【音楽文】最低半数は見放す手を掴んだ先に〜UNISON SQUARE GARDEN、プログラム15thに思いを馳せて〜【再掲】

※この記事は2019年に投稿サイト「音楽文」に掲載された記事を加筆・修正したものです。


7月27日、台風が過ぎた舞洲の地で、UNISON SQUARE GARDENの結成15周年を祝う「プログラム15th」が始まった。

いつもより長めのSE「絵の具」が流れ、彼らがステージに現れた。
  
その時点で観客の期待感はピークを迎える。

僕はというと、最初に披露される曲…このライブの方向性を左右するであろう曲は何なのか。そんな思いが頭の中で巡っていた。
  
ステージの上の3人は、お互いを見合わせる様子はない。それどころか、楽器を演奏する素振りさえ見せなかった。

そして、フロントマンである斎藤宏介(Gt.&Vo.)が満を持して…


  
ああ、“だから今その声を捨てないで 喧騒の街 君を見つけた お人好しカメレオンじゃないだろ 君だけのために”
  


ボーカルの歌のみで始まる、音源とは異なるアレンジ。

1曲目に披露されたのは「お人好しカメレオン」だった。

これまで頑なにライブで披露されなかった曲。

収録されたアルバム「CIDER ROAD」のツアーでも、11周年の武道館ライブでも。
 
作詞作曲を手がけた田淵智也(Ba.)が「魂を削った」と評する程の思い入れがある反面、ライブでの出番は与えられなかった。

「忸怩(じくじ)たる思い」があると言いながらも、世に出てから6年間、結局僕らの前に登場することはなかった。

そんな曲が15周年を祝うライブの先陣を切る。

その意味を理解できるのは、彼らを追いかけてきた'物好き'たちだけであった。
  
今回のライブは、「ロックバンドは君の街にやって来るもの」と豪語する彼らが、初めて「待っている」「来てくれ」と呼びかけた特別な場だ。

まさに究極のお祝いモード。「友達も誘って来てください」なんて言ってしまうぐらいに、普段の彼らから考えられない盛大な催しなのである。
 
僕が予想していたのは、誰しも楽しめるような1曲目。

それこそキャッチーだったり、アップテンポだったり、ユニゾンの世界観に引き込まれるような…そんな曲だった。

そんな予測をひっくり返すような、“超新星アクシデント”が起こった選曲。

当然、会場は声にならない悲鳴に包まれた。
  
「お人好しカメレオン」が待ち望まれていたのは、ライブで披露されなかったからだけではない。

それ以上にこの曲に'勝手'に救われてきた人がいるからだ。
  
“周りの目立つ色に 馴染めるよう”に、“心の切り売り”して日々を過ごしている。

そんな僕らに、この曲は“その声を捨てないで” “君だけのために君はいるんだよ”と優しく伝えてくれる。

社会や学校のなかで、自分の色を出せないたくさんの人たちの背中を押してくれる、「お人好しカメレオン」はそんな曲だ。
 
僕もその1人だった。人生のなかで、どれだけ自分を出せないことがあっただろうか。

気持ちを押し殺して、周りに合わせて…それが平和に暮らしていくための最善の手段だと思い込もうとしていた。

それが苦しくて仕方がなかったのに、声をあげて助けを求めることができなかった。
  
そんな僕に、彼らは「逃げるな」とか「勇気を持て」じゃなくて、“その声を捨てないで”と言ってくれた。“小さくでいい 十分だから”って。

言えない自分に目を向けてばかりの僕に、本当に大切なことを教えてくれる、そんな言葉だった。
 
歌声を通して聞くフレーズたちは、より鋭くハッキリと心へ響いてきた。

大切なことに気づいても、それでも「お人好しカメレオン」になってしまう僕は、未だに生きることにもがき続けている。

それでも、その言葉は少しでも前に進む力を与えてくれた。


 
“生きて欲しい!”と投げかけてくれる「Invisible Sensation」


僕にとって、ユニゾンを愛するきっかけとなったライブでの幕開けの曲「カウンターアイデンティティ」


月が満ちる演出とともに激しいパフォーマンスを披露した鈴木貴雄(Dr.)のドラムソロ


ライブのトリにして、滅多なタイミングでないと登場しないメジャーデビューシングル「センチメンタルピリオド」


 
あげるとキリがないぐらい、このライブでは印象に残る場面があった。

そのなかでも、僕が鮮明に記憶に残っているのが、「お人好しカメレオン」なんだ。

自分自身の人生と照らし合わせて、これほど心動かされる歌はなかった。
  
この曲には、“最低でも半数は見放していく僕の手を掴むのか”という歌詞がある。

きっとこれまで、たくさんの人が彼らに見向きもしなかったんだろう。

でも、そこに残った'物好き'はそれと同じぐらいの数になって、舞洲の地に集合した。
 
2万5000人が一同に介する光景は、その中心にいても壮観であったし、これだけの人がUNISON SQUARE GARDENのことを愛してるのか…そう考えるだけで嬉しくなった。
 
“今日ぐらいは祝ってくれないかな!”その一言とともに、大勢の人が集まったのだ。

彼らが大いに油断した成果ではあるが、その一端にいることが誇らしくなった。
  
「お人好しカメレオン」の歌詞のなかで、特に気に入っているのが、

“僕は僕のために そう例えば僕はそう だから 君のために君はいるんだよ”

という一節である。
 
最後のMCで、斎藤宏介はファンやスタッフを大切にするためにどうしたら良いのか、ひとつだけ知っていると言ってくれた。

それは「自分たちのために音楽をやること」「そうすればこれからもUNISON SQUARE GARDENを好きでいてくれると信じている」と。
 
15年間変わらずに自分たちのために音楽を鳴らし続けた3人がいて、その魅力に惹かれて、僕らは集まった。

それは絶対に間違いなんかじゃないし、どうかこれからも続いて欲しいと願う。
 
鈴木貴雄は「今日のライブめっちゃ楽しくない?」と笑顔で言ってくれた。

それは本人たちが観客以上に楽しんでいる証拠で、こんなにも聞く人の心を感動させるライブができるんだ。
 
自分たちのために生きる彼らが、これだけ素晴らしい演奏を見せてくれる。

だからこそ、自分のために生きることがどれだけ尊いことなのかと思うことができるんだ。
 
ライブの終盤に披露された「オリオンをなぞる」では、

“僕がいて あなたがいて それだけで 十分かな”

というフレーズを、斎藤宏介は“あなた”を強調させる歌い方をした。
 
もちろん僕らは“永劫他人”なことに変わりはない。
けれど、“その片隅のほんのちょっと けど大事なスペースに”、確かに僕らの居場所はあるんだ。そう感じさせる瞬間だった。
  
夢のような2時間30分は終わりを告げた。

この感情の正体は一体何なんだろう。

“名前なんかないよ 何にも だから君が今付けたらいいんだよ” 

そう彼らは言ってくれると思う。

まだふさわしい名前は見つけられそうにない。
 
そんなときは田淵智也のMCを思い出す。

"UNISON SQUARE GARDENちゅーのは、すげぇバンドだな!今日は良く来た!またやろう!!"

 
まさしくその通りなんだ。名前のない気持ちは、今はそっと心に閉まって。


15年間お疲れ様でした。またどこかの街で会える日を願って。








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はい、というわけで音楽文の再掲記事でございます。

3作目は2019年7月27日に開催された「プログラム15th」についての記事になります。

大阪の舞洲で行われ、僕にとっては唯一の遠征せずに参加した15周年のイベントですね。

奇しくも3年前の今日となりました。途中からは日程合わせたけど、この時期になったのは完全に偶然です。

本当はもっとペース早く投稿する予定だったし…まさに怪我の功名というやつです。

そんな絶妙のタイミングの今記事ですが、当時25000人の観客を呼んだ一大イベントということで、周囲の評判もかなり良いものであったと記憶しています。

多分書いた音楽文のなかでは1番良かったんじゃないかな。

今思い返しても、15周年のお祝いパワーのすさまじさを感じます。

僕個人としては、仕事が1番しんどかった時期でもあり。

責任ある立場をこなしながら、"間違ってないはず"のことを否定され続ける地獄のような日々を過ごしていました。

ちょうどこのライブがある前日に仕事の繁忙期を終え、このライブがあったおかげで何とか生き延びられた気はかなりしていますね。マジで。

そんな心の支えにしていたライブの1曲目が、まさかの初披露の「お人好しカメレオン」…当時の自分とあまりにもリンクする部分がありすぎて、胸に刺さるものがたくさんあったことも記憶に焼きついています。

あまりの衝撃に「ウホホホイ!マジかよ田淵!!」と思考までゴリラと化して、呟いていました。いや、マジで。

ライブでやるとは思っていましたが、まさか1曲目からやるなんて…どれだけの人数の観客がいても、ユニゾンが大事にしているものが変わっていないことを証明していて、何だか嬉しくなりました。

そんな思いを文にまとめて投稿し、ここらへんを機に本格的に文字書きへの道を進み始めたような気がします。

当初の予定では、これ以降の執筆は考えていなかったので。

そう考えると、ここが自分にとってのターニングポイントだったのかもしれませんね。

楽しいことも悲しいことも、文にしてしまえばスッキリできると気づいた瞬間でした。

そうして、執筆したのが約20本の音楽文になります。

書きも書いたりですが、積み重なったものは確かにあるので、やめずに続けてきて良かったなと思います。

こうやって再掲すると、当時の気持ちを思い出せて、初心に帰ることができますね。大変ありがたいです。

引き続き、音楽文の記事も再掲載していきたいと思いますので、引き続きどうぞよろしくお願いします。

最後に…ロックバンドよ、いつも本当にありがとう!

ん…?ありがとう?…サンキュー?…Thank you!?

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