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月は綺麗だった。


「別れたいの」

全くいつもの調子で、彼女は言った。夜の喫茶店だ。

「わかった」

僕は言った。

「なんでなのかな? 何がいけなかった?」

僕が聞くと、彼女はやっと少しだけ悲しそうな顔をした。

「君にいけないところなんて何もないよ」

何もいけないところがないのに、なぜ別れるのだろう。それが僕にはわからない。

だけど明日からは「おはよう」のラインをしない。「昼何食べよう」も、「おやすみ」のラインもしない。

それで、いいの?

彼女は、それでいいんだ。

「そっか・・・もし僕が間違えて「おやすみ」って送っちゃっても、許してよ」

 僕はちょっと冗談めかして言ってみた。

「返事はしないけどね」

彼女は微笑んだ。


こうしてあっけなく、僕たちは別れた。


駅までの道を、息を吐きながら歩いた。


空には月が出ていて、星がぼやけていた。

こんなふうに空を見上げたのはいつぶりだろう。

多分彼女に片想いしていた頃には、僕はよく星を見上げていた。見上げながら、彼女がその時付き合っていた男より自分の方が絶対に彼女を大事にできるのに、そんなことを考えていた。


その頃僕が思っていたより、大事にするということは大変なことだった。



僕はスマホを取り出すと、「おやすみ」と彼女に送った。

返事はなくていい。

ただ僕は言いたかった。


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