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第10回中国・アラブ諸国協力フォーラム閣僚級会合が北京で開催

5月30日、北京にて第10回中国・アラブ諸国協力フォーラムの閣僚級会合が開催された。2004年にエジプトのカイロで初めて開かれた中国・アラブ諸国協力フォーラムの閣僚級会合は、その後2年置きに中国といずれかのアラブ諸国において交互に定期開催されてきた。前回の第9回会合は2020年7月に開かれており、今回と4年の月日が空いてしまっているが、2022年12月にはサウジアラビアのリヤードで初となる中国・アラブ首脳会合が開催されているため、今年の北京開催は定例通りの開催である。

今回の会合で目を引いたのは、閣僚級会合にも関わらずアラブ諸国から4カ国の首脳が参加したことである。バーレーンからハマド国王エジプトからシーシー大統領チュニジアからサイード大統領UAEからムハンマド大統領がそれぞれ出席しており、2020年以前の閣僚級会合では主催国以外に首脳が参加することがほとんど無かったことを考えると異例のことと言えるだろう。4カ国の首脳は単なる実務訪問ではなくいずれも公式訪問として来ており、習近平・国家主席との二者会談の他、それぞれに出迎えの式典等も実施され、中国が4カ国を厚く接遇する姿勢を示したことが確認できる。次回の2026年は、中国において第2回中国・アラブ首脳会合が開催されることが発表されたが、出席レベルが上がっていることは中国とアラブ諸国の関係が深まっている証左である。

ガザ情勢をめぐって中国はアラブ諸国寄りの立場を一貫して表明しているが、イスラエルへの軍事支援や停戦に向けた仲介外交に尽力している米国と比べると、中国は直接的な関与はほとんど見せてこなかった。今回の中国・アラブ諸国協力フォーラムにおいても、中国は外交的な立場表明以外では、これまでの1億元(約22億円)の緊急人道支援に加えて、人道危機の緩和と戦後の復興支援のため5億元(約110億円)を追加拠出すること、UNRWAによる緊急人道支援を支援するため300万ドルを拠出することを表明したのみであり、紛争解決のために積極的に介入する意思は示されなかった。5月16日にバーレーンで第33回アラブ連盟首脳会合が開催され、同会合ではパレスチナ問題の解決に向けた国際和平会議の開催が呼びかけられた。今年のアラブ連盟の議長国であり、国際和平会議の主催国となるバーレーンは、5月22-23日にハマド国王がロシアを公式訪問し、プーチン大統領に同会議開催への支持を要請している。中国も和平会議開催に支持を表明したが、言及は少なく、パレスチナ問題における中国の受動的な立場と存在感の薄さが改めて確認されたとも言える。

中国とアラブ諸国の関係は政治・外交面での協力以上に経済面での協力が中心的なものであり、フォーラム開会式における習近平・国家主席の演説においても経済分野での協力に力点が置かれていた。習近平は、2022年サミットにおいて発表した「8大協力イニシアティブ(八大共同行动)」が既に初期的な成果を得ているとした上で、今後の新たな協力分野として「5つの協力枠組み(五大合作格局)」を構築する用意があると表明している。これは、①イノベーション(AI等)、②投資・金融、③エネルギー、④互恵的な貿易関係、⑤人的交流となっている。注目すべきは、これまでも深い協力関係にあったエネルギー分野に加えて、AI等のイノベーションや投資・金融分野での協力が目玉に掲げられている点だろう。近年、UAEやサウジアラビアはAI分野への投資を飛躍的に増加させており、世界的なAI開発競争に参入しようとしている。他方、米国はAI分野における中国との技術競合において輸出規制等を強化しており、アラブ諸国が中国への規制の抜け穴となることへの懸念が高まっている。アラブ諸国がこうした米国の懸念を無視して中国との協力を進展させていくのか、それとも米国との協力を重視して中国との協力を抑制させていくのかは、新たな地政学的な競合の領域になりつつある。

また、中国がアラブ諸国と関係を強化することは、中国とイランとの親密な関係とトレードオフではないものの、中国の全方位外交に歪みを生じさせる側面がある。UAEのムハンマド大統領の訪問を受け、中国はUAE・イラン間で領土問題化している三島の領有権問題について、対話を通じて平和的に解決しようとするUAEの姿勢を支持すると表明した。領土問題の存在を否定するイランは、これに抗議して駐イラン中国大使を外務省に召喚しており、中国・イラン間で立場を異にしている。同様の事象は2022年12月の中国・GCC首脳会合後の共同声明でも起きており、今回が初めてのことではないが、中国・イラン関係が戦略的に深化していくことを妨げる要因の一つにはなり得るかもしれない。一方、バーレーンのハマド国王は、習近平との会談において同国とイランとの国交正常化について中国が支持していることに謝意を表明している。2023年3月にサウジアラビアとイランが中国の仲介で国交正常化を果たして以降、サウジに追随してイランと国交を断絶したバーレーンは、足並みを揃えるべくイランとの関係正常化を模索してきた。UAEの中国接近はイランへの牽制であるのに対し、バーレーンはイランへの圧力を期待して中国に接近している構図であるが、アラブ諸国が対イランにおいて中国を利用しようとしていることには変わりない。アラブ諸国との関係を深める中でこのような負荷が中国の中東外交にかけられるようになっていることに対し、中国が上手く対処できるかは一つの焦点である。

第10回中国・アラブ諸国協力フォーラム閣僚級会合開会式で基調講演を行う習近平・国家主席
出所: 中国外務省


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