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【英文法の小径】現在形〈時制〉余話・その一

学習英文法書は従来、現在形の用法として、動作動詞は現在の習慣的行為を表し、状態動詞は現在の状態を表す、というように記していることが多い。本シリーズでも、そのような区別を前提として説明している。

ところが、上記の区別に対して、日本で英語教育に携わる(執筆当時)二人のネイティブスピーカーが、その著書の中で異議を唱えている。

一冊目が、マーク・ピーターセン著『続 日本人の英語』(岩波新書)。著者は、一般の文法書に記載の現在時制の用法として「①習慣的行動 ②現在の状態 ③一般的な事実や真理」などを挙げた上で、次のように述べる。

しかし、本当は、英語の現在時制の論理は、一つだけである。いうなれば、どの動詞の現在形も、上述の(2)の通り、現在の状態を表わしているのである。

同書 p.116

①については ‘I read the newspaper every day.’ という例文を示して

この英語の意味を「新聞を毎日読む状態に入っている」と理解してもよい。

同書 p.116

もう一冊が、T.D.ミントン著『ここがおかしい日本人の英語』(研究社出版)。著者は、日本人英語学習者がよく知っている現在形の用法として「①物事の一般的な性質 ②繰り返し起こることがら」に言及し、それに加えて「③現在の状況」を提示した上で、次のように述べる。

よく考えてみると、ここに挙げた3つの用法には大した差異がないことに気づくはずです。つまり、どの場合も、現在起こっている最中の「出来事や行為」についてではなく、現在にも当てはまる「状況」について述べているのです。

同書 p.23

さらに、“I usually read the newspaper before breakfast.” という例文について

朝食の前に私が新聞を読むということは「出来事」ではなくて「状況」として理解されるべきなのです。

同書 p.23

さて、この問題について改めて考えてみることにする。

まず、「状態」とは何だろう?

本シリーズで状態動詞の現在形を扱ったエッセイでは、状態の性質を、しばらくのあいだ変わらないこと、と仮定している。

一方、「習慣」とは何だろう?ある国語辞典の定義によると

長い間繰り返し行ううちに、そうするのがきまりのようになったこと。

デジタル大辞泉(小学館)

きまりとは「定められている事柄」であり「一定している」こと、つまり変化がないことにほかならない。

したがって、動作動詞の現在形が表すとされる習慣的行為とは一種の状態と見なすことはできないだろうか。動作動詞であっても、その現在形が表すのは「状態的なこと」と言ってもいいのではないだろうか。

そして、この状態的なことが現在=話をしている時点において成り立っている(=事実である)と判断するから、話し手は現在形を用いるのである。

1.  We usually have breakfast at about seven.

‘have breakfast’自体はもちろん、状態ではなく動作を表すが、これが現在形で用いられた文全体は、行為を何度も繰り返した結果である一種の状態=習慣を表している。「7時頃に朝食をとる」ことは毎日変わらない。現実には、例外という変化は起こり得るけれど、この話をしている時に、そのことは意識されていない。

これは習慣的行為に限らない。現在形が表すとされる、人の職業や性格といった属性について語る時にも、あまり変化が意識されないのがふつうだ。もちろんこの場合にも、実際には、休職・転職や性格の変化といったことはあり得るけれど、発言時には話し手の意識の外にある。なので、次のような現在形を用いた文(2. 職業、3. 性格)も、状態的なことを表していると言えるだろう。

2.  Ann writes for a national newspaper.
3.  John always leaves the lights on.

話し手がある事柄を表現する際、動詞の時制として現在形を選択するということは、少なくとも発言時の意識においては、その事柄を時間が経っても変化を伴わないものとして捉えていると考えられる。

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