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本屋大賞3度入選!【深緑野分】のおすすめBEST3!

先日2021本屋大賞が発表され、町田その子さんの「52ヘルツのクジラたち」が見事受賞を果たした。しかし、安直に受賞作家を紹介するのも面白くない。今回は対抗馬として賞レースを盛り上げた別作家を取り上げよう!ということで、今回紹介するのは2021本屋大賞10位に輝いた「深緑野分」先生です!
既刊5冊のうち実に3作が本屋大賞トップ10入りしている有望株の魅力をご紹介しましょう!

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深緑野分の魅力

彼女の何よりの特徴は緻密な情景描写だ。日本以外を舞台に置くことが多いのだが、それでも読者の頭の中に鮮やかに情景を構築させる緻密な描写には毎回度肝を抜かれる。見たこともないのに戦場の息遣いを感じさせる文章力は若手の中では頭一つ抜けているのではないだろうか。

この特徴ゆえ、あまりストーリーが進んでいないのにページ数がかさむという癖もあるのだが、そこはご愛嬌。


最新作の「この本を盗むものは」ではその情景描写能力をさらに昇華させて森見登美彦ばりの幻想的世界観をいくつも構築した。これからリアル志向と幻想志向どちらに発展していくかは見物だが、どちらにしても情景描写力は確かな武器として活かされるだろう。

もう一つの魅力は終盤に待ち受ける怒涛の展開だ。舞台の情景描写に重きを置くため、スロースタートになりがちな彼女の作品だが、終盤には「ミステリーズ!」出身ならではの確かな驚きの連続が読者を襲う。
特に「分かれ道ノストラダムス」では今までの描写がすべて伏線となって繋がり急転直下のラストを迎える。白川三兎のような世界観から繰り出される力業の右ストレートは初見の時、唖然とさせられた。

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さて、ここで深緑野分さんの作品に興味を持ってくれたという方のためにお勧めのベスト3を紹介しよう。と言っても既刊が5冊しかないので、全部読んでみるのが一番いいけどね!

3位 「オーブランの少女」

美しい庭園オーブランの管理人姉妹が相次いで死んだ。姉は謎の老婆に殺され、妹は首を吊ってその後を追った。妹の遺した日記に綴られていたのは、オーブランが秘める恐るべき過去だった。(BOOKデータベースより抜粋)

ミステリーズ!新人賞で佳作を受賞した表題作を含む短編集。この頃から深緑野分の丁寧な情景描写は健在で、舞台設定も相まって美しいイギリス映画のようなストーリーには可能性しか感じない。売れっ子作家の原点を感じるためにもぜひ手に取ってほしい作品だ。

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2位 「この本を盗むものは」

「ああ、読まなければよかった! これだから本は嫌いなのに!」
ある日、父が管理人を務める巨大な書庫「御倉館」から蔵書が盗まれ、父の代わりに館を訪れていた高校生、深冬は残されたメッセージを目にする。
“この本を盗む者は、魔術的現実主義の旗に追われる”
本の呪いが発動し、街は侵食されるように物語の世界に姿を変えていく。泥棒を捕まえない限り世界が元に戻らないと知った深冬は、探偵が銃を手に陰謀に挑む話や、銀色の巨大な獣を巡る話など、様々な本の世界を冒険していく。(KADOKAWA HPより一部改変)

今年の本屋大賞で10位にランクインした最新作。今までの作風とはがらりと変えて幻想世界を舞台にしたかなりの意欲作だ。ミステリ色は鳴りを潜めてジェットコースターのような展開を楽しむ文芸作品にはなっているが、やはり彼女の情景描写能力はいかんなく発揮されている。今までと作風が違いすぎるので1冊目に読みだすと、他を読んだときに違和感を覚えるかもしれないが、作家として新たな地平線を切り開いた冒険作を是非読んでいただきたい。

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1位 「戦場のコックたち」

合衆国陸軍の特技兵(コック)、19歳のティムはノルマンディー降下作戦で初陣を果たす。軍隊では軽んじられがちなコックの仕事は、戦闘に参加しながら炊事をこなすというハードなものだった。個性豊かな仲間たちと支え合いながら、ティムは戦地で見つけたささやかな謎を解き明かすことを心の慰めとするが……。(東京創元社HPより一部抜粋)

デビュー2作目にして「このミス」2位、直木賞候補など業界に新風を吹かせた出世作。日本人にはハードルが高いと思われた第二次世界大戦中のヨーロッパを舞台に据え、入念な取材と持ち前の情景描写で戦時中の緊張感と息遣いを見事に再現している。
また、戦場での「日常の謎」という斬新すぎる設定にはどれほどの発想力を必要とするのか想像もつかない。まさに作家として必要な能力を存分にアピールした渾身の作品だ。文句なしで第1位にお勧めできる現時点での最高傑作である。

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終わりに

彼女の作品は緻密な描写により、まるで映画の中にいるような気分になれる。
このコロナ禍だからこそ、彼女の作品で一風変わった世界旅行に是非飛び立っていただきたい。

深緑野分を輩出した新人賞を取り上げた記事もあるので是非。


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