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夫婦で3代目備前焼作家の道を選んだ「不老窯」さんのお話。

岡山県の伝統工芸備前焼の生産過程で廃棄されてしまう陶器ごみをリサイクルしたRI-CO #再生備前シリーズ

この取り組みを知り「うちの窯で焼いてみましょうか?」と声をかけて下さる作家さんや窯元さんとの出会いが生まれました。

今回ご紹介するのは、ご夫婦ともに3代目備前焼作家として運営される「不老窯」さんです。大饗さん、乗松さん夫婦が作家として窯を運営されています。

ご主人の大饗さんは、伝統的な備前焼らしい作品を中心に、奥様の乗松さんは現代のテーブルに合わせた作品を作られています。


1.「不老窯」について

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(大饗さん)
不老窯は、祖父からの流れで、父、私で3代目になります。実は、家内も同じ代から作家家系でそちらの工房も残っていますが、現在は夫婦2人で不老窯を営んでいます。私たちはそれぞれが作家なので、作品として各々が個別に出しています。
(牧)
ご夫婦各々が作家として独立しつつ共に工房を運営される。不老窯という名前は、工房の前に流れる不老川と同じ字ですよね。
(大饗さん)
「裏にそびえる不老山(ふろうざん)脇に流れる不老川(ふろうがわ)」
というのが名前の由来だと聞いています。

2.「この道を選んだ」のではなくて、「家に帰らない道を選ばなかった」

(牧)
お二人とも、3代目の作家さんでいらっしゃいますが、備前焼業界の担い手はかなり減っていると聞いています。陶芸の世界で食べていくのは簡単ではないと言われる中で、大饗さんは大企業を退職してまで陶芸の道を選んだのですよね。お二人がこの道を選んだときのことを教えて下さい。

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(乗松さん)
私は大学2年生の時に父を亡くしていて、3代目と言っても父と一緒に仕事をしていた時期はなかったんです。ただ、私が後を継ぐというのは昔から決めていて、家族にも宣言していました。父は陶芸家として陶友会(備前焼作家さんの組合)の株(組合への出資)を持っていたので、私は土をひくこと(ろくろで作品を形作ること)もしたことがないまま、組合に入り、急いで陶芸センター(作家になるための初期研修所のようなところ)へ勉強に行きました。

(大饗さん)
一般的には陶芸センターで勉強した後、どこかの先生のところへ弟子に入りますが、家内ははじめから工房や窯がある状態だったので・・・

(乗松さん)
そうなんです(笑)陶友会の父の友人などが何人も教えてくれて・・・特定の先生のところへ弟子入りせずに、結局、陶芸センターに長めに行きました。

(牧)
複数の作家さんにかわいがられたんですね!
仲間だった作家の娘さんを父親がわりに大切に育てる、コミュニティの絆を感じます。

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(大饗さん)
私は、半導体メーカーの工場で、中間工程の検査に関わる仕事をしていました。父が60歳を過ぎたころから、継ぐことへの意識が自然とでてきて、35歳の時に決心して会社を退職しました。

(牧)
お話をお聞きしていて、お二人は、この道を「選んだ」というよりもいつ家業に入るかを「決めた」という感覚が強いことが伝わってきます。
陶芸家への道は必然的なことだったというのはわかりましたが、大饗さんが35歳の時というと平成・・・

(大饗さん)
平成18年だと思います。

(牧)
平成18年というと備前焼業界も決して楽ではなかったはずですが、正直な話、大企業にいた方が良いんじゃないかとは考えませんでしたか?

(大饗さん)
果たして、やっていけるか?という不安はもちろんありましたよ。
ただ、この道に入るかどうかを迷うほどのことではなかったです。

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(牧)
そうでしたか。家に戻られることを選んだのは成人した後ですが、その潜在意識が生まれたのはもっと前だったんですね。むしろ、戻るという選択が当然で、家に戻らないという選択をしなかったのだと理解しました。

3. lantern orange(ランタンオレンジ)が生まれた背景

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(牧)
ぼんぼりのような模様に一目惚れしました。RI-COでは「ランタンオレンジ」という名をつけさせていただいています。この模様はひだすき(焼く前の素地に稲わらを巻き付けて焼くことで、稲わら中の成分と土の鉄分を反応させて赤みのある線状の模様を出す技法)アレンジだと思いますが、この模様が生まれた背景について詳しく教えていただいても良いですか?

(乗松さん)
主人が窯入れの時に、口元のところへ赤みとツヤを出すのに、藁をきちんと巻かずにポンポンと置いたことがありました。
窯出しの時に、その中のひとつが、丸くかわいく焼けているのを見て「あら♡」と、ときめいたんです!
私がこんな言い方はおかしいかも知れませんが、備前焼をやっていて正直「ときめく」ことって少ないんですよね。(笑)

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(牧)
 それは解ります(笑) 基本は伝統的な渋めの魅力ですもんね。

(大饗さん)
ここの棚の作品(古風な壺など)、実は家内の作品なんですよ。このランタンオレンジ模様を作る前は、本格的な備前焼が中心でした。
こんな大きな壺もしっかりつくるんですよ!

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(乗松さん)
模様が生まれた背景を教えて欲しいと言われましたが、実は偶然から始まって、この模様をベースに作品作りが変わったんです。

(大饗さん)
この頃から、家内はあちらの棚にあるような現代的でやわらかい作品を作るようになりました。
それもこの2年ほどの出来事です。
その前は、夫婦で同じ場所で制作していましたが、今は使う土の種類も変わってきたので、家内はお義父さんの工房へ行って制作をするようになりました。
以来、工房へ見えるお客様も随分広がりました。私の作品は贈答品に、家内の作品は99%自分用に、女性が選ばれます。

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(牧)
ランタンオレンジ模様は、発色は伝統工芸のひだすき技法ですが、「たすき」模様ではありませんよね。

(大饗さん)
伝統工芸の世界では、ひだすきの技法を伝承することは必要ですが、ひだすき模様の本質は発色技術だと考えています。土の成分と藁の成分が窯の中で反応して火色(緋色)を生み出す。ただ色をつけるのではなく濃淡を発色させ、趣をコントロールしている。

丸い模様を出すのではなく、ぼかしが入ったようにもっとやわらかくしたい、ここはもっと濃くしたいと、欲がどんどん深まっていきます。

(牧)
そのあたりを極めていくのは、やはり職人魂ですね。
私は、この模様を初めて見たときに乗松先生が赤ちゃんを産んだばかりで・・・というお話を聞いて、自分も小さな子供がいるものですから、
「ああ!これは命だ、未来へのあたたかな灯に違いない!」と勝手に思い込みました(笑)

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それで、河野(RI-COのブランドディレクター)に相談して、最終的にランタンオレンジと命名させていただきました。備前焼だと緋色(ひいろ)と言いますが、伝統工芸を知らない人にも理解しやすい表現としてオレンジと呼ばせていただいてます。周囲や未来をやさしく照らす、そんな気持ちを込めました。

4. 数本しかない色鉛筆で描く世界

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(牧)
先ほど、ひだすきの発色のお話でも「本質」という話題になりましたが、お二人にとって備前焼の魅力や本質は何ですか?

(乗松さん)
焼き締め、かなぁ。まずは焼き締めですね。

(大饗さん)
僕もそう思います。

(乗松さん)
あと・・・ご存じのように、備前焼は使える材料も技法も制限があるじゃないですか。そこが良いというか。厳しいルール、限られた技法の中で表現していくところ、それが魅力になっていると思います。

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(牧)
なるほど。
作家さんや窯元さんによっては古いとか、ルールが厳しすぎるという意見も聞きますが、ずばりそこが魅力というご意見には、お二人の背景からも説得力があります。

(大饗さん)
備前焼は、2本か3本しか色鉛筆を与えられずに絵を描くようなものだと言われています。
釉薬もないので、すべてが見えてしまう。お化粧の話でいえば、すっぴんで勝負しないといけない。

(牧)
なんだか水墨画のような世界ですね。

(乗松さん)
限られた材料や方法の中でこそ表現の広がりがあるというか、これをうまく言葉で伝えられないですが、そこが備前焼の本質だと思います。

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5. 自分に関係があるとさえ思わなかった―陶器リサイクルに対する正直な印象

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(牧)
今回リサイクル素材という新たな取り組みでコラボをいただきましたが、最初にリサイクルの話を知った時にはどのように思われたでしょうか?

(大饗さん)
あの、失礼とは思いつつ、ごめんなさい。
実は、正直、なんとも思わなかったんです。

(牧)
というと・・・?

(大饗さん)
最初は新聞で見て、これはいわゆる企業の人が会社のイメージアップのためにやっているんだと思いました。CSRのPRをされているものだと。
なのでこんなことで申し訳ないですけど、備前焼のごみだとしても、自分に何か関係あるという感覚が全くありませんでした。

RI-COさんのされていることは、時代にマッチしていて面白いから話題にはなるだろうなと思っていましたが、企業さんがPR活動されているという感覚で、自分と何か関りがあるという感覚になれませんでした。

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ただ、興味がない話ではなかったんです。私は年2回登り窯を焚いて、廃棄する分は、最終処分場へ軽トラックで持ち込んでいます。
山に大きな穴が掘られて、そこへ入れる。半年後に行くと、もう次の穴になっていて、それを目の当たりにしながら、「これをずっと続けてどうなるんだ」いう考えを処分場の方とそんな会話をしたことはあります。

(牧)
実は別の作家さんも、テレビの取材で「リサイクル、最初にどう思いました?」と聞かれた時「正直、大丈夫なのかなと。コストがかかりそうな話だし、商売になるような話でもなさそうなのに。」と、忌憚なく回答をされていました。(笑)

(大饗さん)
色々な意見があるとは思います。ただ、反対とか文句ということではなくて、多くはまだきちんと理解できていないだけなんじゃないかな。
陶器がリサイクルできるかどうかなんて、考えたことがなかったので。

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(牧)
他の窯元さんへ取材した際に、ひだすきに使われる藁や窯炊き用の割木(松の薪)が、気候変動の影響を受けて、入手困難になってきたと聞きました。

(大饗さん)
そうですね。稲は台風に強い短い品種が好まれますし、燃料薪を切る職人さんも、アカマツも減っています。たしかに気候変動という大きな問題の中で起こっていますね。
伝統も、時代に合わせて材料を代用したりと、少し工夫する必要に迫られていますね。

(牧)
伝統に入れてくれとまでは言いませんが、いつか陶器がリサイクルされるのが当たり前の未来が来るといいなと思っています!

6. 未来に残したい「感性」と、それを養う土壌。

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(牧)
私は、備前焼の陶器ごみが、本当にゼロになればいいなと思っています。
せっかく窯業産地で働いているので、自分も含めてもっとここで働く人が誇りに思える産業でありたいと思っています。

資源も残り少ないし、ごみが出る。新しいやり方を見つけて、自分も周囲の人も「素敵だね」と、未来を楽しめるようにしたいんです。

(大饗さん)
まあ、たしかに、備前焼も元気がないように感じるときもあります。今を生き延びることでいっぱいになっている部分はあると思います。

(牧)
お二人とも3代目という背景をお持ちですが、伝統の担い手として、何を未来へ繋げたいですか?

(乗松さん)
私にとって、備前焼は家業です。ちょうど子どもができたばかりで、未来と言えば子育てみたいな頭になっていますが、とにかく「感性」を養ってほしいです。

私の思う「感性」は、「何が良いとか悪いとかを感じ取れる感覚」みたいなイメージですね。

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(牧)
例えば、これは高い値段がついているから良いものだとかではなく、自分でこれが素敵だなと思っていることを自分の力で汲み取ること、みたいなものでしょうか?

(乗松さん)
うん、そうですね。そういう力を養える要素みたいなものが備前焼にはあると思っています。

(牧)
限られた材料やルールの中で研ぎ澄まされていく・・・なんだかわかるような気がします。
備前焼は、本当にシンプルな素材と無釉薬という技法を守り抜いた特殊なやきものとして魅力があるのですが、近年知名度が今一つと感じる節もあります。
リサイクルを入り口に知った方々にも、背景をもっと知っていただきたいと思っています。

(大饗さん)
そうですね。PRというのは、私たち作家は本当に苦手なんです。ですから、こういう時代に合った取り組みの中で、私たちが守っている伝統を知ってもらえたらと思っていますし、私たちも環境問題への取り組みに参加したいと思います。

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備前焼リサイクルを始めたとき、産地の窯元さんや作家さんはどのように思うのだろうかと心配に思うことは沢山ありました。
ですから、こうやって声をかけていただく作家さんが現れ始めたときは、とても嬉しかったです。
今回の取材では、多くのことを学ばせていただきましたが、作家さんからみると、リサイクルが自分と関係があると「感じなかった」ということは驚きでした。
また、厳しいルールの中で表現することを大切にする価値観が、シンプルな素材と製法を守っているとを知り、人の感性と自然とのつながりを感じています。


RI-COは備前焼そのものではありませんが、リサイクルするにあたっても、皆さんが守っていることや、大切だと思っていることをしっかり学ぶことで、未来のためにできることを見つけていきます。

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