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【こえ #19】声帯を失った方が器具を使わずに再び発声するには、口や鼻から食道内に空気を取り込み、その空気をうまく逆流させながら…

佐藤 眞一さん


 佐藤さんは14年前、頸部(首)食道がんと診断され、手術で喉頭(声帯)を全摘出し、空腸(小腸)をお腹から切り離して、切除した食道に移植した。

 声帯を失った方が器具を使わずに再び発声するには、口や鼻から食道内に空気を取り込み、その空気をうまく逆流させながら、食道入口部の粘膜のヒダを声帯の代わりに振動させて音声を発する「食道発声」に取り組む。しかし、佐藤さんは空腸を移植しているため“新しい”食道内に十分な空気を取り込むことが難しく、会話を続けづらい。

 そのため、「食道発声」も習得されているが短い言葉の際に使うだけで、対面での長い会話や電話をする際は、あご下周辺に当てて振動を口の中へ響かせ、口や舌の動きで振動音を言葉にして発声することを補助する器具である「電気式人工喉頭(EL)」も積極的に使われている。


 佐藤さんが、声を失った同じ境遇の方々が発声練習に通う「銀鈴会」に入会したのは、お仕事をバリバリされていた頃。会は佐藤さんの手術内容や仕事状況も踏まえて、「(習得に時間がかかる)食道発声ではなく、(比較的容易な)電気式人工喉頭(EL)の教室を勧めてくれた」。

 最初に使った製品はアメリカ製。1台に限って自治体の補助を利用して購入できるが、故障したら困るので2台目は自腹で購入して常に2つ持ち歩いた。

 「でもその後は国産のレベルが上がってきてさ、今じゃ愛用しているよ」と2台の電気式人工喉頭(EL)を目の前に並べてくれた。北海道に本社がある電制コムテック社製のユアトーンだ。「昔はもっと使い方が難しかったんだよ」と製品デザインの変遷を詳しく教えてくれながら、「いま新しいデザインのモデルに買い替えるか迷ってるんだ。購入した途端にまた次のモデルが出るかもしれないし。いつも自治体の補助が使えるわけじゃないからさ。」とちょっと嬉しそうに話された。

 開発者冥利に尽きる話ではないだろうか。


 ちなみに製品への改善要望はありますか?と聞いてみたら、「周りには、昔はカラオケの曲数が10曲あったけど今は2曲になっちゃったって残念そうにする人もいるよ」と仰った。驚かれる方もおられるかもしれないが、ユアトーンには声を失った方でもカラオケを楽しめる機能もあるのだ。

 前述の「銀鈴会」にも、声を取り戻す練習クラスの他に、カラオケや朗読を楽しむクラブもある。すなわち、声を取り戻すというマイナスをゼロに戻すだけではなく、声を失う前のプラスまでできるだけ戻すことが大切なのだと教えられる。


 佐藤さんは、ユアトーン以外でも、声を失った方々を支援する機器の開発に期待を寄せる。

 第9話から第11話でご紹介した、コミュニケーションに障害を抱えた方のために第二の声を届けるマウスピース型機器「Voice Retriever」の試作も着用した。利用には、外部機器を操作する必要があるのだが、現在はマウスピースと配線つながっており、マウスピースを付けると口から線が出ることになる。「まだ見栄えの印象がどうしても気になるけれど、そこを改善すれば是非また試着したいね」と応援している。

 第16話第17話でご紹介した、Syrinxが開発を進める次世代の電気式人工喉頭(EL)の試作も着用した。この製品はスピーカーが付いたバンドを首に巻くのだが、そこからも外部機器への配線が出ている。こちらは口からではないが、「配線がなければ違和感がない。やはり見栄えが大事で、無線で飛ばせばかなり違うよ。」と製品化を望んでいる。


 こうした支援製品が世の中で役に立ち普及するには、当事者の役割が欠かせない。声を失った方々を支援する機器にとって佐藤さんのような方の存在が欠かせない。


▷ 銀鈴会

▷ ユアトーン

▷ Voice Retriever

▷ Syrinx


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