく感じました。こういう場所さえあれば、みんな、くつろぎに来るんだということがよく分かる1日でした。

マルシェの出店者もヨガの先生も本屋さんも全て豊島区の人です。やっぱりみんな、公園のこれからに関わりたかったというのもあるし、自分たちが使えるような状況を作り出したいので協力しますと一緒にやってくれました。

カフェレストランでは、一角でお料理教室のワークショップをお母さんにやってもらいました。それから近所のカフェの店主に集まってもらって、これからの公園を語り合うトークイベントもしました。というのも、このカフェは公共的な場所にもなっていて、まちの人が公民館的に使えるという機能も入っているのです。そういうことも表現したくていろいろやってもらいました。

この日行われたのはただのイベントではなくて、これからこの公園やカフェレストランをこういう風に使えるんだよっていうことを表現するためのものとして、小さな実験を沢山散りばめていました。」(同)

「消滅可能性都市」と言われていたのに、南池袋公園がリニューアルにより、家族連れの方が多く集まってきたのですね。いつもたくさんの人が集まれば、この光景が日常になるはずです!

画像4

せっかくのみんなの笑顔から一転…いったい何が?!

そんな笑顔に包まれた1日から一転、翌日には驚くべきことが起こります。

「公園のオープン翌日から芝生の養生が始まり、芝生エリアに入れなくなってしまったんです。芝生を楽しみにして親子連れがベビーカーで来たら、いきなり入れないわけですよ。『どうして?』と、たずねても『いや、もう入れないんで』の一点張りで。あんなに幸せな雰囲気だったのにそれはどこに行ったんだと。子供が芝生に入ったら警備員が怒りに来ちゃうことも。私はこの時、一区民としてこの様子を見ていて、これは違うだろうと。もっとやり方があるはず。まずそもそも公園と市民の関係性とか、そこのコミュニケーションのやり方がおかしいんじゃないかと思いました。まずそこからできることがあるなと思ってちょっとずつ動き出しました」(同)

では、どのように解決していったのでしょう。

まずは、なぜ芝生に入れないのかを造園業の職員に教えてもらい、それを伝える場所をつくったそうです。フェイスブックのページでは、友達に語りかけるような感じで、カフェのコミュニケーションボード上には芝生についての解説コーナーをつくり、説明してもらいました。行政の掲示板のように事務的な表現ではなく「今、芝ってこういう状況だから入れないんです。これからふさふさとした芝生になるから、ちょっと待っていてくださいね。」と、今、芝に入れないのはみんなのためであると丁寧に伝えていきました。

芝生に入れるようになった日にはみんな大喜びで飛び込んだそうです。この日はみんなで芝生の種まきをして、芝生が育つ様子をみんなで楽しんでいったそう。造園スタッフも芝生の話の紙芝居を自らつくってきてくれました。紙芝居は、子どもと一緒に親も見るので、なぜ芝に入れないことがあるのか多くの人に伝わりやすくなったようです。

その後も、公園にはベビーカーもたくさん来るようになり、そのまま芝生に入ってしまう人もいましたが、そんな時はほかのお母さんが「ベビーカーは入れないで」と教えたり、芝が呼吸できるように天然素材のゴザを推奨しているよと、知らない同士でもお話をしてくれたりするようになったそうです。

「区が禁止事項として規制するんじゃなくて、みんなが公園のルールみたいなものをゆるく理解してサポートし合うようになるんですね。皆でそういう環境づくりをしていくという流れが出来ていきました。
今はまさに、それぞれがそれぞれの好きなことをやりつつ、ゆるやかに皆で協力し合う場所になってきています」
(同)

画像5

行政(区)の言葉をわたしたちの言葉に置き換えるというのは大切なことですね。
まちや公園などは、顔の見えない誰かがつくっているもののような気がして、他人事のような、ちょっとした距離感を感じるところがあるかもしれません。でも、このような心遣いがあれば、クレームにならないばかりでなく、わたしたちに向けた言葉として素直に耳を傾けられるのでしょう。
行政とまちのみんなをつなぐ活動は、まちのみんなにも変化をもたらしたようです。
南池袋公園を自分たちの公園と感じられるようになったことで、みんなが自分たちで考え、よりよくするために行動をするようになった……これも「まちづくり」なのですね。

「まちづくり」って?

「まちづくりは、ハードありきの開発ではなくて、今あることから考えてつくっていくことができるものです。
小さな実験を重ねて、できることを増やしていく。どんなものができたかよりも、誰がどう使っているか。
まちの人たちが一緒にまちを育てて、その中で暮らして、働いて、より楽しいまちにする。ですから、ぜひみなさんもできることからはじめてみたらいいと思います」

と、飯石さん。
これまで、「まち」って大きすぎてつかみどころがないと感じていました。「まちはまちの人とつくる、まちはまちの人が育てる」。この言葉がすーっと心に沁み、「まち」が少し身近になり、目に映る風景が変わりました。

なんと飯石さんは、この南池袋公園のリニューアルの取り組みをすべてボランティアとして携わっていたそうです。その後、飯石さんは豊島区から南池袋公園に隣接するグリーン大通りのエリアマネージメントの相談を持ちかけられたのを契機に、株式会社nestを立ち上げ、おもしろい人とコト・場所をつなぐことをテーマにさまざまなお仕事をしていったとのことでした。
事例などもたくさん紹介していただき、あっという間の2時間でした。


そして、レクチャーから2年以上が過ぎ、新型コロナウイルス感染症の影響などで、社会状況も大きく変わりました。飯石さんから近況をいただきました。

「2020年に池袋駅周辺に南池袋公園を含む4つの公園が整備され、大きな開発ではなく、公園を軸にまちをつくるという新しいメッセージを区としても発信し、生活目線でのまちに変化しつつあります。
そして昨年からの新型コロナウイルス感染症の影響でどこにも出かけられない状況だからこそ、近くの公園でホッと一息休むことができる、本来のパブリックってそういう役割なのかなと改めて気付かされました。南池袋公園も一時は閉鎖していたのですが、現在は開放して多くの人がディスタンスを保ちながら思い思いに過ごす場所として、まちの人の日常に寄り添っています」
(飯石さん)


関連図書:
公共R不動産のプロジェクトスタディ 公民連携のしくみとデザイン
(学芸出版社)

公共R不動産       https://www.realpublicestate.jp
nest inc                                  https://ikebukuropark.com/mip-greenblvd/
IKEBUKURO LIVING LOOP  https://ikebukuropark.com/livingloop/

(文:企画1期はせがわひろみ/写真:制作1,2期岩﨑麗奈/編集:企画2期わたなべひろみ)

画像6


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?