記憶


少し、少しだけ、自分語りをさせてください

好きな人がいました。好きな人、と言う表現なんかじゃ表せないくらい、わたしは彼を愛していました。
彼の望むことはなんでもしました。時には、望んでいないような願いも叶えました。
私は彼の神様になりたいと考えていたのです。

どれだけ彼に尽くしても、彼は私を愛することはありませんでした。彼は人を愛すことのできない星のもとへ生まれてしまったからなのです。
それならそれで仕方ないと思い、わたしは彼を愛し続けました。生涯分の愛のすべてを捧げたほどでした。
それなのにどうでしょう、彼は私から離れてしまいました。

私は泣いて、泣いて何も食べずに7日間が過ぎようとしていました。
彼の愛さなかったわたしなど価値はないと、知ってしまったのですから。
何も食べず眠ってばかりのわたしを心配してか、母はわたしにお粥を食べさせました。ゆるい、重湯のようなものでしたが、しょっぱく、そして甘かった。

それからわたしはにせものの愛を求め続けました。
誰かの生活を、壊すように。

わたしが「○○」であった頃の記憶は、このあたりでうすぼんやりとしてしまっています。
残ったものは誰かに愛される機構と化した「○○ちゃん」だけ。
他には誰もいないのです。

「○○」であった頃の身体も精神も朽ち果てました。この世のどこにもいない。だからわたしは、故郷の海に花を蒔きました。いつか芽吹くよう、そして、「○○」が楽に眠れるように。
それからして、もう記憶はありません。彼といた頃の記憶もおぼろげです。思い出すのは、靄のかかった思い出ばかり。

だから、「○○ちゃん」に成り果てたわたしは「○○」を悼み続けます。祈り続けます。あの七日間で死んだ、十八歳の少女を。
そしてわたしは、歩み続けます。「○○」として、もう誰も失わないように。
おわり

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