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シンクスクール卒業生インタビューvol.2 京都市立芸術大学大学院生 大西涼子さん

シンクスクール卒業生インタビューの第二弾は、シンクスクール制作コース3期卒業、現在、京都市立芸術大学大学院美術研究科修士課程絵画専攻油画に在学中の大西涼子さんです。今回のインタビューでは、幼い頃から現在に至るまで大西さんの興味の対象を探る方法をインタビューで伺いたいと思います。



小さい頃から絵が好きだった!  

  ――大西さんは小さい頃からインドアの方が好きで、教室で遊んだりアニメを見たりして遊んでいたそうですね。では、絵はいつごろからどんなものを描いていましたか?

大西さん:幼稚園の頃くらいに、J:COMのカートゥーンネットワークで海外アニメをよく見ていて、おくびょうなカーレッジくんやトムとジェリー、フォスターズ・ホーム、チェコのもぐらのクルテルが好きでした。見たアニメを自分でも描きたくて自由帳かノートかにがんばって絵を描いてるのが1番古い記憶です。
特にパワーパフガールズが大好きでした。かわいい絵柄でかっこいい感じの内容で、今、自分が制作をしているものにちょっとつながっているのかなとも考えています。小学生の頃はポケモンを描いたり、犬の模写をしたり。

――犬を? どうして?

大西さん:犬を飼ってほしくて、犬種が載っている本を見て犬種を覚えては描いていました。結局犬は飼ってもらえなかったんですけどね。


人に流されたり、やむを得ず選択した進路に甘んじたり

美術部に所属していた中学生の時にイラストレーターになりたいという夢を父親に反対されるも、やっぱり絵を描くのが好きで高校でも美術部に入った大西さん。悪戦苦闘しながら使い慣れない絵の具や自分の描きたい絵の方向性を試行錯誤していきます。ですが高校3年生の頃にその気持ちに変化が……。

――高校3年生になり、何が変わりましたか?

大西さん:3年生の部員が私ともう一人と途中入部したFさんの3人しかいませんでした。そのため成り行きで部長になってしまい、そのことがプレッシャーやストレスになったこと、顧問の先生が変わって美術室を使える時間がだいぶ制限されたことで、部活自体が結構大変でした。あまり絵もうまくできず、絵に対する気持ちが薄れてきたのです。でも、高校最後だから頑張ろうと思い、同級生の子をモデルに描きましたが、本当にうまくいきませんでした。そんな感じでちょっと絵をやりたくないかもみたいな気持ちが大きくなっていました。

――そのような状況から、なぜ大学で美術を専攻したのですか?

大西さん:ここから情けない話が続くのですが(笑)。
進路選択する頃には、あまり絵を描きたくないっていう気持ちと、でも美術は好きで知りたいみたいな気持ちの間にいました。北海道教育大学岩見沢校に芸術・スポーツビジネス専攻という一般大学でいう社会学部っぽい専攻があります。実際にオープンキャンパスに行って話を聞くと、美術や芸術にちょっと外の方から関わるための勉強をすると。今は描きたくないけどここに入りたい、ここであればちょっと違う方向から美術に関われるのかもしれないと思ったのです。
それで、受験する気満々でいましたが、センター試験であまり点数が取れなくて結構ひどい結果になってしまって。そこで、担任の先生に「あなたは美術部だよね、同じ教育大の美術専攻だったら実技で逆転ができるかも」といわれ、急遽、武蔵野美術学院の予備校にデッサン力ほぼゼロの状態から1ヵ月通って、後期試験で滑り込んで合格という形で、教育大に入りました。

――おお、なるほど! そういう形で入ってみて、実際にどうでしたか?

大西さん:受かったことには一安心したのですが、実技の授業でみんなのデッサンや成果物を見ていると、なぜ自分が受かったのかなという気持ちとみんなの方が全然うまいなとちょっと恥ずかしい気持ちが多い中、大学1年生は過ごしていました。高3の高文連全道大会ですごいインパクトのある絵を描いている子がいてその子と友達になり、一緒に油絵を描いていました。
大学2年生からはすぐ研究室に分かれるため、その子と2人で「油絵の研究室入る?」という話をしていたのですけれども、秋になって就活の話を聞くようになり。正直なところ油絵の研究室を出た後、どうしたらいいかわからないなと。そこで、デザインの研究室に入ろうということで、私はプロダクトデザインの希望を出しました。ところが、私の学年ではデザイン希望がすごく多く、もう一つのデザインの研究室を落ちた人が流れてきて。結局、油絵の研究室に入ることになりました。
大学を決めるところから油絵の研究室入るまで人に流され、あまり自分の意思がないまま進んできてしまいました。


誰よりもいい絵、描いてやる!

――油絵の研究室に入ってみて、どうでしたか?

大西さん:とても嫌でした。研究室の配属が希望順ではなく、成績順で決められたことに納得がいかなかったですし。希望していたデザインの研究室ではなかったのでなかなか馴染めず、落ち込んでいました。授業以外の時間はみんな自主制作していましたが、自分で何が好きか、それをどう描いたらよいかも全然わからず、先生にいわれるまま多肉植物を買って見て描いていました。それで、研究室に入ったら絵や制作について、先生が教えてくれるのかなと思っていましたがあまり……。アドバイスもありましたがよくわからず、なんかこれでいいのかなという不安がずっとつきまとっている感じでした。

――研究室に入ってからもそのような心持ちで、ずっと通っていたのですか?

大西さん:そうですね。しかし、大学2年生の初めの頃に外部から大学院の同じ研究室に進学されたYさんに出会って意識が変わり始めました。
研究室で2年生と院生が自分の好きな作品をA4サイズで何枚か集めて見せ合うというゼミがありました。私はその時、きれいな感じの印象派などを集めて提出しました。先輩や同級生が写実的な作品、印象派の作品などを見せる中で、Yさんの提出した現代美術が、O JUNさんのものなど何点か、圧倒的に画面の軽やかさの多い作品で、この絵かっこいいなという感情が初めて生まれました。
そこからです、絵を頑張ろうというモチベーションが出てきたのは。誰よりもいい絵描いてやる!みたいな気持ちになりました。それで自分の描く動機やコンセプトが欲しくて東京に展示を見に行ったり、美術館に行ったりして、それを探り始めました。


「線だけやれば」とジェンダー

3年生の時、シンクスクール制作コース2期生だった前述のYさんや大学の同級生のアドバイスから、大学の授業でほとんど習わない現代美術を学べるシンクスクールに通うことを決めました。大西さんはここからさらに絵のテーマやその描き方に向き合っていきます。

――シンクスクールに通って印象に残っていることはありますか?

大西さん:伊藤隆介先生の映像の授業とあいちトリエンナーレの研修旅行です。

シンクスクールの前期展の作品を決める直前に伊藤隆介先生の課題作品を映像で作る授業がありました。その時点で、前期展の作品も伊藤先生の課題も何をしてよいかわかりませんでした。結局、授業では自分が撮った短い動画をくっつけて、その上に線やドローイングの線をバンっといくつか重ねたものを提出しました。その時、主任講師の高橋喜代史さんと今村育子さんがその作品を見て、「線がいい、線だけやれば」とおっしゃってくれたんです。それまでどのような作風にしたいのかがわからず、線と背景がレイヤーになった作品を作っていましたが、お二人の言葉で思い切ってレイヤーをやめ、4年生まで線だけを描く作品を作っていました。

あいちトリエンナーレでは碓井ゆいさんの刺繍の作品にインパクトを受けました。その作品は透けたオーガンジー生地が淡く綺麗で、ちょっとかわいい印象でした。テーマにはジェンダー要素を含んでいて、見た目とテーマにギャップがあり、カッコいいなと思いました。ちょうどその頃、夫婦別姓についてのニュースを見て、それまで当たり前だと思っていたことが意外と当たり前ではないのかもしれないと思ったこともあり、自らの作品のテーマとしてジェンダーや女性蔑視の問題に興味を持ち始めました。

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シンクスクール前期展 3枚のキャンパスによる作品 「紛れて一緒になる」         2019年 182.0×91.0㎝


――スクールや大学の卒業制作ではどんな作品を作りましたか?

大西さん:ジェンダーをテーマとして扱いたいと思い、真っ黒い画面のスズメとミモザの絵をシンクスクールの卒業制作にしました。自分で撮ったスズメの写真を絵のモチーフにし、それがポコポコポコといっぱいいるのを「ミモザの花みたい」と思い、描きました。ミモザの花は国際女性デーの象徴の花なのです。緩やかに女性という私に繋がっていることを表現しましたが、テーマと見た目がちょっと遠すぎました。

大学の卒制は、友達の話と映画からテーマを決めました。「駅で知らない人にカメラを向けられた、あの動きは絶対にそうだった!」という友達の話を聞いたり、「82年生まれ、キム・ジヨン」という韓国映画を鑑賞して、女子トイレに盗撮カメラが仕掛けられているという描写を見たりして。それまで意識していませんでしたが、盗撮が身近なところに潜んでいるのかもしれないと思い、それをテーマにしました。

話が前後しますが、2年生の時に横須賀美術館に中園孔二さんの展示を見に行きました。その作品の何点かが線の部分を塗り残しながらその周りに色を塗り、色を塗っていない部分が線として現れるもので、とても印象的でした。4年生になり線もいいけど面を作りたい、色面もやってみたいという気持ちが起きました。「中園孔二に近づきたい!」と思い、レイヤーを作りつつ線を描かずに、塗り残した部分を線に見せるという塗り方で描いていました。線とレイヤーという構造は今思えばこの人の影響を受けていて、卒制もその形で制作していました。

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シンクスクール卒業制作 「すずめミモザ」
2020年 1,620×3,240㎜

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北海道教育大学岩見沢校卒業制作
「何度も忘れようとした」 2020年
3,240×1,620㎜


「金髪の時には全然ぶつかられないけど……」

――そして、京都市立芸術大学の大学院に進学されましたが、どのような経緯だったのですか?

大西さん:進学については今村さんと高橋さんに相談しました。シンクスクールに通い自分の制作の芯となりそうな何かをやっと掴めた気がしていたのに4年間だけではそれを深めるにはちょっと足りない気がして。就職して続けることもできるかもしれないけれど、距離感ができるじゃないですか。生活していく中でそこから離れてしまうのはもったいない。もうちょっとまだやりたい、シンクスクールで踏み出した一歩を更にもう一歩、影響を受けられる新たな場に行ってみたいと思いました。
また、PARCや500m美術館の展示で京都市立芸大出身の作家さんの作品を見る機会が多く、シンクスクールでは金氏徹平さんの授業があり、活躍している人がすごく多いなと感じました。今所属しているゼミの先生、伊藤存さんの刺繍の作品がすごく好きで、その作品を作っている人の下で学べたらどんなに幸せだろう、作家を目指している人の環境に飛び込みたいと思いました。


2021年の試験内容は、作品2点とポートフォリオの送付、PDFでの小論文作成やオンラインの面接でした。無事合格、嬉しくほっとしたものの、周りの人のレベルを想像して、逆に自信をなくしてしまったそうです。


――入学して、今どのような印象ですか?

大西さん:思っていた院生生活と違い、結構しんどいです。毎日の授業の流れが大学とは違い、午前に座学、午後に実技とかちっと分けられていて、座学では重めの課題が毎週出され、毎回ひいひい言っています。
それに同級生や先輩の作るものがかっこよく、量が多いため圧倒されています。私は作品を一個作って完成したら次という作り方ですが、同級生は何個も同時進行で作る人が多く、過去の作品のサイズも私が描いたことのない大きなものも多くて。人それぞれの性格やスタイルの違いとはいえ、それでちょっと自信をなくしていましたが、6月に入ってやっと自分のペースを掴めてきました。

――何かきっかけがあったのですか?

大西さん:先ほど話したFさんが今月京都に遊びに来たのがきっかけでした。彼女もジェンダーや女性蔑視をテーマにした作品を作っています。お互い近いものに興味関心を抱いているので、そのことについてたくさん話をして、「あっこういうのだったらいけるかも」みたいものをいろいろ得ることができました。大学院の中にはテーマやコンセプトといった作品についてちゃんと話せる人がまだいないので、Fさんの存在がすごく大きかったです。

こんなこともありました。Fさんと一緒に京都の街中を歩いていた時に、私が男性に体をぶつけられたのです。その時、彼女から「金髪の時には全然ぶつかられないけど、茶髪や黒髪の時にはぶつかられた」と言われました。また後日、京都にいる高校の後輩にも同じような話を聞きました。ジェンダーをテーマにしてから、友達が出会った些細ではあるけれどいやな出来事や自分自身が警戒しているようなことを、男性なら特に意識したり気をつけたりしないのだろうなとわかってきて。そういったことに関心のある友達と話をして影響を受け、自分だけでは気づかない視点や体験を得て、今そのことを描いていこうと思っています。


胸を張って言えないです、まだちょっと自信がなくて。でも……

――中学生でイラストレーターになりたいと思い、今は作家を目指す人が多い環境に身を置いています。今後どうなりたいと考えていますか?

大西さん:作家になりたいと胸を張っては言えないです、まだちょっと自信がなくて。でも、大学院受験を控えていた頃から、可愛らしい見た目とテーマの間にギャップがあり、「えっ?こんなこと描いてあるんだぁ!」と見ている人にショックを与える作品を作りたいと考えるようになりました。大学の卒制を見た同級生に「涼子の絵は色もふんわりしていて可愛いのに、中身が全然違っていてすごく衝撃的で、なんか見方が変わった!」と感想を頂きました。自分にそんな大きな力はないけれど、私が作品を作り続けることで人に衝撃を与えたい、新しい意識を持ってもらいたい、ものの見方を変えたい、そのような影響をちょっとでも与えられればいいなと思っています。


決して流されるだけではなく、現状から飛び出し、怖がりながらも一足飛びに新しいところに踏み込んでいく大西さん。「どうしよう、全然自信がない」と話しながらも、「ちょっと見返してやりたい!」という気持ちが同居する、彼女の芯の強さを垣間見たインタビューでした。


(文:企画4期・制作4期 石田大祐/写真:大西涼子・石田大祐/編集:企画2期わたなべひろみ)


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