見出し画像

日本保守党の研究 03

百田尚樹 カエルの楽園 (2016,2018)
百田尚樹 カオルの楽園2020 (2020)

 百田さんは、『カエルの楽園』を出版したとき、本の帯に「これは私の最高傑作だ」と書きました。百田さんは、それ以前の作品の中にも、自らの言いたいことを書き込んでこられたと思いますが、今回は、寓話の形式をとって言いたいことを直接語ることができたからではないでしょうか。

 しかし、私は、この2つの本は、寓話というよりも、風刺小説というべきではないかと思います。スウィフトの「ガリバー旅行記」のような力強さを、もっていると思います。

 風刺小説ですから、風刺された人は大変で、怒り心頭に発したと思います。
 杉田俊介藤田直哉さんの「百田尚樹をぜんぶ読む」(2020年)集英社新書は、このようなとらえ方をされています。
杉田「近年の百田氏は、次第に保守論壇や現政権に近い立場の政治的イデオローグとしての側面をはっきりと打ち出してきました。多産だった小説の刊行点数も落ちて、嫌韓・嫌中的エッセイ、政治的プロパガンダの対談集の刊行が増えてます。そうした流れの中で、『カエルの楽園』も明確なプロパガンダとして書かれている。」
杉田「正直、小説としては、読むに値しないほどつまらない。ただ、やはり百田尚樹という人が変に勘がいいのは、震災のあと、文学の世界でもユートピア小説やディストピア小説が流行(はや)ったり、アメリカではトランプ政権が誕生したあとは、オーウェル『動物農場』『一九八四年』、ハクスリー『すばらしい新世界』、ブラッドベリ『華氏451度』などのディストピア小説が国際的にあらためてベストセラーになっている、という状況に呼応している点です。」
藤田「まあ、構図がとても単純ですよね。ネトウヨや新保守主義の世界観のいちばん単純な図式にすぎない。特に葛藤もない。全然面白くありません。イデオロギー的につまらないというより、物語としてつまらない。骨だけですよ。」
藤田「オーウェルの作品には、自分の思想への疑いもあります。『カエルの楽園』には、自分の図式や思想そのものも誰かからの洗脳の結果かもしれない、という懐疑がない。どうして自分がプロパガンダの影響を受けていないという確信が可能なのか、僕にはわからないですね。」

 洗脳かどうかを自ら知るのは、かなり難しいと思います。宗教のように、いったん信じて、信じる仲間がいれば、めったなことでは冷めないものです。何を信じたかが、その人の運命を変えてしまいます。

 『カエルの楽園2020』では、朝日新聞を思わせるデイブレイクだけでなく、野党を思わせるガルディアンの行動も、揶揄の対象になっています。

 ウシガエルの沼ではやった病気が、ツチガエルの国でもはやり始め、対策として行動制限がとられようとしたとき、ガルディアンは、
「とにかく、ツチガエルが動けないようにするなんて、絶対に反対だ!」と頑強に主張します。「では、どうすればいいんですか」と問われると、
「それを考えるのが元老のトップだろう。わしは反対するのが役目だ」と答えますが、周囲のカエルたちから、一斉にブーイングが起こります。するとガルディアンは、こう発言します。
「皆さん、私はプロメテウスがやろうとしていることを認めると、彼がそれを利用して、どんどん好き勝手なことをやるのではないかと心配しているのです」

 反対だけを主張していると、反対運動活動家というのが育ってきます。活動家は、反対することが仕事なので、問題を解決するための活動はできません。それどころか、問題が解決したら自分の役目がなくなるので、解決を邪魔したりすることもありえるのです。

 国会で、野党は、反対するだけでなく、対案を出して、ちゃんと議論して、その対案が採用されれば、それは、与党の業績ではなく、野党の業績なのですから、国民は、それを評価して、選挙で、野党を支持するという形になればいいのにと思うのですが、政治は、そんなに簡単ではないのでしょうね。

 自民党が、保守の砦などではなく、リベラルの党であることが明確になってきて、保守の本丸として日本保守党が育つことが期待されています。
簡単な道ではないでしょうが、少しでも大きな前進ができますように。

つづく

もどる


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?