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出版流通の三国志はじまるよ

日経さんのスクープでビッグニュースが舞い込んできましたね。

出版社が取次頼みをやめて流通も自分たちでやろう、ということ……なんですよね?と大手の役員さんたちに直接聞きにいきたいところですが、その前にぼくなりの見解を書いておきましょう。こうなることはほぼ必然なのでいろいろ推理は言えますが、直接誰かからなにかを聞いたわけではないので。酔っ払いおじさんたちの多い業界ですが、みんなこういうところはきっちり口が固いのです。大人ってちゃんとしてる。

基本的なこととしてまず今まで本の流通を担ってきた「取次」という会社が何をしてるのか、なんですが

① 本をどこに何冊運ぶか決める

② 本を運ぶ

③ それらに伴うお金のやり取りをする

この3機能に整理されます。

ややこしいこともいろいろあるのですが、シンプルにしちゃうと書店がたくさんあるので(日本全国でむかし2万店、いま1万店)どこに何冊運ぶかを決めたり、実際運んだりするのは超たいへんだからそれを代わりにやってくれる会社があるとみんな助かる、ということで生まれた業態です。

で、まず①の「どこに何冊運ぶか決める」が壊れました。確かに取次が生まれた80年前の書店さんは何のデータも(データなんで概念もなかったでしょう)持ってないわけで、たくさんの出版社から発売されるいろんな種類の本をそれぞれ何冊仕入れていいのかどうか決めるのはすごく難しいことだったでしょう。しかし今は多くの書店がPOSレジで管理され、リアルタイムで売れ行きがわかり、似たような本が何冊売れているのか、前巻が何冊売れているのか簡単にわかるようになり、内容や表紙だって検索すればすぐわかるようになりました。よって理論的には「どこに何冊運ぶ」かは書店さんが十分に決められるようになったのです。書店さんがどんどんチェーン化されて、本部で一括仕入れしたりするようになったのも大きいでしょう。今では多くの出版社が書店チェーンさんと直接打ち合わせをして本を何冊仕入れてもらうか決めています。実際、取次さんがあまり関与しなくなってます。

いわゆるコモディティ化ってやつですね。

そして②の実際に「本を運ぶ」のところは本以外の流通も日本ではだいぶ壊れちゃったのに合わせてもちろん出版流通でも壊れました。壊れたのは仕方ないのですが、ここには取次さんが過去にした、ある選択が大きく関わってきます。

取次さんは自主流通網を作らなかったんですね。外部業者に委託して運んでもらう方法をとった。これが最終的には痛かったかもしれませんね……儲かっているときには利益率を高める良い選択だったのでしょうが、ここにきて自前のサプライチェーンでないからガンガン値上げされてしまうという……経営って難しいなあ、と思います。

外部委託なので平たくいうと誰からでも頼める、ということで今回の版元が直接(丸紅さん挟むみたいですが)業者に流通を頼む、という展開になったと。これもコモディティ化の一種ですよね。

そして最後に③の「お金のやり取り」の部分なのですが、よく世間で言われる「本は作って取次に渡すとお金になるから、新刊を納品し続ける限りやっていける」いわゆる自転車操業が可能なビジネスで、出版社は取次を金融としてお金を借りて本を作っているみたない感じ、というやつ。これ本当といえば本当なんですが、もちろんそこまで都合いいことばかりにはなっておらず、代償として「実際の入金がとんでもなく遅い」んです。特に大手版元さん以外の場合。

例えばある本を作って取次さんに仕入れてもらい、500万円の売上が立ったとしても「実際にお金が入ってくるのは半年後」だったりするんですね。そうなるとその本を作るのに使ったお金、著者さんへ印税を払ったり印刷所へ印刷代を払ったりするのが先にくるので、それらを払うために手形を割り引いたり銀行からお金を借りたりとしなければなりません。これが中小出版社の哀しい現実……。すごく儲かっていた時代は良かったのでしょうが、本が売れなくなった時代、割引分や利子などからくる利益率の低下がめっちゃキツい……。

いろいろあるのですがまとめると「条件がめっちゃ良くていくらでも貸してくれた金融業者」が「条件は他と変わらないか悪い割に全然貸してくれない金融業者」になった感じです。まあ業界の景気が悪くなるということはそういうこと……。

ここはコモディティ化というよりも、昔と比べてキャッシュフロー経営の重要さが増していることがあるのかな。

そんなふうに取次さんの担う機能3つがすべて壊れたというかコモディティ化してしまったことに合わせて、出版社も昔ののんびりやっていた頃と比べて「企業として最善策をとる」という意識が強くなってきましたから、その二つがあいまって今回の報道にある新しい流通の誕生というところに着地するのでしょう。

音羽さん(講談社グループ)も一橋さん(小学館グループ)もすごい勢いでDX進んでますしね。そもそも出版社、特に雑誌社はDNAとして新しいもの好きなはずなので、遅ればせながらやっと本気出したって感じじゃないでしょうか。講談社の野間社長が52歳とお若い(社長になられたのは10年前)し、小学館も相賀一族の4代目信宏さんが40歳くらいでもうすぐ社長とのことですので経営陣の若さとかもあるんじゃないですかね。

先行するKADOKAWAさんは自社(グループ)のみでほぼ同じかそれ以上(印刷所を含めた工場兼流通倉庫を建てちゃった。東所沢にできた施設の正体はそっちです)の仕組みを作っちゃってますし、大手以外の出版社は今後、一橋、音羽連合かKADOKAWAさんか取次のどれかに流通を頼むという展開になっていくんでしょうか。その場合、絵本の勇ポプラ社さんがどこにつくのか、とか日経BP、プレジデント、ダイヤモンドのビジネス書チームはどうするのかとか、企業としては大手4社よりもはるかに大きいスクエニさんは、とかそもそもの文春新潮は、とか……群雄割拠な切り取り合戦になるのでしょうか。わくわくするなあ。

トーハン、日販、楽天の出版流通三国志が始まるのかと思っていたら音羽一橋、KADOKAWA、取次、だったという。面白いなー。

「そもそも売れてる本の利益で売れてない本を運んでる問題」や「日本の津々浦々まですべての本を運ばなければいけないのか?問題」や「実は大手よりも古くて小さい版元の方が条件がいい問題」とかまだまだ要素は多いのですが、日経さんの第一報を受けて、基本的なツラツラを書いてみました。ぼくも日経さんの記事以上のことはまったく知らないので、今後いろいろわかっていくだろうことが超たのしみです。

最後にぼくがまず印象的だったのは、流通部分で頼りたいのはもちろんなのですが金融部分の「書店さんとの金銭のやり取り、回収」のところを丸紅さんかますのはめっちゃいい選択なんじゃないかなあというところ。まとめた人、すごいわあ。めっちゃ感心しますー。

あまり語られませんが出版のビジネス面もまたマンガと同じくらい面白いですね。

それではまた!

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