ピンチをアドリブで乗り越える技 5/100(傾聴)

自問自答を繰り返しながら、
アドリブと演技の関係を
追求していってみようと思い立ちました。
100回(?!)連載にて、お送りします。


未知は恐怖に繋がります。

有難いことに記事を見てくださる方々が少しずつ増え、嬉しい反面、さらに精度を上げなくてはいけないなとは思いつつも、ピンチに陥った時に役立つ、アドリブと演技の技術について、自問自答しながら、アドリブ的に(うけうりですが…)引き続き綴っていきます。

台本のない状態でピンチに陥り、恐怖を感じた
というのは誰でも経験したことがあるのではないでしょうか?
恐怖に感じるのは、あまりにも不確定要素が多すぎるからです。何が起こるかわからない、何が起きているのか分からない、何をしたら良いのかが分からない。
未知は恐怖です。

ロンドンでの3年間の演劇学校生活の中で何度も何度も繰り返し言われる単語がある。
“LISTEN, LISTEN, LISTEN!”
つまり、もっと「聞け聞け聞け」と言われるのである。

これは決して先生の言うことをよく聞けとか、相手のセリフを聞けというだけの意味ではない。私はこれを日本語では傾聴と訳している。

耳で聞く相手のセリフだけではなく、姿勢や身体表現、声のトーンや強弱、リズム、その他諸々全てに耳を傾けて、相手のメッセージを傾聴しろということだと思う。

それが演技をする上で、最も重要だと言われている。どこかシーンが噛み合っていない時、それは役者たちの傾聴が出来ていない時であることが多い。極論だが、この傾聴さえきちんと出来ていれば、それに対するリアクションをするだけで演技は成り立つとも言われている。

ピンチに陥った時、相手や周りの様子を傾聴することで、状況を正しく知ることが出来る。つまり、未知要素が薄まり、恐怖心が無くなっていくのではないだろうか。

相手がなにを感じていて、どういった人間で、何を基準に生きていて、価値観がどこにあるか、今何を思い、何を望んでいるか、それは傾聴することによってある程度読み取れる。
もう一度言う、何を言っているかではなく、どういった表現をしているかに耳を傾けてみましょうということだ。

例えば、目線はどこを向いているだろうか、姿勢はどうなっているだろうか、体が開いているか閉じているか、声のトーンはどうだろうか、呼吸はどのようにしているか、こういったありとあらゆる要素を読み取る能力が備わっていれば、相手の意図することをより深く理解することができ、それに対する対処法(リアクション)も見えてくる。

同時に、相手に圧倒されて受け身になるのではなく、傾聴するというミッションを自分に科すことによって、能動的になり、自分の中に余裕が生まれるかもしれない。
自分のことばかりに集中していると、どうしても、パニクってくる。問題の論点は自分にあるのではなく、相手にあるのだと思うことによって、心が軽くなったというような経験は無いだろうか?
演劇の世界では、その自分にばかり意識がいっていて、周りが見えなくなっている状況を戒めるために、日本では世阿弥の「離見の見」という発想があるし、イギリスの演劇学校では、”The Little Fucker”という怪物と、”The Wittness”と言う守護神がいるというコンセプトを教えられた。

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