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キャリア・アドヴァイス ー 自由と安全の間で選択を迫られたら、自由を選べ

日本とヨーロッパでは、キャリアのありかた・考え方は、大きく違います。
ヨーロッパの中でもイギリスは少し外れていて、アメリカ社会・経済に近い状態で、賃金の低い仕事も多く、契約期間が短く、生活の安定をはかることが難しい状況となりつつあります。
ただ、賃金が低いといっても、現在(2024年度)の最低賃金は、時給11.44パウンド(約2285円)です。これは、年々、上がってきています。
また、戦後の福祉国家であった時代から大きくネオリベラリズムへと動いたものの、日本やアメリカよりは、はるかに働く人々の権利が守られています。
サービス残業なんて存在しないし(そもそも違法だし、黙って受け入れる人たちはいない)、残業自体がまず存在しません。
ホリデーを数週間続けて取るのも普通だし、ホリデーは、ほぼ基本的人権の一つのような位置づけです。
家族や自分の人生が第一で、仕事はそれを経済的に支えるものという位置づけはごく普通です。

George Monbiot(ジョージ・モンビオット)さんは、環境問題でよく知られたジャーナリストで、かつアクティヴィストですが、環境問題への注目がとても小さかった数十年前から、ずっとこの問題を扱っています。
そのジョージさんのキャリア・アドヴァイスは、芯が通っていて正直で、かつさまざまな状況にいる人々への共感があります。
このキャリア・アドヴァイスについては、ジョージさんのウェブサイトのここより読めます。

ジョージさんは、環境問題でよく知られているので、キャリア・アドヴァイスについてよく聞かれるそうですが、一人一人には答えられないので、ウェブサイトで自分の考えを分かりやすく伝わるように書いていました。
ジョージさんが働いてきた分野はジャーナリズムなので、ジャーナリズムが例としてあがっていますが、どの分野にも応用できる内容だと思います。

最初の前置きも、人々がさまざまな状況にあることをよく理解して書かれています。

私はこの一般的な(キャリア・アドヴァイス)ガイドラインを作成し、それぞれが自分の状況にあうように適応・変化できるよう願っています
このアドヴァイスは、キャリアに真の選択がある人々に適用されるものです。
なぜなら、この世界の多くの人々には、これは残念ながら当てはまりません。(=仕事に関して真の選択をもっていない人々が大半)
でも、このキャリア・アドヴァイスをたずねて(自分にメールを)書いてきた人々は、キャリアに真の選択がなければ、この質問をしていないと思います。

ここで、ジョージさんのいっている「キャリアの真の選択」とは、ある程度豊かな国の、経済的にある程度恵まれている階級に生まれ、生きるだけで精一杯なのではなく、多くのコネクションがあり、仕事を選ぶことができる立場であることを指しています。
これは、そういう特権階級に生まれた人々がより賢く偉い、というわけではなく、ほぼ反対です。
どんなに賢くなくても、特権階級にたまたま生まれれば、エリートとよばれる学校へ行き、給料の高い職業につき、反対に、特権階級でなく、また政治・経済が不安定な国々や社会にたまたま生まれ落ちた人々は、どんなに賢くても才能があっても、そこから抜け出すのは難しいという現実をジョージさんはよく理解しています。
最近、ジョージさんが出版した「The Invisible Doctrine: The Secret History of Neoliberalism (& How It Came to Control Your Life) /見えない教義・ドクトリンː ネオリベラリズムの秘密の歴史(どのようにネオリベラリズムがあなたの人生をコントロールするようになったのか)」も、この仕組を理解することに役立ちます。
仕組を理解することは、この仕組を越えて、誰もが同じ機会をえることができ、それぞれの特性を生かして社会に貢献し、よりより社会をみんなで協力してつくることを可能とすることにもなります。
読みやすく書かれているので、英語ですが、ぜひ読んでみることをお勧めします。

ジョージさんは、自分が特権階級であること(白人・男性・移民ではなくイギリス国民、英語が母国語、家族や親戚が政治家やビジネスマンという裕福な家庭に育つ、オックスフォード大学卒業)をよく理解して、それを自分の利益のためだけに使うのではなく、人々のために役立てています
特権をたまたまもっている人々は、そうでない人々のためにそれを使う義務がある、というのは昔ながらの考え方です。
ただ、ネオリベラリズムが社会や個人に浸食した結果、特権がある人々は、それにふさわしい能力や力がある、努力をしたからだ、(=貧困や苦しい立場にいる人々は、その人たちのせい)という理論がまかりとおっていますが、上記のジョージさんの本で、この理論の矛盾・プロパガンダは打ち破られています。

ジョージさんは、具体的なキャリア・アドヴァイスに入る前に以下を述べています。

これ(ジョージさんの提案したキャリア・アドヴァイス)を取り入れる前に、私のことばだけに頼らないよう、注意しておきます。
私は、このアプローチが、あなたとってうまくいくかどうかは確約できません。
できる限り多くの人々からアドヴァイスをえてください。
最終的に、あなたはあなたの決定をくださなければなりません。
私やほかの人々にあなたの(人生・キャリアの)決定をさせることを許してはいけません。

学校や大学のキャリア・アドヴァイザーのいうことには、警戒しておきましょう。
キャリア・アドヴァイザーは、往々にして、もし何かやりたいことがあるのなら(ジャーナリズムであれば、特定の地域の文化について書きたい等)、まず最初に企業の出版部署で関係ないことを数年やって経験を積むことを薦めます。
これは、自由になりたいなら(=自分がパッションをもち、世界の人々にとっても役立つ内容のジャーナリズムの道へと進む)、まず囚われの身になれ(=企業で、企業のプロフィットを生み出すためのマシーンと化す)、というようなものです。
企業は結局プロフィットを生み出すことが目的であり、考えられる能力のあるジャーナリストは必要ですが、自分や社会のために考える人ではなく、企業のプロフィットを考える人を必要としているのです。
どんなにインテリジェントな人でも、企業の必要性に合わせることや、非友好的な環境で生きのびることに忙しくしていると、本当にやりたかったことのCareer Path(キャリア・パス/キャリアの道程)を開発する時間もエネルギーはありません。
もし、あなた自身がこのキャリア・パスを開発しなければ、自然にそれが起こることはありません
中には、自分の信条やmoral codes(モラル・コーズ/道徳規範)を反映した組織にするよう、内側から変えるという人もいますが、これはくだらない言い分です。
力をもっているように見える大企業の社長でさえ、プロフィットをだし、自社株の価値をあげなければ、あっという間に追い出されます。

もちろん、だからといって、すべての組織化された世界の中(=企業や団体等)に、あなたの信条に沿った機会がないというわけではありません。
数は少なく、たいていは、メインストリームではないところに存在することがあります。
もし見つけたら、最大のエネルギーで粘り強く、そこでの職を追い求めましょう。
でも、もし実際に仕事を始めて、思っていたのとは全然違う、或いは自分がやりたかった分野から常に外されたら、躊躇せず去りましょう

また、これは、あなたの世界観に合わない組織の中で、給料が支払われて、エッセンシャル・スキルが得られるワーク・エクスペリエンスをするべきではない、ということではありません。
ただ、あなたはこの行使の限界についての完全な明瞭さを保ち、あなたが学ばないといけなかったスキルを学んだら、すぐに去らなければなりません。
これは、大体数か月です。
この数か月の後は、あなたが企業より与えられるものより、あなたから企業に与えるもののほうが大きくります。

ジョージさんは、今まで何度も、「大企業で2~3年働いて必要なお金を貯めて、その後は辞めて、自分の追い求めるキャリア・パスに進む」という人々が、長年たってもその企業で働いているのをよくみたそうです。
彼らは、その間に、自分の得ている給料に見合った車を買い、家のローンを組み、以前思っていたCareer Pathのことは、はるか昔のことのように思っています。
これは、ジョージさんにしてみれば、「自由な人々が、自由を(自ら)捨てた」ということです。

だから、二つ目のキャリア・アドヴァイスは、Benjamin Franklin(ベンジャミン・フランクリン)が提供した政治的なアドヴァイスをエコーしています。
自由と安全の間での選択を迫られたときは、いつでも自由を選べ

そうでなければ、あなたは、自由も安全も得られないでしょう。
自分の魂を確実な仕事や確実な給料と言う約束のために売る人々は、彼らがいなくても困らない状況になれば、すぐにはじき出されます。
あなたが組織に対して忠誠であればあるほど、あなたはより搾取されることが容易な存在で、結局のところは、いなくても困らない存在になり果てます。

だからといって、あなたが正にあなたがやりたいと思っていることをすぐに始められ、それに見合ったあなたが望む収入があるわけではありません。
でも、ここには、私が勧める3つの可能性のあるアプローチがあります。

一つ目は、自分がやりたい方向で始めることです。
これは、当分の間自己資金だけでは賄えない可能性があり、そのために、あなたが生活できるのに必要なお金を稼げる仕事、かつ精神的なエネルギーを使いすぎない仕事で補完する必要があるでしょう。
もし、あなたがメキシコのサパティスタ解放軍について書きたいならば、メキシコに行ってその記事を書くために必要な調査やインタビューを行う資金を貯める必要があります。もし、あなたが支払われたいのなら、進取的でなければなりません
すべての可能性のある記事のアウトレッツ(放送局やテレビ局やメディア)、マガジン、新聞、ラジオ、テレビステーション、ウェブサイトや出版社等を調べるべきです。
あなたが調査地に行く前に、何を取材したいのかについて明確なヴィジョンを持っているとともに、予期しなかった物語にも出会う用意をしておくべきです。
たとえば、取材地にいる間に野生動物の物語に出くわすかもしれません。
それについて野生動物マガジンに書けば、その旅行にかかる費用をカバーすることを助けるかもしれません。
できる限り多くのメディアで働き、粘り強く続けましょう。

生活とトラベルをできる限り低く抑えるよう覚悟をしておきましょう。
私がフリーランスになった最初の4年間は、一年に平均約5千ポンドで生活しました。これは、どんな(分野の)フリーランスにもよい訓練・規則です。
もしあなたが一年5千ポンドで生活できるなら、一年に3万ポンド必要な人とくらべて6倍安全だということになります。
ただ、現在のUKでは、学生ローン等で、つつましい生活を送ることはとても難しくなっています。

一生懸命働きましょう、でも、焦らないで
あなたの評判をゆっくりと、着実に築きましょう。
そうしていると、あなたは、編集者がある特定のことを、特定の角度からカバーする誰かが必要なときに、思い当たる人となるでしょう。
この「特定の角度」とは、「あなたの角度」となります。
彼らは、あなたの世界観に呼応します。
あなたが彼らの世界観に合わせるのではなく。
あなたがその特定の分野での「エクスパート」となる早さには驚きです。
単にとても少数のほかのジャーナリストがその分野のことを知っているから。
あなたは機会をみつけるし、機会はあなたを見つけるでしょう。

二つ目の可能性のあるアプローチは以下です。
もし、あなたがやりたいと思っている分野が、最初は、入るのが不可能と見えるなら、別の方法(ジャーナリズムではない方法)で関わることです。例えば、ホームレスについて核なら、例えば、ホームレスの人々を助ける団体で働く、ということです。ここで働きながらそのことについて学び、徐々にジャーナリズムにひろげていきます。

三つ目のアプローチは、タフですが、ほかと同様に有効です。
メインストリームでのどんな雇用形態とも関わるのは限界があると気づき、自分たちで自分たちの仕事のためにoutlets(アウトレッツ/テレビ局や放送局やメディア発信)を作った人々につづくことです。
多くの国には、小さなメインストリームから外れた新聞やブロードキャスターがあり、他の仕事で生活に必要なお金を稼ぎ、ボランティアとして働いている人たちがいます。パートタイムの仕事、補助金やソーシャル・セキュリティー等でまかなっている場合もあります。
これらの人々は、多大な勇気と決意をもった人々で、快適さより自分たちの信条を重んじた人たちです。
彼らと一緒に働くのは、栄誉でインスピレーションです。
単純な理由で、彼らは、他の人々が自由でないのにくらべて、自由です。
世界のすべてのお金や名声も、あなたの自由の喪失を埋め合わせることは決してできません。

私の最後のアドヴァイスは、これです。
現実と関わることと、富と権力のNecrophiliacな(ネクロフィリアック/死体愛好症)世界の間での選択を迫られたら、「Life/(自由に)生きること」を選びましょう
どんなにコストがかかるようにみえたとしても。
あなたの周りの人々は、最初はあなたのことを見下すかもしれません。
例えば、「かわいそうなニーナ。26歳にもなるのに車ももってない。」
でも、自由に生きることより富や権力を選んだ人々は、死人の世界を生きています。生きている人々が、彼らのこの世界で受け入れられたことを示す額に入れられた証明書を壁にかけているのは、自分の墓石を置いているようなもの。

覚えておいてください。
たとえ、the Times(ザ・タイムズ/メディアの中でも一番権威のある新聞)のエディターでさえ、多くの収入や名声があるとはいえ、それでも彼らのボスからの命令に従わなくてはいけません。
the Timesのエディターであるということは、この業界で最高の地位ということですが、彼は、私たちより少ない自由をしかもちあわせていません。

あなたが知っているように、あなたには一つの人生しかありません。
それは貴重で特別で、繰り返すことができないものです。
これは、数千年におよぶセレンディピティ(※)と進化の産物です。
どうして、生きている死人にそれ(=自由に生きること・人生)を渡すようなことをして無駄にするのでしょう?

(※)セレンディピティ=なにか別のものを探しているときに、偶然に素晴らしい幸運に出くわしたり、素晴らしいものを発見したりすること

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