綺譚 五芒星神族の物語
世界には何もなかった。
あえて言えば、「無」があった。
「無」に「光」が差し込んだ。
光は、無なるところに五芒星を描き始めた。
五芒星の各頂点に神が現れた。
最初に現れたのは「大地の神」。この大地の生命活動を司る女の神だった。
次に現れたのは「水の神」。大地の半分以上を覆う、海と川を司る、これまた女の神だった。
大地の神、そして水の神という姉妹は仲がよく、この地上にあまたの生命を生み出した。
五芒星の3つめの頂点に現れたのは、「火の神」。あらゆる灯火を扱うこの男の神は、時にあらゆるものを燃やし尽くす暴れ者。大地の神も、水の神も、この弟を嫌悪したが、燃やした灰からは不死の鳳凰をも生み出した。それを称えられた火の神は、2人の姉を崇敬した。
4つめの頂点に現れたのは「鉄と金の神」。この4人目の弟は、大地の神、水の神、火の神が吐き出す土、水、灰を使って鉄と金を生み出した。
これら4人の神が地上を変化させている間に、人間が生まれた。人間はこれらの神の似姿であり、男女がおり、たくさんの子をなした。
人が生まれ、地上が賑やかになる中、事件が起きた。
大地の神が、大魔王と呼ばれる存在と結婚をしたのだ。大魔王は五芒星のどこにもいなかった。
その間に生まれたのが、五芒星の最後の頂点を司る5つめの神、「血液の神」。
血液の神は、男女それぞれの特徴をもっていた。顔は左右で違っており、乳房があり、男性器もあった。
血液の神は、人間たちに入り込んだ。そしてその人間がこの地上を去るべき時に、寿命を終わらせる役割を果たした。
人にはそれぞれ個別に自我があった。たくさんいる人間の中には、「まだこの地上にいたい」と血液の神のやり方に抵抗する者もいた。
だが、血液の神は、それら人間一人ひとりがこの地上を去るべき時を知っていた。
それゆえに、「血液の神」は人間に災厄をもたらし、病気をもたらし、否が応でも地上を去らせた。
さらに血液の神は、大魔王と呼ばれる存在のいわれ、様々な魑魅魍魎をこの地上に連れてきた。
魑魅魍魎は好き勝手に活動し、人間を困らせた。
血液の神が生まれたことで、人間には病苦、老い、災厄、争いごと、様々な不幸がつきまとうことになった。
こうして世界は生と死、秩序と混沌、創造と破壊が入り交じる場所となった。
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