忘却の先
忘れない
私はこの瞬間を、絶対忘れないんだ。
――・・・
お風呂場に重曹を撒いて、ピカピカに磨き上げる。
シャワーで浴槽を流し終わって浴室を後にすると、脱衣所の鏡に、あの時、あれだけ忘れることはないと思ったあの瞬間を、すっかり忘れてしまった私が映っていた。
忘れないって、何をだっけ?
いつからだろう、自分のことばかり考えるようになったのは。
自分がどうやったら愛されるのか?
どうやったら気にかけてもらえるのか?
どうやったら好かれるか?
どうやったら人に評価されるのか?
全部全部、自分のこと。
そう私は、自分のことばかり。
人のために生きているふりをして、
ほんとうはいつも自分がいかに満たしてもらえるかばかりを考えている。
でもいつまでも満足しない自分から、みんな離れていく。
今日は、ゆっくりとお湯に浸かろう。
さっき磨き上げた浴槽をお湯でたっぷり満たすのだ。
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