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「シンプル」が成果をもたらす


「KISS」

ぱっと見はシンプルに、「キス」と呼んでしまいますが実はこれ、とても重要な至言の頭文字。「Keep It Simple Stupid(バカでもわかるようにシンプルにしろ)」の略で、ビジネスの基本にしている人も多いそうです。どういうことでしょうか?

認知の流暢性」とは、何かを理解するのが簡単であればあるほど、私たちはその何かをより有用で、より心地よいと感じ、より説得力のあるものとして一般に肯定的にとらえることを示す心理学の法則。数多くの研究でもその高い信憑性が報告されています。たとえば「商品名」 読みやすい書体か読みにくい書体かで、製品の売り上げは倍以上の差を生みます。

ビジネスにしろ、サッカーなどのスポーツにしても、試合前は綿密な計画と戦術を検討し、くり返し練習を積んでキックオフを待ちます。ですがいざ、店頭で販売がスタートしたら細かい計画をイチイチ考えている暇はありません。ピッチ上で戦術のひとつひとつを指折り思い出して実行に移す余裕もありません。

戦争」を取り上げてみるとわかりやすいでしょうか。敵を前にした兵士にとって、事前にレクチャーを受けた司令官の詳細な指示が役に立たないことは、軍隊の経験がない私でもなんとなくわかる気がします。同じように顧客を前にした販売計画も、ドリブルで向かってくる相手選手を前にしたときの戦術も、無に等しいといったら言い過ぎでしょうか。

一番大切な本質をむき出しにするような単純明快さ。ひと言で済ますとか、優しくかみ砕くといったものではなく、大事なのは的確さと優先順位です。平易化ではありません。元米国大統領クリントン氏の選挙参謀であったカービルは「3つ言うのは、何も言わないのに等しい」と訴えてスタッフを奮起させ、大統領選挙を勝ち抜きました。

北極星は北の方位を私たちに知らせてくれますが、北極星が5つもあったら困ります。それと同じように、社長や監督、司令官の意図が5つもあっては現場が混乱します。提案がシンプルであればあるほど、売れる可能性が高くなるのは営業やビジネスの常識。

誰でも理解できるほど単純明快か。お客さまの選択を助けるためにできることはないか。提案が持つ複雑さの分だけ販売効率は下がります。提案をシンプルにするということは、ひと言でいえば、お客に変わって選択をしてあげること。メッセージを飾ったり難解にしたりせず、すんなり理解されるようにしたほうがいい。

18世紀のイギリスの詩人、サミュエル・ジョンソンは、

「今日は時間がなくて短い手紙が書けない。だから長い手紙になる」

というジョークを残したといいます。単純性には偉大な美しさがあり、その本質的ですっきりとした簡潔さは、脳にとって「ハニー・トラップ」になる。甘い誘惑の罠になります。単純さ=「なるべく時間をかけない」ということ。先史時代における私たちの祖先は、困難な状況に直面したときに「正解」を思いついたものが生き残りましたが、なかでも「一番に思いつく」ものが生存競争を勝ち抜きました。

トラが目の前に現れたとき、「正解」の近道をいち早く、過去の経験から引っ張り出さないと一瞬でやられてしまいます。数百年におよぶ進化の歴史のなかで、私たちの脳は近道することを覚えたのです。経験則を利用して、数億バイトもの情報を取り入れて対応策を作成するときに必要なのは「単純明快さ」です。

今日は上司に進捗の報告。最近はなかなか理解されないことが多かったですが、ちょっと視点を変えて「シンプル」に攻めてみたところ思いのほか高評価。なんでだろうと考えていましたが、過去に読んだ本を引っ張り出しては「なるほど!」とうなずきながらまとめてみました。単純がサイコーです

久保大輔




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