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ホラー朗読用シナリオvol.1

ざっくり構造まとめ

これは〇〇(年代や季節を入れる)のときの話
→何をしていたときに起きた事柄だったのか
→日常から異変への気付き
→〇〇だと思っている(結論)

第1話『通話』

これは俺が大学生をしていたときの話。その頃の俺はバイト終わりに友人と通話するのが習慣になっていた。そのまま深夜まで話して寝落ちし、昼頃から始まる講義に参加するのが当たり前の生活だ。話してみると意外と話題はあるのもので──友人が聞き上手というのもあったのかもしれないが──「明日は寒い」だとか「今日の講義の課題がめんどくさい」だとか他愛のないことばかりだったが、毎日が楽しかったのを覚えている。いまとなっては、記憶に残りもしない話題で、ひとつひとつは思い出せない。ただその中でひとつだけ記憶に鮮明に残っていることがある。それは年末が近づいた肌寒い冬に突然友人が言い出した「彼女がいるかどうか」の話だった。あれから俺は深夜に通話することに苦手意識を持ってしまった。そんな話だ。

今回はその時のことを思い出しながら、書いてみることにする。

その日も変わらず俺がバイトを終え友人とオンラインゲームをしていた。この数年で流行りは変われど、FPSゲームの人気は健在で俺と友人もその魅力に惹かれ、時間を費やす日々を送っていた。時計の針がカチと音を立てるのと同時にスマホがぶるぶると震える。
「お、もうこんな時間……今日はこの試合で終わりかな」
ゲームをしていると熱中してしまうこともしばしば。思いがけず大声を出してしまうこともあるため、23時にはアラームが鳴るように設定してある。大学の寮という壁の非常に薄い物件で深夜近くまで大声を出すのはご法度だ。一度注意を受けたこともあり、このアラームが鳴ったらゲームから通話に移行するのが通例になっていた。
「んー…2勝2敗か……さっきの試合惜しかったな……」
「な、俺もあそこに隠れてるとは思わんかった」
タイミングよく試合はクライマックスを迎えており、岩陰から出てきたパーティに不意を突かれる形で試合を終えることになった。試合後の反省会を交えながら、大きくLOSEと書かれたブラウザを閉じる。
「じゃ、一旦5分くらい休憩で」
「あーい、俺も菓子とってくるわ」
コントローラーから手を離し椅子から立ち上がる。ぴたりと閉めきった戸を開けると外の冷気がすーっと入り込んでくる。年の瀬が近いためか、部屋と台所の温度差はかなりある。換気ついでに循環していく空気。ふぅとため息をつくと熱中して暖まっていた身体が冷えていく。
「さっむ……」
足早でお手洗いを済ませ席につくと、先に戻っていたであろう友人が開口一番「なあ」と語りかけてきた。俺は毛布を布団の上から引きずっていたところだったので、ヘッドホンから漏れ出た音声を拾うように耳にかけた。
「ん、どした?」
「前から気になってたんだけど、お前って彼女いる?」
「いや? いないけど?」
ここまではいつも通りだった。友人との会話は唐突なとこから始まることはあるあるで、次の話題に繋がっていることが多い。俺は素直にきょとんとしながら返す。大方、好きな人が出来たとかそういう普遍的な話題だろう。高校生ほどではないが、大学生にも色恋沙汰は絶えずに残っている。アルバイトもしていれば、年下や年上との出会いもザラにある。あまりそういったものへの興味のない俺は「その話題についていけるかな」と、その程度に思っていた。しかし、友人の意図は少し違かったらしい。

「いや、いるよな? いまも声してるじゃん」

その言葉を聞いた途端、背筋がぞくりと震える。思わず戸を閉め忘れたかと思うほどの悪寒が背中を走った。……後ろを振り向く勇気はない。

「な、何言ってんだよ。お前、俺が一人暮らしなの知ってるだろ?それに彼女いたらお前と通話なんてしてないって」

俺は思わずそうおどけて見せたが、友人は真剣な声で「ほらまた…」と言い出す。どうやら友人には本当に『彼女』とやらの声が聞こえているようだ。
「いやほんと冗談きつい。こんな深夜に怖いこと言うなよ…」
俺がホラーが苦手なのを知っているから脅かそうとしてるのか?内心びびりながら緩く付けていたヘッドホンを隙間ないように付け直す。

「……いやマジだって。逆に俺の事ビビらせようとしてるだろ……? 何ならさっきお前がトイレ行ってたときもしてたぞ……?」
「……」
「……え、マジでいないの?」
「……」

俺はどんな声?と聞き返すわけにもいかず、無言の時間が続いた。その間も友人には女の声が聞こえているらしく、だんだんと声に恐怖がにじんできていた。マジか……と小声で呟いた友人は少しだけ口を閉ざすと、
「……な、なんてな!」
「ごめんごめん! 急に怖いこと言っちゃったよな……」
無言の時間を打ち消すように友人は努めて明るい声で返してくる。
「だ、だよな! 怖がらせるなよ、まったく……」
俺もそれに合わせて無理矢理明るい声で返答する。その時お互いの声は震えていたと思う。それから早朝まで絶えず雑談していた俺たちだったが、話すこともなくなり、あまりの怖さで開店直後のファミレスに集合することにした。

以上が、俺が体験した話。友人から聞くに実は1週間前ほどから、マイクごしに女の声がしていたらしい。最初はあまり聞き取れないレベルだったのと、俺が友人には何でも喋るタイプだったので不審に思っていたようだった。最初は「シャイなやつめ」と思っていたが、日を増すごとにその声が近くで聞こえるようになっていったそうだ。

明らかにマイクのそばで発していそうになっても反応がないので、自分に対するドッキリかと思い聞いてみたのが昨日の夜の出来事…ということだった。特に女の声は会話と会話の合間に聞こえるらしく、何度も何度も「こっち、こっちにきてー……」と繰り返し呟いているのだそうだ。この現象は、大学卒業まで続き、引っ越したのちに解消された…が、それ以来俺は無言の時間が怖くてたまらない。


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