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【Kindle¥0】【感想】角田光代/笹の船で海を渡る

角田光代は天才だな~と思う一冊だった。

この小説は、Kindle無料で読めるので、気になってる人は是非読んで欲しい。

『ひそやかな花園』を読み終えたときと同じように、最後はさわやかな風が体の中を通り過ぎたのを感じた。

この小説は多層構造だから、いろんな断面から観察可能なのだけど、主人公の左織とその娘の百々子は、私と母の関係そのもので(日記を盗み読みされるところとか)虚しいような悲しいような気持になった。

左織は、戦時中に疎開先で苦しくつらい生活を送る。そんな状態から終戦⇒高度経済成長期へと様変わりする日本で生活するのは、まさに笹の船で海を渡るようなものだっただろう。

本文中にもある通り、他人の決定に従って生きてきた上に、傍観者の立場で生きているので、世間知らずのまま年老いてしまった。 そんな左織は、子供たちが自立し夫に先立たれてから、ようやく自分なりに人生を決定し、その決定に責任を持つことを受け入れるようになる。 これから左織は、笹の船で出港するのだ。

末っ子の左織は、長男や長女が決めたことに従って育つことが多かったと書かれていたので、それは一種のスポイルだなと思うのだよな。風美子の夫で、左織の義理の弟の潤司は、自分の母親に甘やかされて育っていて、こちらもスポイルされているなと感じた。そんな二人は少しだけ通じ合うのだけど、、、。

「20歳超えたらすべて自分の責任だ」という高校時代の英語教師の言葉が脳裏をよぎった。その通りだけど、スポイルされた人は、飼育下から野生にいきなり放された動物のように、いきなり海を渡らなければならないのだ・・・。

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