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シナモンロールちゃん

人に言えたものでないが、ふと思い出した昔の知人の名前をGoogleで検索することは私にとって日常茶飯事である。すきだった人も、そうではなかった人も。私の中に0.1秒でも印象的に光った誰かたちは私の脳を今でも少しずつ占拠していて、なんでもないタイミングでふと顔や声が、というか名前が蘇ることがある。今日は、小学校のときのトロンボーンの先輩の名前が蘇った。

私のランドセルはシナモンロールの水色だった。2007年の田舎の1年生に水色のランドセルは私しかいなかった。1人なんか嫌だと周囲の人には言っていたが内心オンリーワンが少し心地よかった。ひとつ上の学年に、顔がシナモンロールそっくりの死ぬほど可愛い女の子がいた。顔も可愛ければ性格も良くておまけに名前の漢字までかわいかった。「星」を「ほ」と読むなんてずるいと思っていた。星みたいに輝くまんまるい目だった。

4年生になって入った学校の金管バンドではどう見ても主役っぽくて華奢な金ピカのトランペットを吹きたいと志願した。が、歯の矯正中で細いマウスピースを上手く吹けなかったから、どでんと大きくて長いトロンボーンに左遷だった。落胆していたところ、顔を上げるとトロンボーンパートにはシナモンロールちゃんがいた。全部どうでも良くなった。すごく優しかったしやっぱり可愛かった。楽譜に書き込む「だんだんおおきく」の文字がとても綺麗だった。

どういうわけか中学で離れて高校は同じ学校になった。何年かぶりに見ても可愛かったし、話すことはなかったけれど会うたび少しペコっとしてくれた。文化祭の時に可愛い子だけが入るアイドルコピーのダンスグループに招待されないのはどうしてなんだろうといつも思っていた。綺麗な顔の彼氏がいた。私から見えるシナモンロールちゃんは完璧だった。

何度も読み返したくなる文章なんてそう出逢えないと思うが、学校の文集に載っていたシナモンロールちゃんの読書感想文はレベルが違った。当時映画化されて話題になった、確か主人公の女の子が死んでしまう恋物語についてだったが、真っ白なレースやサテンのリボンをグレーの闇に引っ掛けてピンクのラメパウダーで仕上げた世界みたいな、なんて可愛くて聡明な文章なんだろうと思った。何度読んだかわからない。シナモンロールちゃんは小学生のときからよく作文で入賞していたから、きっとそういうセンスが大人の審査員を震わせていたのだと思う。

星のついた名前をGoogleで検索した。勝手にごめんなさい。そしたら、noteのアカウントを見つけた。もう2度と読めないと思っていた世界がいくつか投稿されていた。奇跡だと思った。文体の柔らさから本人だと確信できた。フォローしたいけど、恥ずかしいからやめておく。それらを読む限り、シナモンロールちゃんはこの数年、多分たくさん泣いている。きっとまんまるの目が重たく腫れてしまったと思う。優しいから、自分の性格を弱いと書いていた。私はそんなシナモンロールちゃんの文章にまた出逢えたことがこんなにも嬉しいのだと伝えたら、世界にこんな奴がいるんだと伝えたらもしかしたら少し笑ってくれるかな。いつかフォローしたいな。私も書く仕事に就きたいと思ってるんだ、聞いてよシナモンロールちゃん。

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