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今こそアナログなアプローチを / 対談 with 寺嶋博礼 # 2

THECOO 株式会社代表の 平良 真人( @TylerMasato ) の対談シリーズ。前回に引き続きジュピターエンタテインメント株式会社の代表取締役社長である寺嶋博礼さんにお話を伺います。

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寺嶋博礼(てらしまひろのり)
ジュピターエンタテインメント株式会社 代表取締役社長
1991年、日本債券信用銀行(現 あおぞら銀行)に入行。資本市場業務やデリバティブ業務を経験後、コンテンツおよび店舗投資ファンド業務を担当し、数々のヒット作品に携わる。
2004年、ロハスインターナショナル専務取締役COOとして、「スタジオ・ヨギー」にてヨガ・ビジネスを展開し、ヨガ・ブームを仕掛ける。
2006年、映画会社アスミック・エース エンタテインメント(現 アスミック・エース)に移り、執行役員として、映画、アニメなどを中心に映像ビジネス全般に従事。
2012年、アスミック・エースのJ:COMグループ入りに伴い、CS映画専門チャンネル ムービープラスのジェネラルマネージャーに就任。現在、ジュピターエンタテインメント及びチャンネル銀河 代表取締役社長として、ムービープラス、LaLa TV、チャンネル銀河 3chのチャンネル経営に携わる。

前回はエンターテインメントにおけるお金の仕組みを細かく伺ってきました。(前回の記事はこちら)今回は、エンターテインメントを裏側で支えてきた寺嶋さんが考えるコンテンツの作り方を教えていただきます。

ファイナンス構造を変えてもヒットがないとお金にならない

平良真人( 以下、平良 ):
金融機関からエンタメへのプロジェクトファイナンスをやられていて、その後、事業側のアスミック・エースに行かれたわけなのですが、立場が変わってどのような変化がありましたか?

寺嶋博礼氏( 以下、寺嶋氏 ):
ベンチャー投資をしてる人がCFOになるのと近いと思うのですが、外からお金を出すだけでは限界も感じていて、ファイナンスの構造をいくら変えても、結局のところヒットが出ないとダメなんですよね。日本全体の興行収入・レンタルの市場・テレビの視聴率などの放送収入・海外セールスなど様々な売り上げがあるとは思うのですが、どこかでしっかり付加価値を生み出さないと、出資したお金は返ってこない。
だから、しっかりとお金を生む仕組みを制作側から仕掛けていかなければと思い、海外セールスに力を入れて作品の完成前にクリエイターや脚本、企画の概要を見てもらい、ライセンス契約や海外との合作を作るなどチャレンジしました。

そういえば、平良さんはレディオヘッドがお好きなのですよね?

平良:大好きですね。

寺嶋氏:
その中で『ノルウェイの森』の音楽をジョニー・グリーンウッドにお願いもしました。村上春樹さんが非常に人気で、フジテレビさんとアスミックで作品を一緒にやらせていただいたのですが、当時『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』がサントラとして非常に評価が高くて監督の希望でした。

平良:
そうだったのですね。あれはとても良い曲でしたね。
寺嶋さんは立場は違えど、ヒットをどう生むかを常に考えていらっしゃるわけですね。

寺嶋氏:
そうですね。ただ、常にヒットを生み続けるのは難しく、映画をラインナップしながらも会社の決算を作っていかないといけないので、その為の事業計画なども考えてはいました。

平良:
アスミックさんは比較的チャレンジングな作品を配給したり、作られたりするイメージなのですが、一方で、『 スパイダーマン 』のように何年もかけてシリーズ化する方が得意なところもあるのかなと思っていて。スタジオの規模ごとにヒットの生み方や収益の生み方、考え方が違うものですか?

寺嶋氏:
そうですね。メジャーのような仕組みや歴史、ライブラリー作品をベースにした収益のベースがないので、そういう意味でも常に新しいものにチャレンジしながら勝負していたのがアスミック・エースかなと思います。

平良:そうですよね。

寺嶋氏:
2000 年前半の『 ピンポン 』などは、洋画の宣伝手法を邦画の企画の段階からプロモーションのプロセスに導入したりしていました。J-POPも洋楽の音楽のベースとプロモーション方法を邦楽に導入してJ-POPが生まれた訳ですが、その映画版を最初にアスミックが展開したんじゃないかなと思います。

平良:
『ピンポン』は配役も音楽もすごくチャレンジングですよね。なぜこの組み合わなのかなと思いました。結果としてそれがヒットに繋がったのだとは思うのですが、どうやって考えたのかは気になりますよね。

寺嶋氏:
僕はまだ入社前だったのですが、外から見ていても本当に面白いなと思っていました。まず最初にミニシアターで公開して全国に展開するという試みが、その後の日本映画の 1 つのモデルにはなったと思います。

平良:アスミック・エースに入社されて、その後どんなことをされているのですか?

寺嶋氏:
アスミック時代はこれまでの経歴で得意分野を生かし、映画のファイナンスの部分に関わっていました。その後は、アスミックがジュピターテレコムに買収されて、チャンネル編成の企画などを立てるようになりました。
映画専門チャンネルは、24 時間 365 日で決まった時間枠と視聴習慣があり、そこに決められた予算でどう映画を分散して見せるかを考えるわけです。季節要因や新作映画のリリース時期など全部を組み合わせて年間のラインナップを作る。ただ並べるだけだと観てもらえないので、観てもらえるための文脈を作って特集を組んだり企画を作ると言う方向にだんだんシフトしていきました。

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インターネット上には存在していないもの

平良:
そのように2000年頃から常にエンタメに関わり続けている中で、ユーザー側の変化で感じることはどんなことがありますか?

寺嶋氏:
配信サービスやSNSの普及によるマーケットの変化は大きいと思います。
その上で僕が思っていることとしては、インターネットがあれば全ての情報にリーチできているような気がしているけど、実は思っている以上にそこに無いものが沢山あると言うことですね。

例えば、今 Netflix で話題になってる『 全裸監督 』も、80 年代のAV業界をテーマにしているけれども、そのドラマの中で出てくるAV作品は、権利の関係で配信されていない。

なんとなく我々は過去のアーカイブ含めて全部をインターネット経由で観られるような気がしているけれども、実は観られないものも多く、数で全てカバーされているつもりが、意外とないものも存在している。
Googleでも実は一部の検索結果が意図的に表示されていないとか言われていたりもしますし、それが何かは我々は知らないわけですよね。

平良:探せないものは存在していないことになっていますよね。

寺嶋氏:
そうなんですよね。
たまに神保町とかに行くと、こんな作品があったんだなって気付きがあったりするんですよ。
デジタル視点でマーケティングを考えることも大事ですけど、意外とアナログなアプローチで企画を考えた方が既視感のない企画や他と違うものが生まれるんじゃないかなと思っています。

映画の特集もDVD屋でお宝探しみたいに廃盤を見つけてその権利を購入したり、レコード屋のサントラコーナーで埋もれた面白い映画を見つけて調達したりもします。そういう方が、想定外の企画になる気はしていて。そもそも80年代、90年代はそれが当たり前で、アーカイブは図書館か古本屋かレコード屋で探していたんですよね。
今はインターネットで便利になったけれども、実は検索できないものが隠れていて、それを探し当てて世の中に提案すると面白いと思ってもらえるのかなと思ったりしています。

平良:
具体的にそういう考えを元に選ばれた作品や、キュレーションした作品ってあるんですか。

寺嶋氏:
例えば、レコード屋のソウルコーナーに行くと、70年代のソウルミュージックがあって、高いプレミアム付でレコードジャケットが飾られているような、映画で言うと『 ブラックスプロイテーション』と言うアフリカ系アメリカ人が主役の映画があるんです。タランティーノ監督の『 ジャッキー・ブラウン』の映画のベースになったりもしているのですが、その『 ブラックスプロイテーション 』映画に数多く出演しているパム・グリアの映画特集をやったりしました。日本で過去に放映されていないものも多くて素材や字幕が無く手間が掛かったりはするけれども、これは映画専門チャンネルとしてやらなきゃダメだなと思っていましたね。

平良:新しい発見をすることでヒットを探し当てるみたいなことをされているわけですね。
 
寺嶋氏:
そうですね、映画専門チャンネルの『 ムービープラス 』ではそれをやっています。
映画は 1950 年代くらいからアーカイブがあって既に何周かしているので、あらゆる映画の中で過去の映画が部分引用されていたりして、その過去の映画の文脈を辿って、特集企画を編成できたりします。映画の編成は、音楽でいうとDJに近いのかなと思っています。組み合わせを考えていかに興味を持ってもらうか試行錯誤しています。

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最近の作品が 80 年代を舞台にしている理由

平良:
最近よく「 Netflix で何観てる?」って会話を聞くので、みんな意外とNetflixのオススメ機能を信じていないんだなって思うんですよ。

寺嶋氏:
難しいですよね。ある程度リテラシーが高く観たいものがわかっていれば検索もできますが、画面の中から選ぶとなると範囲が限られていて、いくらデータ分析してもその日の気分まではわからない。その人の過去何ヶ月の嗜好でレコメンドしても、人間は朝と夕方で気分が違ったりしますからね。

平良:
僕は Netflix も含めてオススメを信じるのですが、音楽やアマゾンと圧倒的に違うのは、1 回あたりの機会損失が大きいですよね。

寺嶋氏:そうですね、鑑賞する時間が違いますよね。

平良:1 回失敗した時の喪失感はすごく感じるんですよ。だから慎重にならざるを得ないですよね。

寺嶋氏:ちなみに、『 ストレンジャー・シングス 』ってどうでした?

平良:
観ました。80年代にキラキラしていたウィノナ・ライダーがおばさん役をやって『 グーニーズ 』をモチーフにしたって言うのは、僕は『グーニーズ』で育ったので面白かったですね。

寺嶋氏:
Netflix も今まではそんなに個別の番組でプロモーションを仕掛けていなかったけど、ナイキやリーバイスなどのマーチャンタイズ展開と共に、全国紙や渋谷の街の交通広告とか本気でやってきましたよね。その反響がある程度あったというのもやっぱり凄いなと思いますね。

平良:『 ストレンジャー・シングス 』はみんなが面白いと思う作品なんですか?

寺嶋氏:
僕の周りは結構見ていますね。今、テレビがメインの層が 40 〜 70 歳くらい。配信がメインの層が 30 〜 40 歳くらいなんです。そこの層が中心になって上と下に広がっていくので、メイン層に響きやすいドラマじゃないかなと思って見ていました。最近の作品は 80 年代の設定で時代考証や音楽が設定されるものが多いんですよね。『 全裸監督 』もそうだし、『 バンブルビー 』とかもそうだったりするじゃないですか。

平良:そうですね。

寺嶋氏:
ザ・スミスの音楽が流れてくるとか。恐らく作り手がその世代の方で、アーティストのファンなんですよね。

平良:なるほど。

寺嶋氏:
なので同じ世代の方々が共感して、上の層が懐かしく思ったり、若年層がその時代に憧れたりすると広がっていくんですよね。だからネットドリブンの前提で考えると、80 年代に青春を送っていた方々をメインで組み立てるのはありなのかなって思っています。

平良:スピルバーク監督とジョージ・ルーカスで育っているわけですね。 

寺嶋氏:
映画の視聴者はもうちょっと上の層で、90 年代や 80 年代にテレビ放送されたものが今でも視聴率が高かったりはしますね。人って過去の体験をもとに今の趣向性が決まるので、時代時代で対象とするターゲットの世代が体験してきたマス・コンテンツがキーになっていて、僕らはまず作っている人がどの年代の人かなとか、そう言う目で見てしまいますね。

平良:
今社内では『 全裸監督 』をどこで観るかで話題になっているんですよね(笑)。これは電車じゃ観れないよね、深夜に一人で観るしかないか、でもすごい面白いから観たいみたいな、みたいな。

寺嶋氏:
色んなチャレンジからヒントをいただいていますが、びっくりしたのは、新聞の全面広告ですよね。山田孝之さんのチャレンジングなところも凄いですし。

平良:ですよね。


(つづく)



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