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小説家になる方法 04 清水義範 「小説家になる方法」 (2007)

清水義範 (しみず よしのり、1947年10月28日生)さんは小説家です。
著書には、パスティーシュ(文体模倣)の手法を用いた『蕎麦ときしめん』(1986年)や、吉川英治文学新人賞の「国語入試問題必勝法」(1988)などがあります。

清水さんは、「小説の書き方」という本を書きませんかと提案され、しばらくためらっていましたが、こう考えるに至りました。

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 世の中に、うまく小説を書いてみたいと思っている人は多い。私と同世代の団塊の世代などでも、いよいよ会社を定年になるのであり、余った時間に小説でも書いてみようかと考える人がたくさん出てきそうだ。だが、そういう人のいちばんの希望は、小説を書くことではなく、その小説が出版されて多くの人に読まれることだろう。つまり、小説家になりたいと夢見ている人が、かなりの数いるってことだ。
 だったら、小説をどう書くかにとどまらず、どうやって小説家になってしまうかまでをコーチするほうが、親切だと思ったのである。
 小説家になりたくて、のたうちまわっていた十年間が私にはある。なれば『小説家になる方法』について書けることは、数多くある。そこまでを、すべて我が体験から教えるほうが、読者の参考になるだろう。
 こうして私は、意欲的に『小説家になる方法』を書いてみる気になったのである。

 本書の目次を、示します。

第一部 いかにして私は小説家になったのか
第一章 読者であることから始まる
 ■作者は読者のなれの果て
 ■小説をろくに読んだこともない人は、この先読まなくていい
 ■幼くして本と出会う
 ■全集の読破で「読む力」がついた
 ■私が読んできた小説たち
 ■どんなバカな理由でも、小説を読むことはためになる
 ■好きな作家の小説は全作品読め
 ■他人の小説を読み込むことは、自分磨きになっている
 ■年配の人は新しい小説を読め
第二章 そして自然に書き始める
 ■きっかけ『次郎物語』だった
 ■作文は下手だったが、小説を書き始めた
 ■すべての学習は「模倣」から始まる
 ■他人に読まれたいという願望が大切
 ■創作仲間との運命的な出会い
 ■トレーニングの場だった同人雑誌活動
 ■受験を放り投げ。小説遊びにのめりこむ日々
 ■ついに長編小説に取り組んでしまった
 ■大学に入っても創作三昧
 ■教師にはならないと自分に言い聞かせた「理由」
第三章 うまく書くためのトレーニング
 ■才能のことは考えるな
 ■好きな小説をお手本にして書け
 ■ワープロでも横組みでも、好きなやり方で
 ■たくさん書くこと、最後まで書きあげること
 ■現代人には同人雑誌活動は無理かもしれない
 ■小説サイトは遊びの場と考えよう
 ■「新人賞」への応募をお勧めする
■長いものを書き上げると、腕が上達する
第四章 修行時代はまだ続く
 ■「これでプロ作家」と有頂天の日々
 ■出版社を受験し、全敗
 ■とりあえずの状況と、半村良先生
 ■地道に継続していた活動によって開けた道
 ■作家の弟子になれたプラスとマイナス
 ■望みを持ち続けられる人が、なれる人
 ■落選続きの新人賞と「カスリの清水くん」
 ■ついに自分の書いたものが本になる
第五章 ついに自分の書きたいものを見つける
 ■なぜか達成感が持てない
 ■「こういうのでいいのかな」という思い違い
 ■書きたい小説がわからない
 ■本格的デビュー作が出たものの、原稿依頼は来ず
 ■絶好のチャンスをボツって、やけくそになる
 ■書きながら、自分でゲラゲラ笑う
 ■そうか、パスティーシュだったんだ
 ■書きたいことを見極めるには、まず自分を知れ
第二部 小説のノウハウについての私見
A 書くための方策
1 人生体験について
 ■小説が書ける人は有能な観察者
2 取材と資料について
 ■資料収集の際の「六つの鉄則」
3 アイデアについて
 ■思いつきにすぎないものを、物語に昇華させる作業
4 キャラクターについて
 ■書きたくなるキャラを設定すれば、うまく書ける
5 記述について
 ■あなたにお勧めする「三人称視点決まり法」
6 リアリティーについて
 ■リアリティーは現実性ではなく、真実味と考えろ
7 書き出しについて
 ■初心者が気をつけたい、三つの「書き出しのコツ」
8 クライマックスについて
 ■前もってメモを作っておくといい
9 終わり方について
 ■余計なことまで語らず「余韻」を残そう
10 描写について
 ■常日頃から「比喩」のトレーニングをしよう
B 小説家になる具体策
1 新人賞に応募する
2 同人雑誌に参加する
3 原稿を送りつける
4 力ある人の紹介を受ける
5 自費出版する
6 作家の弟子になる
7 ブログ、携帯サイトに発表する
C 小説家の日日の暮らし
1 生活時間
2 その他の雑務
3 一冊の本が出来るまで
4 趣味、お楽しみのこと

第一部の第三章で、清水さんは、自らが育ってきた同人誌活動について語ります。同人誌は、発行日に合わせて、定期的に作品を書くことが必要です。また、買って読んでもらわないといけないので、読者を意識します。さらに、同人仲間同士で、作品の批評をしあいます。

清水さんは、文章がうまくなるにはどうしたらいいかとか、小説をうまく書くにはどういうトレーニングをしたらいいかと問われると、「作品を読ませ合う仲間を持つこと」と答えてきたそうです。

しかし、「ある程度の年配者の場合には、あまり厳しい批評をし合わないほうがいいでしょう」とも答えてきたのですが、最近、また、違う考えになってきたと語ります。

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今の日本人は同人雑誌活動に耐えられるだろうか、というのを考えて、少し懐疑的になってきたのだ。同人雑誌があったせいでやる気が出た、というのは、私の世代が若かったころのことかもしれないという気がする。
 昨今の若い人は、人間関係で傷ついたり、自分を否定されたりすることに非常に敏感で、だからこそ臆病である。他人との交際においても、全員がナイーブで、誰かを傷つけるようなことは絶対に言わない。俺ってそういうドジな奴なのよ、なんて役回りを演じて、自分の本質を見せないよう付き合っていたりする。そんな気配りばかりしているのが、今日の人間関係なのだ。・・・・・

そして、現代の小説の発表の場としての小説サイトについて語ります。インターネットやスマホで、誰でも無料で小説を発表できるサイトが登場し、人気を博しているのですが、小説がうまくなるための修行としては有効でないのではないかというのが清水さんの意見です。

自分のブログに小説を発表する場合もそうなのですが、IT時代には誰でも情報の発信者になることができます。情報発信は、基本的に自分本位なので、何かを目指して修行中というのとは、まったく別なことであり、小説家になるためのトレーニングにはならないだろうというのが、清水さんの意見です。

また、清水さんは、もう一歩踏み込んで、このようにも述べておられます。

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 ブログや小説サイトに書いたものが、評判になって出版社が目をつけて、本として出版されるというケースはあるだろう。現にそういう本が何冊もあるし、その中には何万部、何十万部も売れるベストセラーが出ている。
 しかし、仮にそういうことがあったとしても、その人が本格的な小説家になることはないような気がする。時の人になって気分がいいと思うが、小説雑誌などから次々と原稿依頼が来ることはないだろう。なぜなら、その人自身も、そうなることを望んでいるわけではないのだから。

さて、こういう清水さんの意見に対して、いろんな方向から、反論があるのではないでしょうか。

一つだけ挙げてみると、現代の若者でも、試練にもまれている分野はあり、若者は必ずしも、軟弱化していないという反論です。
おわらいコンビなども、売れるまでには、かなりの競争があり、鍛えられていると思います。
コンクールや、オーディションがある場合も、受かるために切磋琢磨の努力がなされていると思います。

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