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軽やかに盛り付けられたカキフライに
レモンを絞って、ソースをたらりと、かける。

軍艦からこぼれてしまったいくらを
ふた粒ほど掬い
酢飯の上に戻して、頬張る。

もう全然ついていけないね
と紅白の演出にツッコみながら
家族と食べる夜ごはん、大晦日。

無愛想な父はひとりでお酒を飲み続ける。


2021を、じゃなくて
今日を、振り返る。



本当にひさしぶりに
正面から父を見た。

幼いころ、あんなに大きく見えて
そして大嫌いだった父の
その目に今日

死んだ祖母を感じた。


目の光り方と頬骨の尖り方が
祖母のそれだった。
目が大きくなったなとも思った。


父がときたま笑うたびに
父の何かが少しずつ
弱っていくように感じた。

父の淹れてくれるコーヒーは
相変わらず苦すぎるままだったけれど

変わっちゃったなと思ったのは
歩くたびに奏でられるスリッパの音が
とても小さくなっていたこと。


パタパタと騒がしく
家中を駆け回っていた昔のあの音が
今ではすっかりと乾いてしまって


父が2階に上がってきても
そのことになかなか気付けなくなった。



私が20歳になったときに
父は
私の生まれ年のワインを
奥の方から取り出してきて

一緒に飲まんかと誘ってくれたのに
父のことが嫌いで、断ったのが去年。


21歳になって、帰省して
飲みたいと言ったら

コルクをボロボロにしながら
白ワインを注いでくれた。


寂しがりやなくせに変わり者で
たまに
父は本当に幸せなのかなと思う。


私はたぶん、さいごのさいごまで
父のことを好きにはなれないけど

帰省のたびに一緒にお酒を飲んで
くどすぎる話にちょっとは付き合いたい。
21歳だし。


大きく口を開けたつもりだったけれど
カキフライのソースが、唇についた。

そこにポツリとあるのは小さなほくろ。
父と、まったくおなじ場所にある、ほくろ。


お父さん、と思いながら
ぺろりと舐めておいた。

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