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鐘が鳴る時「残念な人」は熱烈なファンを獲たのだ。

その昔「カエルの為に鐘は鳴る」というゲームがあった。

ゲームボーイのソフトだったけれど、ニンテンドー3DSでもできるらしい。すごい時代だ。

当時、私の周りにはこのゲームを買った人はいなかった。そんなに売れなかったのかなとも思ったけれど、mixi全盛期にはコミュニティを見かけたくらいなので、知っている人は知っている、そんな塩梅のゲームだったのだろうか。

サブレ王国の王子とカスタード王国のリチャード王子はライバル同士。サブレ王子は何度となくリチャード王子と剣術の試合に臨むが、一度も勝てずにいた。ある日、いつものように対決していると、2人のもとに、ティラミス姫の治める友好国・ミルフィーユ王国が謎の軍団「ゲロニアン」に占領されたという報告が届く。2人はそれぞれ先を競うようにミルフィーユ王国へ向かうが、果たしてサブレ王子はリチャード王子よりも先に姫と国を救うことができるだろうか。—Wikipediaより

天下の任天堂のゲームの割に、B級感のにおいたつストーリー。子供向けかと思いきや、攻略本までは要らずともなんやかんやクリアには知恵の要る内容で、任天堂の中の人が遊び心でぶっ込んだ様な名前や言葉なんかが、シナリオのあちらこちらに散りばめられていた。

ざっくり言うと主人公がカエルになったりヘビになったりいろいろ変身し、その特技を使いこなしてストーリーを進めていくのだけれど、主人公の癖に、彼は三枚目な雰囲気の残念王子様。私の知っているゲームの主人公というのは、かの有名なヒゲの配管工さんですらなんていうか、お姫様を躊躇いなく救い出すイケメンキャラ。けれども、あまりよく覚えていないとはいえ、「カエルの為に鐘は鳴る」のサブレ王子は、イケメンというよりは普通の、やや残念な感じの人だった。たまたまお家柄が良くってたまたま王子の位に在った、そんな印象を小学生に残す、どーしよーもない王子様だった(ラストに向かっていくとそれなりにかっこいいんだけどね)。

多分、CMを見て何となく買ったのだ。当時は不景気の割に「売れているアーティストだからCDを買う」くらいにライトに皆、色々なものにお金を落としていた。そもそも携帯電話というモノの普及率もうんと低く、まだポケベルが鳴らなくて云々の時代だ。数年でダメになってくるスマホの機種代なんかのお金が、今みたいにはかからなくて済んでいたのだ。ゲームボーイなんて恐ろしく長持ちした。ソフトが水に浸かっても、乾かして一年くらい放置していたら、またいきなし使えるように復活する、屈強で頑丈な時代だった。ひとつのものが長生きだった。だから「買い替え」への出費より、色々なものへの興味にお金を突き動かせた。

いつもいろんなゲームを買ってはあっさりクリアしてしまい、私の持っているゲームの大半をもクリア済みだった従兄が、今回は何故か「カエルの為に鐘は鳴る」を買わなかった。貸して、とも言ってこない。だから私は恐らく初めて、自力でゲームを攻略する機会を与えられた。変にかっこつけていないストーリーのおかげか、私は割とすんなり、このゲームの世界観にはまり込んでいった。

残念な王子様が、これまた珍妙な登場人物たちと関わり合いながら、最後は無事にお姫様を救い出す。そのストーリーはヒゲの配管工さんとも似ていると言えば似ているものの、サブレ王子はもっと不格好に面白おかしく突き進んでいく。それは今までかっこいい人にしか与えられなかった王道ストーリーを、かの任天堂が「残念な人」にも与えたもうたという、歴史の変わり目にすら、今となっては思えてくる。

否、もっと以前からもそういう「残念な人」が主人公のゲームはあったのかも知れない。けれども、少なくとも小学生の私に「残念な人が主人公になったっていいんだよ」、そして「残念な人だなんていうレッテルは、自分次第でいくらでも剥がすことができるんだよ」という新たな概念を植え付けてくれたのは、まぎれもなくこの「カエルの為に鐘は鳴る」であったと思うのだ。

そんな私はばっちりと学生時代に「残念な人」のレッテルを貼られ、それを剥がすことに今でも試行錯誤しながら生きている。

私はヘヴィーメタルのバンドなんかをやっていたりするし、noteを更新していても、SNSらしく誰かと繋がってそこからグループでの人付き合いに繋がって皆でサークル云々、とかそういう拡げ方はできない。とてもマイナーなところでひっそりと、けれども熱烈なファンになってくれる誰かを求めて、今日も何かしらの活動をしている。

「カエルの為に鐘は鳴る」も、こうやって30年近く経ってから思い出して記事にしてハッシュタグで拡散しようと企んでいる「熱烈なファン」がいるくらいなのだから、当時の任天堂の「カエルの為に鐘は鳴る」の企画制作に携わった人たちも今頃、してやったり!くらいに思っているのかも知れない。

届いたらいいな、「カエルの為に鐘は鳴る」、私は大好きなゲームだったよ。


#自己紹介をゲームで語る

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