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【こえ #15】最初、「まだ発声ができない方」と紹介されて、少し身構えたことを告白する…

三木 景子さん


 最初、三木さんを「まだ発声ができない方」と紹介されて、少し身構えたことを告白する。


 これまで10名以上も喉頭(声帯)摘出された方にお会いしてきた。しかし、どの方も、口や鼻から食道内に空気を取り込み、その空気をうまく逆流させながら食道入口部の粘膜のヒダを失った声帯の代わりに振動させて音声を発する『食道発声』や、あご下周辺に当てた振動を口の中へ響かせ、口や舌の動きで振動音を言葉にして発声するための補助器具『電気式人工喉頭(EL)』をうまく使いこなす方が多かった。


 しかし、三木さんはiPadを取り出し筆談アプリを立ち上げ画面の半分にタッチペンで文章を書き始めた。私の方を向いた画面のもう半分に同じ文章が映る。あまりにスムーズな会話が始まった。

 これだけ“笑い合えた”ことにも感激した。三木さんから笑い声は出ない。「人間の表情は世界共通」だなんて言うが、よく笑う三木さんの口から笑い声が聞こえると錯覚するほど楽しかった。


 「もともと一人旅が好きで、、」と仰って、てっきり喉頭(声帯)摘出前の話かと思ったら、摘出した翌年には一人でニューヨークに行かれたそう。「(声を失っても)行けるじゃん!って感じでした」と話された後に、「でも強盗にあって携帯も盗まれたんですよ。防犯ブザー鳴らしてもHELP!が声にならなくて、警察に行っても現地のスマホだと日本語打ち込めないから翻訳もできなくて」と続けられた。ん?行けるじゃん?「でも、強盗以外はみんないい人でしたから」。次はモロッコに行くことを目指しておられる。

 普通、声を失えば以前と同じ冒険をすることを躊躇い、三木さんが実際に合われたリスクを考えてしまうものだろう。三木さんとお話しして、そう勝手に思い込んでいただけなのかもと思わされた。


 三木さんには声を失ってから驚いたことがある。声が出せないからお店で筆談を見せると、店員さんも筆談で返そうとしてくれる。でも「話せない=聞こえない」ではない。その話をお聞きして、自分もそうかもしれないと再び思い込みに気付かされた。

 例えばキャッシュレスで支払うときに「SUICAで」と言葉に出せないとすれば、そのお店で使える決済方法のアイコンが並んだ一覧から指さすことになるかもしれない。でも、その一覧は店員さん側には向いていないものだ。これは逆にお客さんが「話せる」ことが前提になっているのかもしれない。三木さんは「SUICAで」と示す手作りのカードを持ち歩いておられる。小さな思い込みを変えて改善できる世界はまだまだありそうだ。


 三木さんは声を失ったことについて「もともとそんなに喋る方じゃない。だから、私が癌になるとしても一番支障がない、耐えられる場所を選んでくれたんじゃないかと思っています」と仰った。でも、がんで声帯を摘出し声を失った人の社会復帰を支援する「銀鈴会」に通い続け発声方法を身につけるために仕事も変えられた。

 三木さんとのお喋りはとても楽しかった。モロッコに行かれたら、また旅の思い出を話して欲しい。もしかしたらその時にはまた違う笑い声が聞けるかもしれない。


▷ 銀鈴会


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