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父のへたくそな味噌汁

2人とも在宅勤務なので、平日の昼食を父と一緒に食べることがある。

A型のおうし座、頑固でプライドが高く、人の言うことを聞かない、酒の飲み過ぎでデブ、おまけにハゲの父は、本当にどこにでもいる普通のサラリーマンだ。

一人暮らしが長かった父は「昔は料理が美味かった」と両親が口を揃えて言う。ただ、残り物を温めるか、もしくはインスタント食品ばかり食べている今の父に自炊ボーイの面影は一切感じられない。

そんな父だが、私と昼食を食べる時は気を遣ってくれているのか必ず味噌汁を作ってくれる。ありがたいことなのだが、これがあまり美味しくない。主婦歴27年の母に比べて上手でないならまだしも、人生14年の弟が作った方が美味しいのだから困ったものだ。

今日もたまたまお昼の時間が被り、私はこっそり父の味噌汁の作り方をのぞいてみた。

まだ水が沸騰していない鍋に薄く切った大根を入れ、蓋をして強火でグラグラと煮込んでいた。まずこの時点で出汁を入れていないことがわかる。我が家には顆粒だしもあれば、かつお節だってあるのに。

そして「もう勘弁してください」と言わんばかり大根がクタクタでヘロヘロになってから、火を止めないでそのまま、たっぷりの味噌をおたまで掬って鍋につっこんだ。なるほど、味噌の風味を最後に飛ばしてしまうのが父のスタイルだったらしい。あと味噌が多すぎる。

味噌が溶けたらもうひと煮立ちさせて完成。部屋の湿度が上がるほどの湯気が、鍋から立ち上っている。

大根はすっかり食感がなくなり、味噌汁だけでご飯が食べれるくらい味が濃い。それなのに量は多いのが厄介だ。頼まなくなても私の方に具を多く入れてくれる。ようやく汁を飲み終わると、器の底に味噌が溶け残っていた。

父はあまり口数が多くないので、食事中はほとんど会話をしない。
「醤油取って」
「はい」
「ん」
くらいのもので、あとはテレビを見ながら黙々とご飯を口に運ぶ。

味噌汁の作り方について色々言いたいことはあるが、すぐに機嫌が悪くなる人なのでめんどうくさい。まぁいいか。大人になってあげますよ。味噌汁の味は好きじゃないけど、「またこれか」と思いながら過ごす昼はなぜか嫌いじゃない。

携帯の待ち受けは私の成人式の写真で、定期入れには私の七五三の写真を入れている父。酔っぱらうと私が赤ちゃんの時の話をする父。たいした物もあげてないのにホワイトデーで張り切ってお返しをくれる父。

パパは不器用でへたくそだけど、私のことが大好きだってずっとバレてるよ。