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干潟の守り方(SDGs14.2その4~海の豊かさの守り方2-1)

生命の楽園が減少して、生命のゆりかごさえその数を減らしているなか、救いの手は思いがけないところからやってきました。それは水鳥たちです。数が減っている水鳥達をなんとかしたいというところから話は始まります。水鳥とは水辺を住処にしていて、水中の小魚や干潟にいるような甲殻類などを餌にしている鳥たちです。その水鳥達が減っている原因はどこにあるのか、突き詰めると水鳥達が生活を営むべき湿地が減っていることに研究者たちは行きついたのです。こりゃまずい!住処がなければそりゃ減るのは当然だ‼︎ということで、湿地を調べてみると驚愕の事実を目の当たりにします。水鳥たちの食料調達である干潟がなくなってるばかりか、餌となるカニや小エビなどを育てるはずの藻場がなくなっているため、いくら干潟があってもこれじゃ十分な餌が生まれてこない。水中の方がもっと深刻じゃないかということになったのです。

この水鳥の減少に端を発した湿地問題は国際的な問題として取り扱われることとなりました。そして、1971年2月2日、イランのラムサールというところでこの水鳥の生息地を守ろうと国際会議が開かれたのです。そこで「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約」という取り決めが決まりました。この取り決めこそ「ラムサール条約」です。ここでいう湿地とは「天然のものであるか人工のものであるか、永続的なものであるか一時的なものであるかを問わず、更には水が滞っているか流れているか、淡水であるか汽水であるか鹹水(かんすい:海水などの塩分を含んだ水)であるかを問わず、沼沢地、湿原、泥炭地又は水域をいい、低潮時における水深が六メートルを超えない海域を含む。」とされています。つまり湿原を含めて干潟や藻場も守らないといけないよねとなったわけです。このラムサール条約は失った湿地を取り戻すために国家あげて取り組みましょうという条約で、世界169カ国が取り組むこととなっていきました。重要な湿地として登録されている数は2021年現在で世界全体で 2,314カ所、そのうち日本の登録地は52か所に及びます。

しかし、今までやれ「産業促進だ」だの「高度成長だ」だの海を壊し続けて、一度壊してしまったものは簡単には元には戻れません。人間が自らの手で失ってしまった湿地面積は85%にも及びます。(※2)しかも相手は自然です。いくら土を盛ったとしても川に流されたり、波によって削り取られたりしながら一向に新たに作る干潟は定着できないのです。人工干潟を作るにも1Haあたり数億~数十億かかることもあります。

とはいえ作ってしまった港や港湾施設を壊すわけにもいかず、たとえそのような施設を壊して干潟に戻したとしても元あった干潟に戻るかどうかは保証ができない状況で、今残っている現実的な手段はただ1つ。今ある干潟をどのように守るかということになるのです。現在残されている全世界の干潟の面積は12万7921Km²(約1280万Ha)。これが約40年前には15万Km²もあったのです。(※3)これは本州を除く日本の面積ほどあった干潟が40年で四国1つ分の干潟がなくなったことになります。もうこれ以上減らしてはいけない。というよりも減らせない。そのために日本では「里海」をつくろうという流れになってきました。里海とは海という自然に人間の文化が入ることによって海と人間が共存できる豊かな海の環境にしようという動きです。(※4)差し詰め里山の海版です。2007年に構想ができ、2008年には里海創生支援事業が立ち上がってきました。当初は4つの地区しかなかった里海つくりの活動も2018年には291例、690団体に増えてきました。(※5)海の地元に住む1人1人が海への理解を深めることが海を守るための最短距離なのかもしれません。

※1、ラムサール条約
https://www.env.go.jp/nature/ramsar/conv/index.html
ラムサール条約本文
https://www.env.go.jp/nature/ramsar/conv/treaty/RamsarConventionText_JP_rev171222.pdf
※2,さがみはら生物多様性ネットワークチャンネル「基礎からわかる生物多様性」
https://www.youtube.com/watch?v=524Nza4IV2o&t=1885s
※3、【生態学】全球的な干潟の消長をマッピングする Nature 2018年12月20日
https://www.natureasia.com/ja-jp/nature/pr-highlights/12821
※4、里海ネット
https://www.env.go.jp/water/heisa/satoumi/index.html
※5、里海つくり活動状況調査の結果(平成30年度)
https://www.env.go.jp/water/heisa/satoumi/common/satoumi_activity_report_h30.pdf



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