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おじいちゃんの葬式

14年前、一緒に住んでいた父方の祖父が亡くなった。私はその当時能力をあまり使わなかったからなのか、虫の知らせも予知夢もなかった。ただ、最後に会った病院で祖父の笑顔を見た時、これが最後かもしれないと思っていた。

お葬式のため実家へ帰った。畳の部屋の一角には、祖父の亡骸が寝かせてあった。冷たい顔を触った瞬間涙が止まらなかった。

その当時実家では猫4匹と犬を飼っていた。猫たちは祖父の遺体が戻ってきてから葬儀が終わるまで全匹絶食をし、祖父のそばを離れなかった。それは何を意味していたのか、何らかの猫たちの儀式だったのか、それは誰にも分からなかった。

お通夜の日になり、私は弟と隣同士で座っていた。すると、急に肩が重たくなった。なんだろう、肩こりかしらと思いながらも弟を見た。すると、弟も肩を触っていた。
「肩痛いの?」
私は小声で弟に質問した。
「急に肩が重たくなったんだよ。」
「どっちの肩?」
「左」
そう聞いた時、もしかしてという思いがした。
私は右肩、弟は左肩。
私は集中して空間の感覚を研ぎ澄ませてみた。
すると、私と弟の間には私たちの肩につかまった祖父が立っていた。

祖父は亡くなる半年くらい前に、雪道を滑って粉砕骨折をしていた。そのため片足が短くなり、常に杖などを使っていたのだった。
今思えば、亡くなったら全ての痛みから解放されて浮けるはずなのだが、何故私たちにつかまっていたのかは謎である。

私は弟に、
「おじいちゃんここにいるよね?」
と言ってみた。
すると弟も感覚を研ぎ澄ませて、
「うん、いる」
と言った。
そう、私たちは霊感が強いのである。

祖父は私たちの肩につかまって、自分のお通夜を見ていたのだ。それは一体どんな気持ちなのだろう。祖父のことだから、
「いやー、もっと髪の毛があったら良かったのになぁ〜」
なんて言っているに違いない。
そんな訳で私たちの肩の重みは、幽霊になった祖父の体を支えていたからなのだった。

葬儀は大きな式場であげられることとなった。
祖父は中小企業ながらも1代で立派に会社を作り、そして人脈もあった。新聞にも掲載したほどだった。
私はもう悲しくなくなっていた。
なぜなら祖父が式場についてきたからだ。
みんな泣いているのだが、ここにいるじゃないか。私は弟とそう思っていた。
式も中盤になると、祖父はあちこち動き始めた。自分の顔を見たり、花を見たり、人の顔を見たりして、なんだか楽しんでいるようだった。

火葬場へ行ったときには祖父の姿が見えなかったので、自分の体が焼けてしまって悲しんでいたのかもしれない。そんなことを考えていると、私はニヤニヤしてしまっていた。

家に戻ってから、みんなが玄関でお清めの塩を自分にかけていた。すかさず私も弟も塩を振りかけた。
「あ!!」
その瞬間、祖父は私たちから離れていった。
そうだ、祖父がいるのに清めてしまったのだ。
それから祖父の姿は見えなくなった。

私は人が死ぬことはとても悲しいことだとずっと思っていた。
でも祖父の姿を見て、半透明だけどもここにいるということが、私は嬉しかった。
幽霊は別ものだと思っていたが、なんだかとても近いところにいるんだと実感した。

人は亡くなったら1度上に行くが、49日までは下に戻っている。
だから亡くなった人の悪口や相続争いも全部聞いているのだ。
泣いてばかりじゃなくて、もっと懐かしんだり楽しんだりしてくれると喜んでくれると思う。

寿命は誰もが訪れるもの。
それは悲しいことではなく、人間界での修行から解放されるときなのだ。
だからその時はこう言ってあげよう。

「お疲れ様」


また数年前からしょっ中私の前に出てくるようになったのだが、それはまた別のお話…。


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