男女の賃金格差の透明化のその先は?
今日(2022年9月30日)は、イギリスのキングスカレッジのGlobal Institute for Women’s Leadership (女性のリーダーシップ国際機関)のウェビナーに参加しました。
以前のGender Pay Gap(男女の賃金格差)のWebinarについての記事はここより。
今回のウェビナーでは、司会者はThe UKから、パネリストは、オーストラリア、ニュージーランド、南アフリカ、アイルランドからの参加でした。全員女性です。なぜ性別を記載するのかというと、日本だと、どんなウェビナーでも、とにかく年配の男性が大多数で女性が隠れているからです。ヨーロッパでは、経済、エンジニアリングでも女性が約半分で、女性に特に影響する議題だと女性が多い傾向となります。
日本でも2024年から男女の賃金格差が公表される計画があるようですが、The UKでは既に始まっています。250人以上の雇用者がいる会社は、政府に報告し公表することが法的に義務付けられています。日本では、現在のところ301人以上の雇用者をもつ企業が対象となるようです。
イギリスと日本は、中小企業の割合がとても大きい国です。
イギリスでも、「250人以上」だと多くの企業がこぼれおちるため、他のヨーロッパの国のように雇用者数がもっと少ない場合も報告を法的に義務付けるようにしたほうがいい、という声も上がっています。日本も、恐らくイギリスと同じ問題にぶつかるのではないかと思います。ただ、試みとしては良い方向に進んでいるとは思います。
このウェビナーで興味深かったのは、南アフリカ共和国のRuth(ルース)さんの発言です。
ルースさんは、労働者組合連合の総裁です。
南アフリカは、家庭内暴力や女性への暴力・殺人が多いことで知られてはいるものの、政治や企業での女性の活躍は、日本とは比較にならないほど進歩的です。
南アフリカでは、男女の賃金格差についてのとても進んだ法案を採択しましたが、ルースさんは、賃金格差の透明化だけでは不十分だとしています。
南アフリカの場合は、構造的な問題として以下を挙げており、これは日本を含む他のアジアの国々でも共通しているのではないかと思います。
女性の地位はいまだに低い(例/先生の給料は低く、多くは女性、女性が多い職業は低賃金で不安定)
リーダーシップや管理職はいまだに男性が多くを占める。女性もある程度増えてはきたが、男性管理職のサポートをする仕事を割り当てられる場合も多くみられる
ルースさんは、難しい状況ではあるけれど、「誰にとっても平等な社会を勝ち取ることを絶対にあきらめない」とポジティブです。
ルースさんも他の国からのパネリストも上げていたのは、以下です。
男女の賃金格差の透明化は大事だけれど、それだけでは十分ではない。社会の構造的な問題を解決する必要がある(例/アイルランドの場合、子供が2人、或いはそれ以上になると女性の離職率とパートタイムに移行する確率が大きくあがる。原因の一つは、ケアのシステムが整備されておらず、誰かが子供や老人の面倒を見る必要がある場合、女性に負担が課されてしまう)
進歩的な法律があっても、それを適正に監視し、執行し、守らない企業・雇用主には罰則を与えなければ、意味がない。(南アフリカも法律に従わない企業や雇用主に対してどう法律を守らせるか、罰則等の施行、改善について、企業にきちんと責任を取らせることに成功していない。実際、スウェーデンでも、似たような問題はあったそう)
男女の賃金格差の公開の義務付けは、平等で良い社会をつくっていく一つのツールにしか過ぎない。社会の構造的な問題を解決し続ける努力は引き続き必要とされる
興味があれば、イギリス政府が公開しているデータは、ここより閲覧可能です。
規模が違うので、良い比較かどうかは疑問が残りますが、日系銀行 MUFJと、非日系銀行HSBCとの最新データ(2021/2022)を比較すると以下が表示されました。
ここで「Mean」とあるのは平均値で、「Median」とあるのは、中央値(※)となります。
(※中央値)女性の従業員が50人いると仮定し、50人を給料の順に並べ、真ん中の25番目の数値を基準とする。なぜ、このMedianを使うかというと、平均値だと、たまたまとてつもなく給料の高い人が一人いるだけで、平均値は急激につりあげられるが、全体的には、給料の低い部分にいる人々が大多数ということもあるため。
男女従業員の数はなかったようですが、このデータから見る限り、日系銀行では、時給を4つのカテゴリーに分けた場合、上位2つ(Upper middle/Upper hourly pay quarter)のグループに入る女性の人数は、非日系銀行に比べると非常に少ない傾向となっています。またボーナスについても中央値だと、日系銀行は女性は52パーセントほど男性より低く、非日系銀行では、約41パーセント男性より低くなっており、日系銀行のほうが格差が大きくなっています。
ここで、「Hourly Pay(時給換算)」となっているのは、イギリスだけでなくヨーロッパでは仕事のフレキシビリティーが高く、週2日~3日働いて他の人とジョブシェアで、プロフェッショナルとして働き続けるという選択肢があることにもよります。同じ仕事内容であれば、フルタイムで働いても、パートタイムで働いていても、時給は全く同じであることが法律で定められており、私が知る限り、きちんと遵守されています。日本のように歪な、正規・非正規といった仕組みは存在しません。パートタイムでも企業の正職員であり、休暇や福利厚生等、すべてにフルタイムと同じ権利を保有します。他の働き方としては、ジョブエージェンシーから期間を決めて派遣される人々もいますが、彼ら/彼女らはジョブエージェンシーの社員として扱われ、当然ですがホリデー、産休・育休、病欠が保障されており、National Insurance(国民保健)にも加入が義務付けられています。イギリスは、ヨーロッパ大陸の他の国々と比べると非常に労働者の権利が弱い国ですが、それでも、日本よりはずっと良い状況です。
いろいろな国での雇用に関わってきましたが、日本の雇用状況や法律は、「雇用主側の利益>>>労働者の権利」がとても顕著な国だと思います。でも、ヨーロッパだって、最初から労働者の権利が強かったわけではなく、闘って勝ち取られてきたものです。いったん勝ち取ったからといって、イギリスのように政府によって、どんどん労働者の権利が弱められてきた例もあります。
日本に必要なのは、それぞれが基本的人権、労働者の権利をよく理解し、現在の仕組の歪な部分に気づき、協力してより良い仕組みに変えていくことだと思います。
それには、不正と闘う必要も出てくるかもしれません。
ヨーロッパで現在当たり前として受け取られている権利の多くは、闘って勝ち取られてきました。
ヨーロッパでは、不正に対して闘うことは尊敬され、多くの協力を得ることができます。
反対に、不正にあっていて闘える状況であるにも関わらず闘わない人々は、尊敬されないか、状況によっては軽蔑されます。
闘えない状況をどう定義するかも、日本のようにアジアでは少し違うかもしれません。
ヨーロッパでは、一般的には、命の危険がある場合( 例/独裁政治家にあり、事実でも不正について少しでも口にすれば、拷問を受け、長い間牢獄に入れられる場合等)は、闘うことは不可能に近いとみられるでしょう。でも、そういった命の危険がない状況で闘わないことは、ヨーロピアンには理解しづらいと思っていたほうがいいと思います。
例えば、日本の外資系企業で働いていて、黒人社員が差別用語で外の日本人同僚たちから会社で何度か罵られたのを海外本社の人事に相談して、調査が始まりました。差別用語で罵った日本人たちが、他の日本人全員にプレッシャーをかけてこの事実を隠して嘘をつくようにしたという事例を実際に知っています。イギリスで同じことが起これば、あっという間に裁判で、確実に訴えた側が勝ちますが、この事例では、私の知り合いは差別用語で罵っていたのも知っているし、彼女の会社での地位はマネージメントのポジションで、差別用語で罵ることをそもそも止めなければならなかったにも関わらず、周りにあわせて嘘をついたそうです。これは、ヨーロッパでは、とても卑怯だと見なされます。そもそも、嘘をつくことは間違っているのですが、力の強いもの/大声で叫ぶ人々にはとにかく盲目的に従うよう徹底的にトレーニングされている日本では、また違う法則が働いているのかもしれません。それでも、こういった場面で嘘をつくことが間違っているのは、グローバルに共通しているはずです。そういった基本的なモラルが信じられていない社会では、人々がお互いをある程度信用して生きていくのは難しくなるでしょう。
基本的には、「自分や半径5メートルくらいの人々はいい地位にいてこの歪な仕組みに悪い影響を受けていないので、自分には関係ない」という無関心の壁を越える必要があります。
本当に難しい場所にいる人々は、生き延びることだけで手いっぱいの場合もあります。
同じ社会に生きている他の人々のことも考えて、全体によりよい影響を少しでも及ぼせるよう行動していくことが、未来によい社会を渡すことにつながるでしょう。
私たち大人には、今の子供たち、これから生まれる子供たちに、よりよい社会を渡すことが可能だし、義務でもあります。
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