ピンチをアドリブで乗り越える技 21/100(魅力)

自問自答を繰り返しながら、
アドリブと演技の関係を
追求していってみようと思い立ちました。
100回(?!)連載にて、お送りします。


魅力とは何か?

ピンチに陥った時、その場を取り繕うとするのが本能ですよね。
でも、果たしてそうか?守ってあげたいと相手に思わせる、
「あざとさ」も上手に使えば効果的かも?という話をしようと思います。

イギリスの演劇学校では、「vulnerability」という単語がよく出てきます。

vulnerability
傷つきやすいこと、弱み、脆弱性

という意味ですが、何のことやら分かりませんよね。

芝居の世界ではよく、

「子供と動物には敵わない」

と言われます。

同じ舞台上に、子供や動物が出ていると、観客の目は自然とそちらに向けられます。

なぜでしょうか?

子供や動物の予測できない感じ、無邪気さ、ピュアさ、そういったものに人は惹かれるのかもしれません。

狂言の台本を見ると、昔の人もそれをよく理解していたことがうかがわれます。
狂言師の家に生まれると、3歳か4歳で初舞台を踏むことになるのですが(能狂言では、特別な演目に出演することを『踏む』と表現します!)、和泉流では『靱猿(うつぼざる)』という演目に猿役で出演します。

この役、3、4歳には荷が重いです。
全身、猿の着ぐるみを着て、猿の面(仮面)をつけます。着ぐるみに毛はついていませんが蒸れて暑いですし、面で視野はかなり狭まります。
しかも、この着ぐるみ、大人たちが糸針で数十ヶ所とめて肌が露出しないようにしなくてはならないのですが、誤って刺されることもあります!

暑いし、よく見えない状態で舞台に立つわけなのですが、その内容も難易度が高いです。
およそ30分にわたり、大人たちが演技をしているあいだ、猿の真似をしなくてはいけません。アドリブで。

事前に、猿の型をいくつか教わります。頭や腕、お尻をかく、寝転がってゴロンゴロンする、四つ足で舞台を一周する、前転、飛んでいる虫を捕まえ食べるなどです。そして、これらを自分で組み合わせて、猿の状態で居続けなくてはなりません。

まさに、アニマル・スタディー(20/11参照)で、アドリブです!

その上、最後に謡に合わせて飛び跳ねながら舞のようなものまで披露しなくてはいけません。3、4歳にしては大変ですよね。

話ががそれましたが、この『靱猿』、台本だけ見ると、同じことを3回言います。

大名が何かを言う、それを太郎冠者が引き継ぎ役として、猿曳き(さるひき)に繰り返す、猿曳きは言われたことを復唱する、という具合に何度も繰り返すのです。

不思議ですよね。

私の持論ではこれには明確な理由があります。この会話が行われる間、猿役の子供は先述のようにアドリブの演技をしています。

お客さんの注目は、この可愛い猿に釘付けです。
だって、子供だし、動物だし、アドリブで予測不可能なんです。もう、観客が惹きつけられる要素が満載です!

そんな状況だと、お客さんは舞台上で行われる会話になんて集中してません。大名や、太郎冠者、猿曳きが何を言ってるかなんて聞いてないんです。

だから、同じことを3回も言うのだろう、というのが私の持論です。

西洋の脚本でも、子供が出てくるような内容の場合、やはり同じことを繰り返し言う傾向があります。

また、舞台上に動物が登場するものとしては、近年、イギリスでは素晴らしい人形を使った手法が目立ちます。『War Horse (戦火の馬)』が代表的ですが、昨年は『となりのトトロ』が圧巻でした。

ピンチに陥った時、

(やっとその話になりますが)

平静を装ったりしがちです。弱みは見せまい、と思うでしょう。
でも、場合によっては、ピュアさ、幼児性のようなものを曝け出してもいいのかもしれません。

天然な人って、どこか憎めなかったりするじゃないですか?

もちろん、時と場合、相手にもよると思います。
でも、自分の弱い部分、「vulnerability」を見せることによって、それは魅力にも繋がるということは、覚えておいて頂いていいように思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?