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音を通して自分を表現し、他者を知る。:『ボクの穴、彼の穴。The Enemy』姿の見えないひとを音で感じるワークショップ

2021年7月3日(土)、だれでも、いつでも、どこからでも、ひとりひとりが繋がれる バリアフリー型オンライン劇場『THEATRE for ALL』で配信中の演劇作品『ボクの穴、彼の穴。The Enemy』を題材にしたワークショップを行った。同作品の音楽を担当している音楽家・田中馨さんによる、「姿の見えないひとを音で感じる」ワークショップだ。

田中さんは、作曲家およびベーシストとして、これまでSAKEROCKなど数々のバンドで活躍され、様々な舞台、映画、CMなどの音楽を手掛けてきた。そんなプロのミュージシャンと子どもたちが出会い、演奏を共にできる貴重な機会だ。

会場は渋谷区にある、代官山ティーンズ・クリエイティブ 。「可能性を生み出し、夢を描く」をコンセプトに、子どもたちと各分野で活躍するクリエイターの出会いを生み出す渋谷区の複合型施設で、今回はこの施設を運営するmother dictionaryとの協働で、「子どもたちにも作品のメッセージを伝えていきたい」という想いから開催した。

6歳〜12歳の子どもたちと音楽家・田中馨の音の出会い、そしてやりとり。当日の様子を、子どもたちの姿にも着目しながらレポートする。

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▲代官山ティーンズ・クリエイティブ 多目的室前での1枚

<タイムテーブル>
イントロ | 紙芝居「ボクの穴、彼の穴。」朗読
ワークショップ(1) | 楽器を触ってみよう
ワークショップ(2) | 自己紹介 -自分の気持ちを音にしてみよう-
ワークショップ(3) | おはなしに音をつけてみよう
ワークショップ(4) | 「みえないひと」はどんなひと?
ワークショップ(5) | 発表のじかん -きみは立派な音楽家-

イントロ | 紙芝居「ボクの穴、彼の穴。」朗読

「寄ってらっしゃい、見てらっしゃい。」
そんな掛け声と共に会場に入ってきた、音楽家・田中馨さん。
少し緊張した面持ちだった子どもたちも「なんだろう」とその声に集まり、『ボクの穴、彼の穴。The Enemy』のおはなしの一部を抜粋した紙芝居の朗読がはじまった。

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「戦争です。そこは砂漠。砂漠の中に何かあります。」

展開されていくおはなしに、さまざまな楽器をつかって音を乗せる田中さん。砂の音、銃の音、ボクと彼がいる音。その音に誘われるように、子どもたちはおはなしの世界へ引き込まれていく。

紙芝居が終わると、田中さんは子どもたちにこう問いかけた。
「いま、ボクは何してた?」
『話に合わせて、楽器をしてた!』
『音楽つくってた!!』
「そのとおり!みんなにも今日はこれをやってもらおうと思っているよ。」

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ワークショップ(1) | 楽器を触ってみよう

まずは、自由に楽器に触れ、音を出してみる。
待ってましたと言わんばかりにすぐに楽器に手が伸びる子もいれば、なかなか触れられない子も。初めて目にしたさまざまな楽器を前に、どう音を鳴らすのが“正解”なのかわからず、躊躇しているようだ。

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「自由にやってごらん。どんな音がするかな?」

田中さんの声かけと、聞こえ出した様々な楽器の音に、躊躇していた身体が動く。一度音を出してしまうと、その後はどんどん伸びていく手。緊張が感じられた表情も、だんだんと緩まっていった。

好奇心を膨らませ、新しい音との出会いを楽しみながら好きなように音を鳴らす子どもたちの横で、田中さんも自由に音を奏でたり、時にその音に合わせ、楽器を叩いたり、弾いたり。その様子はまるでミュージシャン同士がセッションをしているようにも見えた。

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ワークショップ(2) | 自己紹介 -自分の気持ちを音にしてみよう-

いろんな楽器、いろんな音があることがわかったところで、この音をつかって自己紹介をすることになった。自分の好きなことを言葉ではなく音で表現し、他の参加者たちに伝えるのだ。

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幕の後ろで奏でられる楽器。
ゲコゲコ ドンドンドン(わたしのすきなことは・・・)

『どうぶつ?』
ブッブー
『はしること?』
ブッブー
『あ、たべることだ!』
せいかーい!

受け取る側は、言葉で伝えられる時よりもその人の気持ちを想像する。伝える側も、どうしたら伝わるのかを考えながら音を出す。一人、また一人とやっていくうちに、音と他者への関わりかたや寄り添いかたが変化していく姿がとても印象的だった。

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またこのワークの最中、合間があると自分から楽器に触りにいく子どもたちの姿が何度も見られた。子どもたちの内から生まれる衝動から楽器に関わりにいくこの時間が、音を出すこと、演奏することへの興味をより深めたように感じる。

うまく言葉にして表現できないが、楽器を用いて演奏するというより、楽器を自分の一部として演奏すると表現するのがぴったりくるような、そんなそれぞれの子ども自身と楽器との関係性の変化があった。

ワークショップ(3) | おはなしに音をつけてみよう

4つのグループに分かれ、割り振られたページのイメージに合わせて楽器を選び、ここから実際におはなしに音をつけてみる。

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「そうじゃないよ!」と他の子が出す音を否定する姿はひとつもない。正解があるわけではないから、考え、感じ、やってみる。

ただおはなしを聞くだけではなく、自分がそのおはなしの中に入って表現をしてみた一つひとつの音が重なり、それはもう立派な作品となっていた。

ワークショップ(4) | 「みえないひと」はどんなひと?

「おはなしに出てくる“彼”はどんな顔?どんな性格?どんな人?みんなにも聞いたみたいに、このみえないひとにも好きなものがあるかな?」

ワークショップの手立てとして配られていたしおりに、イメージを膨らませながらどんな人か描いてみる。

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『多分、子どもじゃない?』
『いやいや、おじいちゃんだよ』
『この人は、鍛えているから強いよ』
『名前はけんじ、日本人、54歳。』
『そもそもなんで戦争してるんだろう?』
『それもわかってないんじゃない』

おなじ対象について思いを巡らせることで、子どもたちの間では自然とこんな対話も起きていた。

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ワークショップ(5) | 発表のじかん -きみは立派な音楽家-

あっという間に、おわりの時間。最後におはなしの始まりから終わりまで全員で音をつけ、演奏してみることになった。田中さんの提案で、保護者の方にも聞いてもらうことに。

「子どもたちによる『ボクの穴、彼の穴。』です。はじまりはじまり〜」

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「戦争です。そこは砂漠。砂漠の中に何かあります。」

ワークショップのはじまりで、子どもたちがおはなしへ引き込まれたように、おうちの方々を子どもたちの演奏がおはなしの世界へ誘い込む。子どもたちが出す音は、一つひとつがよりダイナミックに、意図のある音になっていったことを感じられる演奏だった。

田中さんからも、子どもたちにこんな言葉がかけられた。
「僕は、舞台で作品に音をつける仕事をしているんだけど、まさに今日みんながやったことはそれと同じことでした。今日のみんなの演奏、すごくよかったよね。演奏の力で、ぐっとおはなしに引き込まれたと思う。」

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『また音楽がしたい!』
参加してくれたひとりの子が、アンケートにそう綴っていた。

アーティストと一緒に楽器を触り、音を奏でる。
物語を聴き、登場人物や、風景、状況などへの想像を膨らませ、音で表現する。アーティストと同じように自分自身が物語を通じて「音楽をつくる」体験をする。

その経験は子どもたちに、見る、聞くだけでは獲得し得なかった発見や喜びをもたらしたのではないだろうか。


執筆:三輪ひかり  撮影:星 茉里、THEATRE for ALLスタッフ

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