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ネット・ゼロ ー イギリスでの議論

最近、イギリス政府(正式には、The United Kingdomで、イギリス・ウェールズ・スコットランド・北アイルランドの4か国の連合国)は、新たにスコットランド沖のRosebank oil field(ローズバンク油田)の開発を承認しました。イギリス政府のネット・ゼロ経済計画に反しており、かつ地球温暖化をより加速させることになるので、大きな反対も起きています。

この油田開発を手掛けるのは、ノルウェーのEquinor(エクイノール)と、イギリスのIthaca Energy(イサカ・エネルギー)です。
前者のエクイノールは、経済的に貧しかったノルウェーで石油がみつかった際、国営企業として設置され、利益は国民にも還元されるようになっています。
これに対して、イギリスではスコットランド沖で油田が見つかった際、利権をすべて私営企業に売り渡したため、国民には直接なんの利益もありません。
これは、現与党の保守党に根強い、「市場は絶対に正しく、政府は介入するべきではない=私営企業が利益だけを貪欲に求めて動けばビジネスは効率的に行われ、すべてがうまくいく」というイデオロギーからきています。

この油田を含めて、現在稼働している油田もスコットランド沖です。でも、スコットランドには、油田の利権等についての決定権はありません。
スコットランドは、イギリス(当時の大英帝国)の旧植民地で、植民地時代にはイギリスからひどい扱いを受けた歴史があります。
現在はThe United Kingdomの連合国の一部ではあるものの、多くの政治上のきめごとはイギリスの中央政府で行われ、スコットランド独自で決められることは限られています。
特にBrexit(欧州連合離脱)では、スコットランドも北アイルランドも国内では、欧州連合に留まりたいという票が多かったにも関わらず、結局はThe UK全体の票で判断されるため、欧州連合離脱となり、ますますスコットランド独立についての声が大きくなりました。

イギリス政府の見解は、簡単にまとめると以下です。

「イギリスはすでにネット・ゼロに向けてとてもいい進歩をしているので、現在のインフレーションやエネルギーの安定供給を考慮して、コストの高いネット・ゼロの計画を少し緩めても全く問題はない」


疑わしく感じるのですが、本当なのでしょうか?

2023年9月27日放送のBBC Radio 4「World At One」では、エクイノールの代表、Ecotricity(エコトリシティ―)の創業者Dale Vince(デール・ヴィンス)さんらが登場し、デールさんは、エクイノールの代表者や政府が市民に売りたい、信じさせたいまやかしを、しっかりと事実に基づいて分かりやすく説明し、壊してくれました。

ちなみに、このエコトリシティのデールさんは、義務教育を終えた15歳で学校を去りましたが、さまざまなグリーンに関する企業を起こし、仕事が見つからない人々を助けたり、地球温暖化を止めるために闘う機関や団体に多くの寄付を行っていることでも知られています。
Tesla(テスラ)を創業したElon Musk(イーロン・マスク)と同列に並べて語られることも多いのですが、デールさんはイーロンさんと大きな議論・喧嘩となった過去があり、イーロンさんについては、「とても悪い人間だ(=地球温暖化や地球上の人々のためにビジネスをしているわけではなく、Space xのように、自分の利益・特権とエゴのためだけに生きている)」と明確にいっています。
デールさんのビジネスや行動の目的はとても明確で、地球温暖化を少しでも減らし、未来に良い地球を残すため、さまざまな活動を行っています。

環境問題については、良いジャーナリストですら、科学的な知識がしっかりあり、かつ内容を深く理解していないと、意図的に間違った、或いは曲げたインフォメーションを言うひとにチャレンジせず、歪曲した間違った情報を流すことに寄与してしまいます。
そのため、この番組でも、中立の立場での科学知識のあるひとがFact Check(事実チェック)番組内で同時進行で行っていました。これは、きちんとした報道機関であるなら、通常に行われていることです。

デールさんは、エネルギー業界・環境問題も数十年かけての経験と知識があるため、とても正確に、分かりやすい言葉で、事実を述べていきます。

  • (政府・石油企業の言い分)自国にさらなる油田をもつことで、市民が払うガス料金やPetrol(ペトロ/ガソリン)料金は安くなる
    (デールさんの分析)石油やガスは、国際マーケットで価格が決まり売買されるので、自国の油田から産出された石油か他国で産出された石油で、価格は変わらない。ローズバンクで産出されると見られている石油は、世界全体でみるとわずかで、国際石油価格への影響はない。

  • (政府・石油企業の言い分)エネルギー自給は安全性を高くするので、石油・ガスは自国産出が必要
    (デールさんの分析)上記にあるように、石油・ガスは国際市場で売買されるので、自国に国際的にみると小さな規模の油田があることは全く助けにならない。

  • (政府・石油企業の言い分)ローズバンク油田開発はThe UK国民に多大ない利益をもたらす。
    (デールさんの分析)ローズバンク油田開発におけるNet Loss(純損失)750,000,000  パウンズ(約1350億円)。カーボン・タックスの適用を考えるとさらに大きな損失となるかも。わずかな石油を産出する油田開発・産出に多額の投資を行うのは、環境に悪いだけでなく、経済的にも意味を成さない。

  • (政府・石油企業の言い分)ローズバンク油田は、新たな雇用を創出する
    (デールさんの分析)創出されると見られている仕事は、1600ぐらいだが、ほとんどは短期の仕事で、長期にわたって必要な仕事につくひとの数は、450程度。また、石油・ガス系の仕事は、数十年で大幅に減少することは明らかなので、早めに未来に存在する職へと移行する必要あり。
    油田開発にかける政府の予算(=国民から徴収した税金)を太陽光事業につかえば、約30,000の仕事を作り出す。これらの技術は未来にわたって必要になるもの。

  • (政府・石油企業の言い分)エクイノールが油田開発から出る利益には税金を払うので、結局The UKの市民たちにとっても利益がある。
    (デールさんの分析)Windfall Levy(特別利潤税)の4,000,000,000 パウンズ(約 7250億円)は、結局ローズバンクのオーナーであるエクイノールへいくことになる。
    北海油田(ローズバンク油田も北海油田の一つ)の開発をする場合、Windofall Levyで払うはずだった税金の99.5パーセントは免除されるため、エクイノールはほぼ支払はなく、4,000,000,000 パウンズ(約 7250億円)は単純にエクイノール、つまりノルウェーの国民のもうけとなるだけ。The UKの国民に利益はない。

日本のように、自国に油田をもたない国では、今一つ自分に近いこととして感じられないかもしれませんが、どのように、エネルギーが作られて運搬されているのか、また、ものが作られて運搬されてきているのか、ということを考えることは大切です。

アメリカでも、石油系企業大手のエクソンモービルが、長年、石油やガスといった化石燃料を使用することによる地球温暖化への影響を知っていながら、事実を否定し続け、否定が通らなくなると、温暖化はひとの活動とは関係あるかどうかは科学で明確に証明されたわけではない等のミスリーディングなキャンペーンを行ってきたことは明らかになっています。

これらの企業は、自分たちの利益、特に株主にお金を多額にわたすことばかりに注目し、悪い影響を受ける地球上の人々(まだ生まれていない人々も含む)や環境は無視しています。でも、アメリカやさまざまな場所で、若者たちが立ち上がり、こういった企業の行いについて裁判を起こし、少しでも環境への被害を最小限にしようと努めています。

最初の一歩は、きちんと自分で情報を集め、考えることです。
そのためには、英語の文献や情報にもアクセスできることは、とても大切です。
日本語のようなマイナー言語だと、狭いエリアでのとても偏った情報へのアクセスだけになりがちで、かつソーシャル・メディアの偽情報チェックも英語情報に比べると、無チェックに近い状態になりがちなことは、心に留めておきましょう。

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