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綺譚 五芒星神族の神官たち――若き監察官が直面したもの

神官であり「監察官」を務める男、タオが本棚から思わず手に取ったのは、『五芒星神秘学』と書かれた教科書だった。

奥行きのある部屋の両側を埋めた本棚は、かなりの迫力だ。
この【ソの国】の経済発展は近年著しい。
機に乗じて事業を成功させ、大きな富を築いた者も少なくない。
だがそれにしても、これほどの所蔵を誇る実業家は珍しいはずである。

【ソの国】が栄えるこの世界のこの時代は、我々が言うところの産業革命の最中にあった。
各国で石炭と蒸気機関にはじまる産業技術が発達してきたといえども、活版印刷と製本はまだまだ人手と労力を必要とする大仕事だ。

にもかかわらず、これだけの書籍を私有できるということは、館主が金持ちであること以外の何ものでもない。
加えて、財力はもちろん、かなりの知的好奇心に溢れた人物であることをよく示している。

あらためて本棚を見渡すと、哲学、歴史学、文学・詩学、言語学、芸術はもちろん、数学、化学、生物学、地質学・鉱物学、医学、国家論、軍学までもある。【ソの国】と海を隔てて隣り合う各国の旅行記もあれば、夫婦円満の秘けつを面白おかしく綴った書籍、おとぎ話や新聞の風刺漫画をまとめたものなど、雑学分野についても事欠かない。

神官のタオが特に関心を示したのは、神学、宇宙論、占術、気功法などを論じる【神秘学】のラインナップであった。

タオは、【ソの国】神官を務める。
神官は、特殊な経験と【神秘学】の希なる素養をもつ男女から選抜され、この国の命運を担う職務に任命された人物たちだ。
加えて彼は、神官の中でも特殊な能力を認められ、通常の神官とは別の特殊な職務に就く「監察官」でもある。

しかもタオの年齢は、20代前半。年代の中央値が30代後半から40歳前後を越える神官のなかでは、若手中の若手である。
それでもこの職務に就けたということは、相当な能力の持ち主と言っていい。

タオが手に取った書物『五芒星神秘学入門』は、姿は見えないまでもこの国において最も重視されている神々、【五芒星神】の伝説を平易に読み解いた、その名の通りの入門書である。
世間一般においては初学者向けの本で、行政や工学を学ぶ高等学院の学生も教養のために読むたぐいのものだ。

だが、タオのような神官たち、特に若い神官たちの間では、こんな噂がたっている。
どうやら、文面に、特殊な黒魔術の呪文が隠されている、と――。

もちろん、そうした噂は【大神官群】の上級神官たちは一蹴する。
大神官群とは、国の神官を統括する組織で、世界を司る【五芒星神】の神託を受けつつ、【ソの国】の国王や政府に助言する立場にある。
かつ、神官たちの指導役だ。
神秘学に類する特殊能力と、特別な知識を使いこなす大師(マスター)たち。
その能力と知識の重要性から考えると、ある意味、大神官群は国王や政府よりも「上」に位置するのかもしれない。

立ち戻ってその黒魔術だが、その割り出し方を知り、呪文を使いこなすに至った者は、あらゆる望みを叶えることが可能だという。モノや富、永遠の健康と若さ、知恵、さらには他者を操ること。つまりは、邪魔者を死に追いやることもたやすい。

ただし、そのような黒魔術の扱いは当然、極めて難しいという話もついてまわっている。
過去に少なからぬ者が黒魔術の呪文を割り出したものの、制御を失い、人生、あるいは命をも犠牲にしてしまったという内容だ。

商人であるここの館主が、それと知ってこの書物を所有しているとは考えにくい。
だが、神学、魔術、気功治療、その他神秘学に関連する領域の知識は多少なりとも備えていると考えて良いだろう。

いや、事業の成功がそもそも、魔術の後ろ盾によるものだとしたら?

それはないと思うが油断は禁物だ。
そう心に決めた直後、タオは後ろのドアがゴトリと開く音を聞いた。

「お待たせしました」

齢は定かではないが四十がらみの男だと聞いていた。
背は高め、筋肉質だが、やや腹の肉づきが目立つ。確かに、風貌は典型的な中年男だ。
しかし年齢の割には精力に溢れた印象もある。

タオは【霊視の術】において視覚的な能力が高いタイプではない。
つまり、霊の世界の物事が目視で確認するのはあまり得意ではないほうだ。――どうやら得意な連中は、物理世界の上に、様々な霊の世界の動きが、ガラス板の上に絵の具を載せているかのように見えるらしい。

ただそのようなタオであっても、事業を成してきた男に特有の磁力線のようなものが一瞬、視界を覆った。
風圧のある硬い気の力をまとっており、それがさざ波のように伝わってくるのが感じられた。

この人物が、館の主、タカムネであった。

タオは手に持った書物をパタリと閉じつつ、慌てて詫びの旨を伝えた。
一方、タカムネは自らの寛容さを誇示するかのように手を差し出して、大仰にどうぞどうぞと促した。

「さすがは神官の方ですな。目を付ける書物が、通常のお客さまとは少し違います」
「神秘学の本の取りそろえがすごいですね。失礼ながら、タカムネ殿のご職業からすると正直、意外に感じまして。思わず手に取ってしまいました」
「長く商売をする中で、五芒星神のお姿がいろいろな現象の裏にあると実感するようになりましてね。若い頃は特に気にせず生きていたのですが」
タカムネは、もう私もいい年ですかな、と言いつつ軽快に笑った。

次いでタカムネは部屋の中央にある、いかにも高級そうな丸テーブルに歩み寄った。
その中央には小ぶりだが手の込んだテーブルライナーが敷かれていた。五芒星神族を象徴する五芒星が中央に描かれ、それぞれの頂点には五神の紋章が金糸であしらわれている。

「五芒星神族は不思議な存在です」
むしろ神秘学的な話題を切り出したのは、神官のタオではなく、タカムネのほうだった。

次いで一通り語ったのは一番最初に出現した女神、【大地の神】のエピソードである。
大地の神は「母なる大地」という代議語にも象徴される聖母神だが、その夫は、世界に混乱を招き恐怖と苦しみをもたらした悪魔、【大魔王】である。
そしてその子供である【血液の神】は、あらゆる病気と災厄と死を司る神で、人間の目から見れば異形そのものの、両性具有の存在だ。
悪もあれば善もある、矛盾だらけのこの世界を象徴するかのようである。

聞き手である神官のタオにとってはもちろん、反射神経レベルでそらんじられる内容だ。むしろ神官レベルになればそれら五神が象徴する世界の実態と、その間にある構図も詳細に学ぶことになる。

一方で、タカムネの語り口も負けず劣らず五神の特徴をうまく押さえていた。この男が高い知性を備えていることを示している。

しかし、講釈を垂れる相手が若造とはいえ、神官の一人と知っているはずのタカムネである。タオに改めてこんな話をする意味は何か――。
タオは無言のまま、タカムネの次の出方を伺った。

「あなたは、いま、この国が崇めている神々のすがたが、本当の神々のすがたであるとお思いですかな」

神官であるタオはぎょっとした。
これは異端の考え方だ。

個人的な意見として私的な場所で述べるのであればまだしも、公的な場で述べれば、神国不敬罪として訴えられかねない。罰金刑はもちろん、強固な姿勢をとり続ければ神殿における再教育措置や奉仕活動は逃れられず、酷ければ禁固刑、さらには公文書による一般への告知も否めない。
タカムネほどの地位があるものであれば、もしそのような刑に処せられれば、庶民が好むゴシップ新聞にとって格好のネタになることは間違いないだろう。

やはり監査に来るべくして来るための、この館だったのか――。

タオは通告した。
「貴殿にはご存じの通りとは思いますが、今のご発言は神国不敬罪に当たります。ましてや私は今日、神官として調査のためにこちらに来ました。
 そのことはご存じでいらっしゃるかと? いまのご発言、私は神官として大神官群に報告しなければなりません」

この通告に対してむしろ堂々と返したのは、タカムネのほうだった。
「もちろん知っています。――ですが神官殿。監察官として来たあなただからこそ、私はこれを申しているのです」

タオはあまりにも意外な回答をよこす中年男の様子に、戸惑いと驚きを隠せなかった。
「どういうことでしょうか?」

「五芒星神はいま、これまでこの国が崇めてきた姿とは、だいぶ変わってきています。神もこの森羅万象を構成するものであれば当然、永遠に同じままのすがたではいられない」

そう説明しながらタカムネは丸テーブルの外周をなぞるようにゆっくり歩き始めた。

「それに対して大神官群の在り方はどうでしょうか? まったく変わらない。対となる政(まつりごと)もそうです。
 組織は旧態依然とした体制を崩さず、ただただ、既得権益と大神官群としての面子と権威を維持しようと、そこにすがるのみ。
 最近は隣国の経済的・軍事的な圧力も無視できませんが、それこそ内なる怠惰が外側に現れたと言っても過言ではないでしょう」

わざとらしい歩みの止め方が鼻についたが、それが本当に意図的なのかは推し量れない。タカムネは両足を揃えたまま、タオのほうにくるりと向き直った。

「つまり、この国ではいま、五芒星神が、本来の姿ではない形で信奉されている。それがこの国の内憂外患をまねているわけです。これが一体どういうことか分かりますか?」

つまりは、いまの大神官群は間違っていると言いたいわけだ。
しかしタオには、この男の真意が理解できずにいた。
ましてや、商人が神秘学にかかわる論争を神官に仕掛けてくるとは。

侮辱された気分とともに、どう処分を進めるか考え始めたところに、異変が起きた。
空間の圧が急速に増した感覚を受けたのだ。

部屋の空調が変化したわけでもなく、外気が流れ込んできたわけでもない。
これは一体――?

いつの間にかタオは真っ黒な空間の中、宙に浮かんでいた。
目の前にも、上方にも、そして足下にも空間が広がっており、自分を取り囲む全周に、天空の星空が広がっている。
不思議な光景だった。

確実なのは、これは夢でも何でもないということだ。

異常な空間に切り替わったにもかかわらず、変わらず同じ位置に立ち続けているタカムネが、次いでこう問いかけた。

「もし、大神官群の上級神官たちが、自分たちも分からぬ形で闇にとらわれているとしたらどう思いますかな」

どういうことだ? 

【ソの国】は、太古から連なる王族を君主に掲げ、民意により選ばれた代表政府が政策立案と実行を進める立憲君主制を敷いている。
だがその実、王族の歴史以上に古いと言われる【大神官群】による神意の下達が、王族と政府の意思決定の拠り所として強く機能していた。
それは古来からこの国の理(ことわり)であり、国の民なら老若男女、誰もがよく知っていることである。

「あなたは純粋すぎる。それゆえに、若いながらも監察官にまで上り詰めたということでしょうが」
「何が言いたいんだ。いま俺たちに何が起きている!?」
「結界を張りました。神官、特に監察官の方々は、上級神官たちに常に思念を見張られていますからね」

ただの結界などではなかった。むしろタオの意識空間を、本人の同意があるかどうかに関わらず、丸ごとタカムネが構成する意識空間に連れて行かれた格好だ。

「あなたは、我々【白竜の鱗(うろこ)】に入って活動するべきだ」

なんだそれは。秘密結社みたいな変な名前だ。

「内部からこの国を本来の姿に戻す。そのためにあなたの力を借りたいのです」

あれから何年が経過したか。

【白竜の鱗】から見るこの国は、内部から崩れつつあった。
まるで不摂生を繰り返す肉体の中で、気づかぬうちに進む病のようでもある。

原因はいろいろあるが、大きな原因の1つは、大神官群にあった。
それに付随する政(まつりごと)もだ。
辛うじて王府はその威厳を保っていたが、これら二つの軸がもつ病に、引きずられていた。

大神官群の腐敗が始まった理由は何か。
腐敗の種は、あのときに拾い上げた書籍、『五芒星神秘学入門』に仕込まれた黒魔術にあったようだ。
まだタオが調査している段階だが、どうやら大神官群の誰かが、五芒星神秘学入門の黒魔術を使って何かの術を行ったようだ。
どのような経緯で黒魔術の使用に至ったか、詳細は定かではない。
だが、どうやら一部の上級神官たちが、内部抗争に決着をつけるために使用したらしいという点までは突き止めた。

使う理由は、何らかの正義の理由だったのかもしれない。
けれども、術者である上級神官の力不足で、黒魔術にとらわれてしまった。
上級神官たち自身が、自らの考えに固執し、下ろす啓示にブレが生じてしまっていたのだった。

“正義”が、国家自体の混乱と衰退を招いたとしたら、皮肉なことだ。

タオは相変わらず、神官であり、また監察官でもある。
その一方で、【白竜の鱗】の構成員でもある。
時間としては神官としての業務が多いが、心の軸足としては、【白竜の鱗】のほうが比重は大きいかもしれない。

タオがいま、足早に向かっているのは、ある館――【白竜の鱗】の拠点だ。

神官でありながら、自らが所属する大神官群に対して、影から睨みを利かせる立場になろうとは。

同じ【ソの国】に対してスパイをしているようなものだな――。
そう呟くタオだが、決していまの立場は嫌いではない。

【白竜の鱗】は、古来連綿と続く神秘学を引き継ぐ組織である。
その意味では大神官群にも近しい組織だが、こちらの源流は、国王付きの大神官群とは異なる。仙人とも言うべき特殊能力者たちの集団だった。
長い歴史を経る中である時点から、大神官群とはまた別の形で【五芒星神】の啓示を受け、五神の指示に従って【ソの国】内で活動を始めたのだった。

彼らが駆使する魔術の種類は幅広い。

時には、水が乏しい寒村で、井戸の水源を特定する仕事を支援した。
その土地で薬草として使える草花を特定し、その加工方法を伝授した。
またある時には、山間の盗賊集団を追い出して、地域に平和を取り戻した。
近代化以降は、科学上の発見を支援するようなこともしたという。

彼らの霊的感性に応じて五神が与える啓示は、【ソの国】をいわば民草の世界から盛り上げるものだった。

建物の中、エントランス部には、大きな円が描かれている。
右側は黒で塗りつぶされ、左側は白で塗りつぶされている。
両方が織りなすこの世界の真理を表したものだ。

この真理から考えれば。
おれは、世界の片方しか見ていなかったのではないか。

タオは使用人たちに会釈をしながら、館の階段に近づいていった。
階段は螺旋を描くように上階へと繋がっている。

国のためという気概もあったが、タオに何よりも神官の道を歩ませた理由は、見えない世界を知りその力をものにしたいという万能感への欲求、そして国に携わっているという自尊心と見栄だった。

しかし、自信を持って歩み続けた後に見えたのは、まるで暗闇だった。

タオはタカムネから真実を知らされ、【白竜の鱗】に加わってからの怒濤の日々を通して、暗闇に新たな光が灯された。

【白竜の鱗】が五芒星神から受け取った啓示、それは、「民草から大神官群を変え、ソの国を変えよ」とのことだった。

五神の導きがありますように、と、タオは儀式の文言に留まらない、真の祈りを、階段を登りつつ捧げた。

思えばおれは過去ずっと、自分のために五神に祈り続けていたようだ――。

心の底から偉大なる存在たちを求めた自分を自覚したその時、タオは、自らの奥底に歓喜が溢れてくるを自覚した。

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