【ペケロッパ・カルト】 破 #1~3
破
# 1
場末の薄汚い外観のピザ屋「ピザタキ」に連れてこられたことで、ヒロコの困惑はこの日の頂点に達した。
もう4度目になる今朝、哀れなペケロッパ・カルト信者を「保護」しようと悪戦苦闘していたところで助太刀に現れたのは、あの変わった、綺麗な人だった。その人は、見た目からは想像もつかない腕力を発揮して、たちまちペケロッパ信者の手首を縛りあげた。その時は驚きよりも嬉しさがはるかに上回ったが、その後は困惑の連続だ。
歩道に突っ立っていても仕方がないので、その人の提案でオールド・カメ・ストリートに移動し、緑地帯の適当なベンチに陣取って自己紹介をした。その人は「ドーモ。コトブキといいます」と名乗った上で、「実はウキヨなんです」と付け加え、両手で自分の両目を指さした。コトブキの瞳には、たくさんの羽を生やした天使のような図柄が刻印されていた。コトブキが「ウキヨ」であるという事実以上に、時折発生する「ウキヨ」による凄惨な殺人事件の報道やその他の「ウキヨ」に関する噂話からかけ離れた、妙に調子が外れたコトブキの人懐っこさにヒロコは困惑した。
何より困惑したのは、ヒロコが事情を説明したときだ。ヒロコが、正気を疑われる覚悟で(最初は自分がこのペケロッパ者に衝突して死に追いやったことは省いて)ことの経緯を説明すると、コトブキはヒロコの力について全く疑おうとしなかったどころか、「やっぱり!」と嬉しそうに笑った。理由を訊くと「ヒロコ=サンを見た時になんとなく分かったんです」と答え、さらに「映画でも見ました」と付け加えた。
「保護」したペケロッパ者にも困惑させられた。噂には聞いていたが、実際に話すと噂以上に奇怪だ。何を聞いても「ペケロッパ」としか答えない。伝えたいことがあれば、なぜかサイバーサングラスのLED電光表示パネルに表示される。一応、感情はあるようだ。3度目の今日の午後3時すぎにペケロッパ・カルトを名乗る者が大規模UNIXハッキングテロを起こした様子を説明したときには、血相をかえて「ペケロッパ! ペケロッパ!」と繰り返した。サイバーサングラスを見ると「なぜ知っている」の表示。そして、善後策を考えるために、実際には何の目的で何を行おうとしていたのかと訊くと、重々しく「ペケロッパ」と言ったきり、何も答えなくなった。サイバーサングラスには「黙秘する」の表示。
仕方なく、乏しい手がかりをもとにコトブキと相談したが、コトブキの提案は何かにつけて、映画における成功率を根拠としたものだった。そして、そのどれもが映画的な非現実的なものだった。ニンジャに頼ろうとコトブキが言い出したときには、内心、頭を抱えた。メガコーポやヤクザクランが、ニンジャ−−今でもその実在を疑う声が絶えない、超自然的な戦闘力を持つという恐るべき暗殺者−−を雇っているという話はヒロコも何度か聞いたことがあるが、まさかコトブキがニンジャを雇っているはずがない。だいたい、(ニンジャについて真剣に考えている時点で非常識かもしれないが)常識的に考えて、こんなことに手を貸すニンジャなどいるのか?
自分でも方策を考えたが八方塞がりだ。企業警備員に告発したところで、ヒロコ自身がわざわざ狂ったウキヨと結託して哀れなペケロッパ者を引っ立ててきた狂人と思われるのがオチだ。そもそもこのペケロッパ者は、厳密には誰にも何にも未だ危害を加えいてないのである。そして、実際にことをしでかした時にはもう手遅れだ。
そうこうするうちに昼食時となった。ヒロコは持参していたベントーをコトブキとシェアした。ベントーの中に、ノリとゴマでモチヤッコの顔をデザインしたオニギリがあるのを見つけ、コトブキは感激した様子で「カワイイ」を連発した。そして、携帯IRC端末を取り出してオニギリがフレームに入るように調整して自撮りし(コトブキから一緒に写るよう求められ、ヒロコは応じた)、画像データをSNSにアップした。ヒロコ自身の端末といえば、面倒事を覚悟していたので、先の跳躍後から電源を切りっぱなしにしている。
ベントーだけでは足りないので、コトブキはストリートに面した軽食堂からチャとともにギョーザやクレープを買ってきた。コトブキはペケロッパ者にもギョーザを食べさせ、ストローでチャを飲ませた。「アーンしてください」と言われて口を開けるたびに口にギョーザを入れられ咀嚼するペケロッパ者は満更でもない様子だった。そのことが妙にヒロコを苛立たせた。それから、本来マシンであるはずのコトブキがクレープを食べる様を違和感なく受け入れている自分に気づいて自分に呆れた。
そこで、何とはなしにコトブキの素性を聞こうと話を振ったのが大失敗だった。コトブキがかつて、何故か旧世紀映画のライブラリに監禁されていたという話は、まあいい(あれほど映画にこだわる理由がこれで分かった)。そこから先は、監禁ルームを脱出するきっかけとなったニンジャとニンジャの死闘! 恐るべきソウカイヤ(ネオサイタマで最も強大なヤクザクランのひとつであることはヒロコのような一般市民でも知っている周知の事実だ)が放ったニンジャエージェントからの逃走劇!
自由となったコトブキは世界を股にかけて悪を成敗する! 彼女を助け傍らで共闘するのは、凶暴なるジゴクの猟犬のごとき赤黒のニンジャ、ニンジャスレイヤー!(なぜニンジャがわざわざコトブキを助けるのかは、コトブキの話を聞いても今一つ理解できない。設定が甘いのだろう。彼女のニンジャに関する執拗なこだわりも謎だ)
コトブキと仲間たちの活躍に刮目せよ! 闇のヨグヤカルタ(そんな名前の街が本当に世界のどこかにあるのだろうか?)を舞台としたニンジャとニンジャの死闘! なぜか場末のピザ屋に現れた恐るべきニンジャとニンジャの死闘! コトブキを襲う最大のピンチ! そして、こともあろうに世界遺産のプラハのお城を舞台としたニンジャとニンジャの死闘! 異次元から謎のニンジャ空中戦艦が侵攻! それに加え、邪悪なニンジャに監禁されたヒロインと、愛ゆえに危険を冒して救出を試みる魔術師にして詩人のニンジャとのロマンス! コトブキ自身もまた、愛ゆえに戦うニンジャのために立ち上がる! 漆黒のドレスに身を包んだコトブキがガトリングガンを構え巨大ゴーレムの肩に仁王立ち! 邪悪なニンジャの大軍勢めがけぶっ放す!
……ヒロコはコトブキの想像力の豊かさに感心しつつも、完全に呆れ果てた。ウキヨの電子のニューロンというものは、こういった妄想をするのが人間よりも得意なのだろうか……実際には、コトブキの語る身の上話(?)にいつしか完全に引き込まれていたのだが、そのことに気づいて、最低限の自分のプライドを守るために、呆れ果てることにした。だが同時に、コトブキのトモダチになりたいと思った。
気が付くと、とうに時刻は午後3時を過ぎていた……何も起こらない。やはりこのペケロッパ者が鍵なのは間違いない。だが、どうするのか。解決策が見つかるまでどこかに監禁でもするか? そんな場所はどこにも心当たりがない。まさか自宅に連れ帰るわけにはいかない……悩むヒロコを見かねたコトブキの提案が「頼りになるひと」がいるという場所に行くことだった。
挙句、地下鉄を乗り継いでたどり着いたのがこの薄汚い外観のピザ屋だった。先ほどのコトブキの「身の上話」に出てきた店のことを思い出して、ヒロコは微かに不安をおぼえた。
# 2
ヒロコはコトブキと同じテーブルについて、店内を見渡した。外観から予想したよりも店内は清潔、というより最近になってあちこち補修したようだ。補修は雑で、壁や床のあちこちがまだら模様になっている。
客らしき者はいない……と思ったら、隅のテーブルに異様な男が一人。ゲームやアニメでよくあるファンタジー世界の旅人のような服装の、マントのようなコートをまとった黒ずくめの男だ。長靴をはいた猫みたいな帽子をかぶったまま、紙片になにごとか書きつけている。ヒロコは、現実に羽ペンを使っている人間を生まれて初めて見た。さっきのコトブキの「身の上話」に登場した魔術師だかなんだかを思い出す……まさか。ヒロコは深く考えないことに決めた。
それから、ヒロコは、コトブキがつい先ほど「タキ」と呼んだ、カウンターの中からヒロコを胡散臭げな目で見るガイジン−−名前や、言葉にガイジン訛りがないところからするとハーフガイジンか?−−を見つめ返した。こいつが「頼りになるひと」なわけがないのは外見から明らかだ。人を外見で判断してはいけないという大人の説教は実際大嘘だとヒロコは信じている。よほどの事情がない限り、人は大抵の場合、外見通りの人間だ。
ヒロコは「タキ」を観察する。だらしなく伸ばして真ん中分けにした脂じみた金髪。胡散臭さをなみなみとたたえた青い目に無精髭。一言で言って薄汚い。目鼻立ち自体からすればなんとかすればどうにかなりそうなのに、肝心の本人がどうにもこうにも自力でするつもりがないのが外見から明白だ。要するに、何でもかんでも他人のせいにして自分ではロクに何もしないタイプ。判定: 論外。
その「タキ」は、ひととおりジロジロとヒロコたちを睨め付けてから、コトブキに訊いた。「……で、こいつらのどっちがタイムリープ者だって?」ちゃっかりコトブキの隣の椅子に座っていたペケロッパ者が憤懣の声を上げた。「ペケロッパ!」その意味を完全に取り違えて、タキは真顔でコトブキを見た。「お前、こいつと喋れるのか?」
コトブキはタキに対する軽蔑を隠そうともせずに答えた。「何言ってるんですか? 貴方の自我が心配です。こちらのヒロコ=サンがタイムリープ者です。見てわからないんですか?」タキはほとんど憐れむような目でヒロコを見た。「嬢ちゃんな、こいつは、この通りのあほなんだ。何のアニメに毒されてんのかは知らねえけどよ、あんまりこいつに妙なこと吹き込むのはやめてくれねえか?」何を言い返してもこいつに馬鹿にされるだけだと分かって、ヒロコは押し黙った。その時。
「なんと、この目でタイムリープ者を目にする日が来るとはな」いつのまにか、ヒロコたちのテーブルの傍らに、あの黒ずくめの男が立っていた。タキは苛立ちを露わにした。「おいオッサン、頼むからヤメロ。アンタまで絡むとますますワケがわからねえ」
だが男はタキを完全に無視して、帽子を胸に当ててヒロコにアイサツした。「ドーモ。コルヴェットです」コトブキが付け加えた。「愛ゆえに戦う詩人です」コルヴェットは苦笑した。「そのことはそろそろ忘れてくれんかね?」ヒロコは深く考えないようにしながら言葉を返した。「ど、どうも」
タキが全員を睨んだ。「オレには分かってんぞ。お前ら揃いも揃って本気でタイムリープがどうとか世界の危機だとか相談するつもりだろ。マジでお願いだから、アタマおかしくなりそうな話はどっか余所でやってくれ」
コルヴェットはさも意外そうに眼を丸くして見せた。「何の不思議がある? オヒガンの彼方にアクセスし時空を遡行するジツであれば、珍しいものではあってもだ、決して魔術的には不可能ではないぞ?」……ジツ? 魔術? ヒロコは深く考えないようにした。タキは声を荒げた。「そういうことじゃねえよ! オレが言いてえのはだな、ここはオレの店だッてことだ!」
「さすがです。コルヴェット=サンは話が分かる大人です」コトブキは笑みとともにタキを半目開きで見た。「貴方も見習ってください」ヒロコの内にタキへの同情の念が湧いてきた。普通に考えれば、ヒロコの話を鵜呑みにする人のほうがよほどおかしいのだ。だが、タキがヒロコに向ける非難の目を見て、ヒロコはタキに同情するのをやめた。
コルヴェットは再び苦笑した。「あまり俺を持ち上げんでくれ。実際、どうしてそんなことが可能なのか俺にも分からんのだ」それはそうだ。ヒロコ自身にも母親にも、仕組みは全く分からない。「だが世界には、時間どころか次元を超えて現れるニンジャすら存在する。数少ないものの、大異変前の、確実な出現の記録が残されている」なぜかコトブキがピクリと反応した。
「俺が言ったのも、そのニンジャに比べれば、タイムリープのジツのほうがよほど現実的だというだけの話よ」ニンジャという言葉も現実的とはなにかということも深く考えないようにしながら、ヒロコはコトブキを見た。ヒロコの視線に気づき、コトブキはあわてて言った。「なんでもありません」そして、急に何かを思い出した様子で続けた。「それよりも」
「それよりも?」ヒロコがおうむ返しで訊いた。コトブキは深刻な表情を浮かべた。「ヒロコ=サンから話を聞く前だったのに、わたしにもなんとなく分かったんです。デジャヴ……っていうのとは似てるけど全く逆で、同じことが起こるというよりも、なぜか違うことが起こってるっていう感じがしたんです」
「ふむ……そうであるなら、何かしら説明がつけられるかもしれん」コルヴェットは心底面白がる顔になった。コルヴェットは空いている椅子に座って内ポケットから手帳を取り出し、真新しいページを開きヒロコたちに示して、そこにペンで一本の線を引いた。
「つまりこうだ……お嬢さんのジツは時空を丸ごとやり直すような大掛かりなものでははく、あくまで記憶や体験といった情報だけを過去に送るものだとする」直線上の右の一点から左の一点に向かう、弧を描く矢印を書く。「そして、過去のお嬢さんが異なった行動をとることにより、世界線が分岐する」左の点から右下に向かって、最初の直線から枝分かれした斜めの直線を引く。
「そして、コトブキ=サンは、何らかの形で、間接的にしろ、枝分かれした世界線の両方を認識する」最初の横線と斜め下への直線の両方にまたがる楕円を書く。「でも、どうやって?」コトブキが首を傾げる。
「一部の魔術師による研究途上の話ではあるんだがな、オイランドロイドは、オヒガンの彼方にある集合意識にアクセスすることで自我を得る……つまりウキヨとなるという」コトブキは目を寄り目気味にして視線を上方に漂わせた。「そんなことが……あったような気もします」
コルヴェットは足を組んで背もたれにもたれかかった。「何しろ自我に目覚めた瞬間を自覚するウキヨなぞおらんから、ウキヨから話を聞いたところで、研究はなかなか進まんみたいだな。ただ、大異変の直前、初めてウキヨらしき存在が記録されたころには、どうやらその集合意識を通じて、『感情のアップデート』が行われていたそうだ」
コルヴェットはニヤリと笑った。「実は俺も記録映像を見せてもらったことがあるんだがな、大異変の直前、人気オイランドロイドアイドルが、いきなりステージ上で観客とライブ中継カメラに向けて両手の中指を突き付けたのよ」コトブキは口を覆った。「まあ!」
「あれは確かに見ものよな。そのころを境に、無数のオイランドロイドが暴走する事件が起こった。そのうちの多くの暴走オイランドロイドが、当時ネオサイタマで発生した同時多発的暴動市民に同調する動きを見せた。暴走したオイランドロイドのいくつかは自我があるかのような振る舞いをしたと記録されている」ヒロコは置いてけぼりの感覚を味わう。魔術とは性的ドロイド研究のことをいうのか?
「それがどうして、わたしが世界線? の違いが分かることになるんですか?」コトブキの質問を受けて、コルヴェットは椅子に座りなおして身を乗り出した。「そこよ。そこがまさに幾人かの魔術師がウキヨに強い関心を寄せる理由につながる。命なき被造物に自我を宿す秘術。だが、感情とはなんだ? 感情それ自体を情報として伝えられるものか?」さっきから、なぜ「感情」の話をしているのか。ヒロコの困惑をよそにコルヴェットは続ける。
「感情とは、そもそもが状況に対する心的反応だ。ゆえに、他者に感情というものを伝える際は、必ず『体験』がセットになる。『悲しい』という感情がどういうものなのかを説明する言葉を尽したところで『悲しい』という感情を真に理解することはできぬさ。いや、理解ではないな。獲得だ。そのために必要なのは、ある自我に『悲しい』という反応をとらせた体験の共有だ」
コトブキの期待の眼差しを楽しむかのように一呼吸おいた後、コルヴェットは続けた。「つまり、俺の仮説は、こうだ。オイランドロイドの、あるいはウキヨの集合意識というものは、オイランドロイドやウキヨから体験のフィードバックを受け蓄積する存在だ。これを通じて集合意識は何らかの成長あるいは進化を行い、また、その成果を分身ともいうべきウキヨたちに注ぐ。そしてその集合意識はオヒガンの彼方、つまり時間軸が、というより時間が流れる方向、時間の在り方それ自体が現世と異なる時空にあり、したがって、現世の世界線をまたいでアクセスしうる存在ということになる。要するに」
コルヴェットはコトブキを見据えた。「お前さんの感じた感覚の正体は、オヒガンの彼方にある集合意識を通じた、異なる世界線をまたいだ異なるお前さんの体験の共有だ」
「わかります」コトブキもまた真剣な面持ちでコルヴェットを見た。「つまり、わたしは異なる世界でもヒロコ=サンと出会う運命なのですね?」そういうことなのか?「いや、お前さんには悪いが、お嬢さんと出会ったり出会わなかったりするということだな」
「それは違うと思います」コトブキは即座に断言した。「ヒロコ=サンに出会うかどうかは、わたしが決めるからです。わたしには自我があります」そしてヒロコに向き直り微笑んだ。「だからわたしは、ヒロコ=サンのトモダチです」なぜかヒロコは涙が出そうになった。タキが悪態をついた。「フ****(4文字抹消)トモダチ同士でそろそろどっか遊びにでも行けよ」コトブキが表情を一変させタキを睨んだ、その時。
チリン。入口ドアの風鈴が鳴り、長身の青年が入店した。手には齧りかけのヤキイモ。「タキ=サン、調べ物だ。今す……」入り口近くのテーブルに陣取るコトブキたちの中に胡乱な組み合わせの新顔がいるのを見て立ち止まり、青年の言葉が途切れた。コトブキが青年に説明した。「タイムリープ者を見つけたんです」
青年はヒロコとペケロッパ者を見比べた。ペケロッパ者が憤懣の声を上げた。「ペケロッパ!」その意味を完全に取り違えて、青年は真顔でコトブキに訊いた。「こいつと喋れるのか?」「そんなわけありません! どうしたんですか? 今日は何だか変ですよ?」コトブキはフライトアテンダントめいて手のひらでヒロコを示した。「ヒロコ=サンです」ヒロコは無言。
青年は訝しむ表情をタキに向けた。タキは喚いた。「お前何だその目はよ! 何でオレのせいだって決めつけんだ!? だいたいそこの、オイランドロイドのくせに前後の一つもやらせてくれねえイカレポンコツだって、元はといえばお前が……」
コトブキが立ち上がり、決断的にタキを指さした。「タキ=サン! 貴方さっきから何ですかその言葉遣いは! 女の子の前ですよ? だから貴方はいつも、いつまでもダメ野郎なんです」タキが喚き返す。青年は罵声の応酬を無視して、ヒロコたちのテーブルから離れたカウンターの端の席に腰掛ける。そして、その光景を見るヒロコの耳には、タキとコトブキの声は全く届いていなかった。
読者に説明せねばなるまい。若年の日本人女性の大半は、日頃から日本の伝統的価値観に基づく厳格な貞操観念に縛られているが、心惹かれる異性との出会いによりしばしば心理的抑圧のタガが外れ、その反動で極度の興奮に襲われニューロンが異常高速回転する極限状態となる。
そしてヒロコは、先ほど入店してきた青年を見たまさにその瞬間、この極限状態に陥っていたのである!
# 3
ヒロコは、青年が入店したとたんにその佇まいに気付き、固まった。年恰好からすると歳はヒロコとは大きく違わないはずだ。大学生くらいか。実年齢よりも若く見えるだけかもしれないが。何の飾り気もない黒い短髪。ヤキイモを持つ指は長い。身を包むシンプルなパーカーと細身のカーゴパンツは一種のファッションという言い訳が通用しないほど綻んでいる。そんないでたちなのに、凛としたアトモスフィアを放っている。
そして、青年のまなざし。まだあどけなさがわずかに残るといってもいいほどの顔立ちなのに、そのまなざしには、繊細さと、ある種の凄みといったものが同居しているのだ。やがて、ヒロコを見つめる青年と目が合い、ヒロコの観察眼は青年の睫毛の意外な長さを捕捉する……!
……ヒロコの意識から強制的に接続を切られた、ヒロコの理性をつかさどるニューロンの領域では、この時、カートゥーン描写されたヒロコが両腕をブンブン振って、視界モニタいっぱいに表示された「大好物」の三文字をかき消そうとしていた。視界モニタの横に設置されているのは、頂点にハートマークを備えた何らかの縦棒グラフ型インジケータ。その数値は早くも50ポイントに達している……そして…… 今まさに、超自然の煌きが満ちるヒロコの視界の中、青年がスローモーションでヒロコに向かって振り向く……!
……現実レイヤーにあるその青年は、カウンターに腰かけ再びヤキイモを齧ろうとしたところで、異様な視線を感じて振り返った。そして、口を半開きにしたままあたかも大好物を見るかのような視線を彼に向けて放っている新顔の少女に一瞬たじろいだ。青年は素早く状況判断を行い、自らの手の中にあるヤキイモを見た。何らか得心した表情を見せた青年はヤキイモを半分に折り、口をつけていない下半分を包装紙ごと少女に放った。
ヒロコは、無意識のうちに両手でヤキイモを受け止めたところで我に返った。そして、直ちにニューロンの理性の領域に意識を向けて、カートゥーンヒロコとニューロン内協議を行った。このヤキイモはどういうことだ? なぜあの視線の意味をここまで誤解できる? あの人は相当なあほだ……その事実が逆にインジケータの数値を75ポイントにまで押し上げたため、カートゥーンヒロコはすぐさま警報を発令した。あの人のようなあほにヒロコが陥落してしまったら、めんどくさいことになる。カートゥーンヒロコは、低頭身の小カートゥーンヒロコの軍勢を招集し、城壁の防備を固め始めた。
その時、コトブキがヒロコに声をかけた。「ヒロコ=サン、それ大好物なんです」ヒロコはその声にぎくりとしてコトブキを見た。コトブキが続けた。「半分もらえますか?」焦った。ヤキイモのことか。「も、もちろん。どうぞ」ヤキイモを更に半分に折り、コトブキに渡した。コトブキはヤキイモを頬張って目を細め、幸福そのものの笑みを浮かべた。「オイシイです」
ヒロコも、自分で勝手に感じた気まずさを紛らわそうとヤキイモを齧った。ヤキイモを咀嚼するコトブキを見るうちに、急に場違いな疑問が浮かんだ。そんなことを訊くのは明らかにシツレイだと分かっていたはずなのに、つい小声で訊いてしまった。
「コトブキ=サン?」
「なんですか?」
「……コトブキ=サンって、その……食べたあと……するの?」
にわかにコトブキの表情が掻き曇った。ヒロコは失敗を覚った。すぐさま謝ろうとしたヒロコにコトブキが先んじて、悲しみの表情とともに答えた。
「わたしには、ヤキイモを食べたあとおならをする機能はないです」
ヒロコは口を開きかけたまま目をパチクリさせた。理解に数瞬を要した。そして、理解した瞬間「ぷっ!」爆笑した。「プッハハハハ! アハハハハハ!」コトブキは頬を膨らませた。「どうして笑うんですか!?」
「ゴメン、コトブキ=サン、あたしがきいたのは、そういうことじゃなくって」言いながら、体を折り曲げ笑い続ける。コトブキはヒロコを非難した。「ヤキイモを食べたあと、おならをしてみんなで笑うのはタノシイです。憧れます!」それを聞いて、いよいよヒロコは呼吸に困難を生じ始めた。「コトブキ=サン、おねがい! もうヤメテ!」
ヒロコは涙まで流して笑い続けた。不満顔のコトブキも、際限なく爆笑を続けるヒロコを見るうちになぜか笑いがこみ上げ、結局、ヒロコの爆笑に加わった。やがてコトブキは身体バランスを崩し、ヒロコの右肩に両手でもたれかかった。それが更なる爆笑をヒロコにもたらし、またコトブキが笑うという爆笑の循環をもたらした。
カウンターの青年は、彼女たちの爆笑を見て自分の手の中にあるヤキイモをしばし眺めた後、カウンター内のシンクにあるディスポーザー(訳註: 生ごみ処理機)にそれを放り込んだ。ペケロッパ者は心底うんざりした様子で吐き捨てた。「ペケロッパ」タキは自棄気味にペケロッパ者に声をかけた。「たまにはいいこと言うじゃねえか!」コルヴェットは目元に薄い笑いをうかべて肩をすくめ、懐からスキットルを取り出し、一口呷った。そしてタキが、この日最低の暴言をヒロコに向かって浴びせた。
「おい、レズマイコショーをおっぱじめんなら、テメエん家でやれや。そこのポンコツ連れてってな。豊満でもねえくせに、客からカネもらえると思うなよ」
ヒロコは人生最悪の侮辱を受け、とたんに怒りに青ざめた。カウンターの青年がわずかに目を細めた。コルヴェットの厳しい声。「おい、タキ=サン! そいつはいくらお前さんでも……」コトブキが片手でコルヴェットを制しながら、ゆらりと立ち上がった。そして宣告した。
「タキ=サン、貴方は度し難いフ***(3文字抹消)野郎です。貴方の底知れぬダメさを甘く見ていました。ダメ野郎カルマポイントの累積により、今日という今日こそ、物理的な教育の必要性を認めます」コトブキは、スツールに座るタキを冷酷な目で見下ろしながら、カウンター端の、キッチンとホールを仕切るスイングドアに向かった。
タキの顔が恐怖に凍り付いた。「いやお前、本気じゃないよな!? なんかこう、あるだろ! ロボット三原則とか!」コトブキはアオザイの袖をまくった。「貴方の自我に対する医療行為として解釈可能です。問題ありません」だが、コトブキがカウンター端の青年の脇を通りすぎようとしたとき、青年がコトブキの肩を掴んだ。「コトブキ」
コトブキは青年を見た。青年が続けた。「タキ=サンの肩を持つ気はさらさらないが、いい加減、用事があるならさっさと済ませてくれ」「そうでした!」コトブキはシリアスな面持ちで青年の両肩を掴み返した。「世界の……危機です!」そしてその表情のままヒロコに向かって頷いて見せた。タキは緩み切った安堵の表情を浮かべた。
ヒロコは自らのおかれた状況をあらためて認識し、愕然とした。あの人の前で自分から話さないといけないのか? 口を半開きにしてコトブキを見つめ返した。それでコトブキにある程度伝わったようだ。コトブキは再びヒロコに軽く頷いた。「ヒロコ=サンは世界を救う使命の重さに苦しんでいます。わたしがかわって説明します」
コトブキの説明は要領も良く、大方正確だった……ヒロコのキャラクターが、ネオサイタマに正義をもたらす義と勇の心を兼ね備えたヒロインなるものに改変されていることを除けば。ヒロコは青年のほうをちらりと見た。まるで関心を払っていない様子で、カウンターの天板に目を落としている。なぜか、ほっとした……
……ヒロコがペケロッパ者を救う……何の因果か、アルケミーという不気味な男を首謀者とした大規模UNIXハッキングテロ発生……話が、ヒロコがペケロッパ者を「保護」しようとした場面に差し掛かったところで、タキが口をはさんだ。「なんでそんなめんどくせえことするんだよ。そいつはほっときゃトラックに撥ねられて死ぬんだろ? それで解決じゃねえか」
コトブキは目を伏せてゆっくりと首を振った。「貴方にヒロコ=サンの高潔な心を理解してもらうことは最初からあきらめています。黙っていてください」タキは鼻をならした。「何だよ偉そうに。お前らだってまともに解決方法も考えてねえだろうが。文句あるならそこの野郎の名前くらい答えてみろ」「話を聞いていないんですか? この人とは会話が通じないんです」「そいつの持ち物くらい調べてから言ってんだろうな?」
コトブキとヒロコは顔を見合わせた。コトブキは「ゴメンネ」とペケロッパ者に声をかけて、その尻ポケットからウォレットを抜き出した。中には乏しい通貨素子、ヘンタイ・セルガがあしらわれた旧世紀テレカ(原註: 公衆電話用ストアドヴァリューカード)やトレカ(原註: トレーディングカード)、UNIXコードらしき文字列を書きなぐった何枚もの紙切れ、そして不穏な紋章が入った何らかの会員証。
会員証には、サイバーサングラスをかけたその男の顔写真とともにカタカナの「ポコタン・ソネ」の表記。この男の名前か。会員証のその他の記載は01二進数表記やバーコードになっており、ヒロコたちには解読不能。「ソネ=サンです」コトブキが遅ればせながら答えた。タキは勝ち誇った。「……で? 他には?」
コトブキは無言で俯いた。タキは立ち上がり、ニヤニヤ笑いを浮かべてコトブキを見下ろしながらカウンター内キッチンから出てきた。手にはノート型UNIX端末。「……そこで、テンサイ級ハッカーの登場だ。お前ら感謝しろ」そしてソネが左下腕に装着しているハンドヘルドUNIXを指さす。「コトブキ、そいつちょっと押さえてろ」
ソネはサイバーサングラス越しにタキを睨んだ。半分諦めたか、特に抵抗しない。「ペケ、ロッパ」サイバーサングラスには「お前にはピーキーすぎる」の表示。タキは構わず手にしたノート型UNIX端末からLANケーブルをソネのハンドヘルドUNIXに接続し、自分の端末のキーボードをタイピングし始めた。
とたんにソネのハンドヘルドUNIXが不具合を起こし、バチバチと火花を散らしたと思いきや、パンと音を立てて小爆発し、細く煙を上げ動作を停止した。カウンターの青年を除いた全員がタキを見た。ソネは憮然として吐き捨てた。「ペケロッッッパ」サイバーサングラスには「言っただろ」、続けて「弁償しろ」の表示。ヒロコは先ほどより長く青年を見る……瞬きひとつせずカウンター上の一点を見つめている。
タキは一同を見渡し、重々しく告げた。「最後の手段だ」そしてコトブキに向かって言った。「お前、こいつとLAN直結しろ」その言葉を聞いたソネは、突然降ってわいたLAN直結のチャンスにたちまち激しい興奮状態に陥り、ぼさぼさの髪の襟足を掻き上げて首筋の生体LAN端子を示しつつ、唾を飛ばしながらまくし立てた。「ペケ! ペケ! ペケロッパロッパ!」サイバーサングラスには「LAN直結したい」の表示。
ヒロコは本気で腹を立てた。今度は頭に血が上る。このタキとかいうゲスは、衆人環視の中でコトブキにソネのニューロンを直接前後しろと命じているに等しい。ヒロコは怒りと羞恥心で顔を赤らめつつコトブキを見た。コトブキは無言でタキをひと睨みし、次いで心底申し訳なさそうにソネの手を取った。「わたしには自我があるので、駄目です」その時。
「ニンジャスレイヤー=サン!」コルヴェットの鋭い声が飛んだ。誰のことだ? コルヴェットの視線をたどる。その先にいるのは……あの青年。コルヴェットの声を受けて、青年はビクリと体を震わせ、顔を上げた。コルヴェットは更に声をかけた。「大丈夫か? 何かに呑まれておるようだったぞ?」
「……平気だ。何でもない」青年は振り返って答えた。だが今思うと、確かにあの人の様子はおかしかった。ヒロコの力について何か思うことがあったのだろうか。過去について……再び青年を見る。青年と目が合う。ヒロコは直感した。あの人の過去について詮索してはいけない……それよりも、ニンジャ、すれいやー? それが名前なのか?
再び青年はヒロコたちのテーブルから目をそらし、こちらに背を向けた。ヒロコはその背中をまじまじと見た。コトブキがヒロコに言った。「さっきお話したニンジャスレイヤー=サンですよ?」ヒロコはまたもや戸惑った。そんな話をいつ……まさか、あの「身の上話」に出てきたコトブキのサイドキック(訳註:バットマンにおけるロビンといった、ヒーローの相棒)?
ようやくヒロコは理解した。あの人が、ニンジャ……だが次の瞬間、日本人のDNAに刻まれたニンジャに対する畏怖の感情があらぬ方向に刺激され、ヒロコの理性と意識との接続が切断! 危険なニンジャ妄想がヒロコの意識を飲み込んだ!
……草木も眠るウシミツ・アワー。恐るべきニンジャ装束に身を包んだあの人が、高層ビル群を屋上から屋上へと跳び渡る。その腕の中には、プリンセスめいて抱きかかえられるヒロコ。ヒロコはあの人の首に両腕を回してしがみつき、瞳を閉じて夜の大気が頬を撫でるのを感じる。そして、ただひたすらに、あの人の力強い心臓の鼓動に身を委ねるのだ……
……そして……ヒロコのニューロンは異常高速回転、詳細な描写はあえて省くが、ニンジャに変身し愛するヒロコを守るあの青年とヒロコ自身が節操なく登場するニンジャ妄想を、コラージュめいて際限なく垂れ流した……テロリスト学校占拠シークエンス、スシ料理対決シークエンス、三角関係シークエンス、三角四角間関係シフト複雑化シークエンス、遊園地ダブルデート観覧車シークエンス。
自動車接触事故児童救助記憶喪失シークエンス、野球大会決勝9回裏シークエンス、フンドシ重点海水浴シークエンス、違法公道レース対決シークエンス、ハナビ大会シークエンス、肝試しシークエンス、ライブハウス対バンシークエンス、オンセンシークエンス。
発熱看病フートン(訳註: 布団か?)シークエンス、マツタケ狩りグリズリー遭遇シークエンス、階段転落自我入れ替わりシークエンス、巨大ロボット共同操縦シークエンス、冬山遭難孤立山小屋シークエンス……貞操観念に由来する心理的抑圧のタガをニンジャとの遭遇が弾き飛ばしたことにより陥った、重篤な変異型急性NRS(ニンジャ・リアリティ・ショック)症状だ! ナムアミダブツ!
その時既に、ヒロコの理性をつかさどるニューロンの領域では、縦棒グラフ型インジケータの数値が128ポイントに達し計算負荷限界を突破して爆発四散、小カートゥーンヒロコの軍勢が守備する城壁を連鎖倒壊させていた。目をクロス字にし、あるいはナルト形状にした無数の小カートゥーンヒロコが、煙を上げる超自然の焦げ目や大型絆創膏をまとって倒れ伏す中、敗軍の将であるカートゥーンヒロコは城壁の残骸の上に白旗を掲げる……
……現実のレイヤーでは、コトブキがヒロコの両肩を掴み、必死で揺さぶっていた。「ヒロコ=サン! ヒロコ=サン! 戻ってきてください!」ヒロコの頸椎がガクガクと過激なカイロプラクティックを強いられる。やがて、満身創痍のカートゥーンヒロコが現実レイヤーの不可視領域に12分の1スケールでエントリーを果たし、ヒロコの口からさまよい出た、長い尾を引きヒロコの頭上を漂うエクトプラズム体をキャッチしてヒロコの口に押し込んだところで、ようやくヒロコの目が焦点を取り戻し、泣き顔のコトブキに気づいた。「……あたし……」
コトブキはヒロコを抱きしめた。「良かった!……無事で!…… 怖がらせてしまってゴメンナサイ……」何のことやら再び理解できない。呆然とするヒロコの表情を完全に誤解したコトブキが続けた。「わたしのせいでニンジャスレイヤー=サンのことを誤解させてしまいました。大丈夫です。ニンジャスレイヤー=サンは悪いニンジャではありませんよ。悪には容赦しませんが、義心を持った、頼りになるひとです」
まだ少しぼうっとしたまま、ヒロコは「ニンジャスレイヤー」の背を見た。横からコルヴェットが声をかけた。「お嬢さん、早死にしたくないんなら、この男についてはだな、十分以上に恐れたほうがよいぞ」
そして、青年が……「ニンジャスレイヤー」がわずかに頭を振ったのち、振り返り、一同を無言で見、軽く天を仰いでから、口を開いた。「おれはあんた達の話にかかわるつもりはない。が、あんた達の話によると、そこの……」青年が言葉に詰まる。コトブキが助け舟を出した。「ソネ=サンです」青年が続けた。「……そう、そのソネ=サンは重要人物らしい」
「それが何か?」コトブキが訊ねた。青年は、ややうんざりした様子で再び一同を見渡した。「……向こうのほうからソネ=サンを探しに来るとは思わなかったのか?」コトブキは再び口を両手で覆った。コルヴェットはつぶやいた。「これはしたり」タキは狼狽しつつも抗議した。「そういう冗談はやめろよな? な? こないだ店を修理したばっか……」その時。
タキの言葉を遮って、入り口ドアが店内の床にバタリと音を立てて倒れた。続けて、異様な風体の巨躯の男が、頭部をドア枠につっかえながら、ロボットダンスじみた動きでぎくしゃくとエントリーした。しかも二人。タキは呻いた。「マジか」コトブキが答えた。「マジですね」
青年は無言でカウンター席から床に降りた。ヒロコが見つめる前で、青年の足元から赤黒い炎が立ちのぼり、その全身を包み込んだ。炎は数瞬で掻き消えた。そこには、赤黒のニンジャ装束に身を包んだニンジャが立っていた。鼻から下を覆う鋼鉄のメンポ(訳註:面頬。参考リンク)には、恐怖を煽る書体で「忍」「殺」のカンジが刻まれている。
赤黒のニンジャのボロ布めいたマフラーが超自然の風にたなびいた。ニンジャは二名の闖入者に向かって先手を打ってオジギし、決断的にアイサツした。
「ドーモ。ニンジャスレイヤーです」