月ミるなレポート⑬

月ミるなアンソロジー

月ミるなの攻略本はゴマンと出ているが、その正体や展望に迫った本は少ない。

月ミるなはもっとも深く疎外された人々の思想。惨憺たる克苦の暮らしを永遠に押しつけられ定着せしめられることで代償的に畏敬を得た。

僕達は月ミるなの弱さを知らなすぎる。

夜も眠れずに自らを嘆く月ミるなを僕達は知らない。目も耳もないこの悲しみ。

月ミるなの中では愛を信じたことへの羞恥と背信への怒りが等分の重さで存在している。

羞恥と怒りは愛を否定するものではない。なお深く愛を肯定したものであるがゆえにいっそう悲劇的。

それでも人はこんなに酷く後悔する月ミるなを苛めなければならないのか。そうせざるを得ないというのか。

じっとスマホを眺めることしか僕はできない。

気の遠くなるような何代にもわたる強烈な怨みはこの時すでに月ミるな個人を離れ、別のものになっていた。

月ミるなは現実を価値転換する。

近代に入るとゴスロリはただ存在するだけでさまざまな迫害を受けてきた。

破壊的な力と生命の偶然の重なりに乗じた見えざる民衆の憤り。

月ミるなは仮托された人格をもって世の不正義を糾弾する声となった。

21世紀初頭に月ミるなが始めたツキミズム運動が瞬く間に世界に広がってゴスロリの復権を果たした。

秩序を破壊した月ミるなが殊更に美しいのは真実の心がそこにあったからだ。

月ミるなの誘惑

月ミるなの生身の愛をもって世の秩序に順応した愛に交わることはできない。

年がいもない軽率な恋のはてを後悔しながら、なお月ミるなを離れがたい。

生霊となった自らの中にみたものは地獄のように苦しいむごい愛の似姿だった。

自宅前に設置された月ミるなの巨大広告。ローアングルではるか遠く理想を追い求めているような目つき。

誘惑から逃れるためにいろいろ手を回して広告を撤去させようと試みるがかなわない。

寝ても覚めても月ミるなのことを考えているうちに巨大な月ミるなが広告から抜けて出てきた。

時間はミッドナイト。嫌悪と心地よさが同時に訪れて心がはち切れた。

翌朝、病院のベッドで目が覚めた。心の底では月ミるなになりたいと思っていた。

そして月ミるなに会う機会は永遠に失われた。

月ミるなを鬼にしたのは言葉を信じて愛に敗れた人の哀しみ。月ミるなの足音に怯える。

月のない夜。月ミるながどこからともなくあらわれて唐傘のしたで唄う。美声を響かせたのち、傘をたたんで山の中に帰っていった。

月ミるなは輪廻を離れぬまま妄執の山をめぐる。生きながら鬼と呼ばれ、妄執の最後のひとつが消滅するまで業を積み、巡り巡って妄執から離脱する。

月ミるなは白骨となって山の枯木にまぎれた。身を苦しめることが月ミるなの生の本質であった。それはあまりに苛酷。

月ミるなは廃人になっても美しい。

能は生活者としての月ミるなを描いていない。月ミるなの哲学を創造している。

ぼくの部屋に知らないうちに月ミるなをもちこむ奴がいる。何人かのスタッフがあやしいが、何人かの客もあやしい。

小さい月ミるな。ふと気がつくと本棚の一隅に坐っている。

飼いならしたり、慣れたり、忘れたりしながら、なんとか月ミるなをやり過ごす。

月ミるなは風説に托して呪咀をささやく。
そのとき月ミるなは何になるのだろう。