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第14期イラン大統領選挙の結果

選挙の概要

6月28日、第14期イラン大統領を選出するための選挙が実施された。同選挙は5月19日にヘリコプター墜落事故で現職のエブラーヒーム・ライーシー大統領が死亡したことによる選挙である。

監督者評議会による事前資格審査により80人の立候補者は6人にまで絞られ、保守強硬派のアフマディーネジャード元大統領やアリー・ラーリージャーニー前国会議長、保守穏健派のロウハーニー政権期のジャハーンギーリー前第一副大統領等の有力者は事前に排除された。残された6人の候補者は、改革派のハータミー政権期に保健相を務めたマスウード・ペゼシュキヤーン国会議員を除く5人が保守強硬派の政治家であり、有権者に選択肢を残しつつも保守強硬派の体制にとって都合の良い選挙となっていた。投票日までに2名の保守強硬派候補が撤退を表明しており、最終的に4人の間で選挙戦が行われた。

選挙結果

6月29日に内務省が発表した選挙結果は以下の通りである。過半数を獲得した候補がいなかったため、今回の選挙で一位通過したペゼシュキヤーンと、二位通過したサイード・ジャリーリーによる決選投票が7月5日に実施される。

出所: イラン内務省より筆者作成

改革派のペゼシュキヤーンが総投票数の42.5%を得票し、第一回投票で一位通過となった。ペゼシュキヤーンは2001年から2005年まで改革派のハータミー政権にて保健相を務め、2008年からは東アゼルバイジャン州選出の国会議員を5期16年務めているものの、全国的にはほとんど知名度が無い候補であった。今回の選挙戦では唯一の改革派候補として、改革派・保守穏健派からの支持を広範に集めたことが予想外の躍進に繋がったと見られる。討論会では、保守穏健派のロウハーニー政権期に核合意をまとめたザリーフ元外相を顧問にして臨み、他の陣営と激しい議論を交わして大きな存在感を発揮することに成功した。

保守強硬派のベテラン政治家であるジャリーリーは38.6%を得票し、第一回投票を二位で通過した。ジャリーリーは2013年と2021年の大統領選にも出馬している保守強硬派のベテラン政治家であり、2007年から2013年まで国家安全保障最高評議会(SNSC)の書記としてアフマディーネジャード政権期の核交渉の責任者を務め、タフで強硬な交渉者として国際的にも知られている。体制に忠実な理論家と評されており、保守強硬派の岩盤支持層を固めることでライバルだったモハンマドバーゲル・ガーリーバーフ(得票率13.8%)との差をつけたものと見られる。

選挙戦は保守強硬派優位が予想されたことで、投票率は39.9%と過去最低を記録した。前回の2021年大統領選でも保守強硬派のライーシーが選出されることがほぼ確定的だったため、イラン大統領選史上最低の48.5%の投票率を記録したが、今回はそれをさらに大幅に下回ったことになる(前々回の2017年大統領選の投票率は73.3%、その前の2013年は72.7%)。体制による選挙への統制が厳しくなるにつれ、国民の間では政治への無関心層が広がっており、イランの民主主義の退潮傾向が強まっている。

今後の展望

第一回投票では改革派のペゼシュキヤーンがリードしたが、決選投票で有利なのは二位通過したジャリーリーである。ペゼシュキヤーンとジャリーリーの得票率には3.8ポイントの差があるが、三位で落選したガーリーバーフの支持層は決選投票では同じ保守強硬派陣営のジャリーリーに票を投じることが確定的である。仮にガーリーバーフの支持者の8割がジャリーリーに投票すると仮定すると、ジャリーリーとペゼシュキヤーンの得票差は7ポイント以上開くことなる。ペゼシュキヤーンが票を伸ばすためには投票に行かなかった層の票を掘り起こさなければならないが、結果を覆すためにはおよそ170万票が必要であり、一週間という短い期間で動員できる可能性は乏しい。

ジャリーリーが大統領に就任した場合は、2021年から続くライーシー路線の継承となるだろう。現職大統領と次期最高指導者候補を一度に失ったイランでは内政の安定が最優先であり、大胆な政策変更が起きる可能性はほぼない。ジャリーリーは核問題において西側諸国と協議することを否定しており、2022年に大規模なデモを引き起こしたヒジャーブ問題については女性のヒジャーブ着用の有用性を繰り返し強調してきた。ジャリーリーはライーシー以上に不人気な大統領になるだろうが、体制の忠実な擁護者であるジャリーリーの権力基盤が揺らぐことはないだろう。ジャリーリー政権の安定は、次期最高指導者候補の選出というより深刻な国内課題を調整していくための前提になると見られる。

第一回投票の最終結果
出所: Press TV

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