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(夢の話、オールフィクションです)


次のニュースです。
東京都A市で、女性がアパートの4階から飛び降りました。
近くに遺書のようなものもなかったこと、また同席していたふたりの友人からも自殺の兆候は見られなかったということで、警察は事件と事故の両方から捜査しており——。


被害者のB(仮名)は専門学生で、特に変わったこともなく毎日登校していたという。
しかし死亡した時に立ち寄っていた友人、Cは素行が良いとは言えず、学校をサボっては遊びに明け暮れていたという。この正反対にも思える2人を繋いだのが、服だった。
Cの服はBからすると魅力的で、特に某キャラクターの描かれた大きなニットを気に入っていたという。同級生からの証言でも、BはCのニットをいつも誉めていたという。それも嫌味ったらしい感じではなく、本当に心から可愛いと感じている様子だったという。


Bが死亡時にいたのは、Cの自宅だった。
元々仲の良かったふたりは、父親が不在の際によくCの家に集まっていたという。Cの家は父子家庭だった。ちょうどその時同席していた目撃者(以下、Dとする)は、こう語る。

「Bは何かを怯える様子もなく、いつものようにテレビを見ていたんです。ええ、いつもと変わらない様子でした。学校が終わって、Cに連絡を入れて、そのままの足で遊びに来る。これは私たちのルーティンでしたから、その日も特に不思議には思っていませんでした。

何をしていたか、ですか?

ちょうどその日はCが冬服の整理をしたいと言い出して、着なくなった冬服を取り出していたんですよね。部屋は散乱していましたがCの自宅もお世辞には綺麗とは言えなかったので、また突拍子もないことを始めたんだなと思いましたよ。それくらいですね。
それからBがやってくると、Cはいらない服があったら持っていっていいよ、と声をかけたんです。今は季節でもないし、フリマアプリに出品しようにも売れない時期だったんで、それならBが欲しいものがあればあげてしまおう。そういう考えだったのだと思います。
その服の中に、Bが特に好んでいたニットがありました。これもいいの?Bはそんなようなことを聞いて、Cは構わない、と言ったような返事をしたかと思います。冷房の効いた部屋でBは着替え始めて、Cが着ているたびに褒めていたニットワンピースを身に纏っていました。ワンピースはオーバーサイズで、小柄なBの膝丈くらいの長さになっていたでしょうか。その点Cは背が高かったので、少し不恰好には見えていましたけど、まあ特別変ではありませんでしたよ。

その後私は買い物に行こうかと、1階にあるコンビニに行ったんですね。人も揃ったし酒でも飲みたいな、と。
よくあるじゃないですか、1階がコンビニでその上にアパートが建っているような住宅。Cの家はまさにそれでした。

会計をしているあたりでした。急に鈍い音が聞こえたんですよね。最初は目の前が幹線道路だから交通事故かと思ってレジの店員さんと外に出たのですが、すぐに後悔しました。
単なる交通事故などではなく、Bが飛び降りていたんですよね。それも、もらったばかりのニット姿のままで。
4階って、運が良ければ助かる高さですよね。でも彼女の場合は違ったんですよ。まるで狙ったかのように、頭がかち割れていて……うう、少し休憩してもいいですか?

【少しの休憩後、咳をしたDが戻る】

ええと、Bが飛び降りたところからでしたよね。あたり一面に広がる血の海もそうですが、私、きっと見てはいけないものを見たんだと思います。

Bの死体に、明らかに水子が群がっていたんですよ」


その後Dが部屋に戻ると、部屋の隅で震えたCを見かけることになる。その点についても記録させていただいた。Dの協力に、ただただ感謝するばかりである。

「急いで部屋に戻ると、ベランダに一番近い部屋、わたしたちがさっきまでいた部屋の片隅でCが震えていました。顔は青白くて、いつもの活発な様子からは見て取れないような、そんな表情でした。
救急車をコンビニのお客さんが呼んでくれていたので、しばらくの間私たちはそうしていました。震えるCの金髪を撫でて——いえ、わたしにはそうすることしかできませんでした。
Cが言うにはニットを着てしばらくした途端急に窓を開けて飛び降りたのだと言います。衝動的に、何かに手を引かれるようだったとも表現しています。

しばらくするとCがぽつりと呟きました。」

『あの服、親父の子を堕ろさせられた時に着てた服なんよ』

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