思いつく限り全方位に「ニンジャスレイヤー」をお薦めしてみる
0 はじめに
こんな記事をごらんのあなたは、多少なりとも「ニンジャスレイヤー」というタイトルの、サイバーパンクニンジャアクション小説、あるいは、そこから派生したマンガやアニメに関心を持っていただいていると思います。しかし、あなたがインターネット等で偶々目撃した「ニンジャスレイヤー」の断片的内容は、おそらく、凡そあなたの理解を超えた意味不明に近い文章であり、あなたが「ニンジャスレイヤー」に対して抱いている印象は「ネット上の狭いクラスタの中だけでしか通用しないヘンテコなネットスラングを使ってクラスタ構成員がふざけあっているような代物」ではないでしょうか。
実際、わたしが初めて「ニンジャスレイヤー」の存在を知った時がそうでした。当時、出版されたばかりだった「ニンジャスレイヤー」の書籍第一巻が平積みされ、「ツイッター上でのリアルタイム翻訳が大人気」などの理解の埒外としか言いようがない宣伝文句によるポップで飾られているさまを書店で目撃したわたしの感想は「また下らないネットミームで書店を汚染するコンテンツが増えたか」というもので、「どうせ勘違いニッポンをネタにした大喜利みたいなものの寄せ集めで書籍を一冊でっち上げたものだろう」と完全にみくびっていました。そして、そのまま数か月が経過しました。
数か月後、わたしが書店で目撃した光景は、その「ニンジャスレイヤー」があろうことか(わずかな期間の内に!)5巻まで増殖し、「第二部開始!」などといったポップで飾られているというものでした。ネットでのおふざけをまとめただけの代物にすぎないはずなのに、何故、短期間のうちにここまでの物量のテキストを生み出し、かつ、商業出版させることができるのか?!軽く衝撃を受けたわたしは、読みもせずに見くびっていた態度をあらため、「ニンジャスレイヤー」の評価を保留することとし、とりあえず、第一巻を購入して家路につきました。
第一巻を読み終えたわたしは、完全にノックアウトされていました。「アイエエエエの小説」「ネットで大人気」といった「ニンジャスレイヤー」に対する先入観は、実は作者側が積極的に作り上げている側面があり、この作者たちは、先入観を持った読者を相手にその先入観を覆すことを方法論の根本に採用した小説を、しかも膨大・長大な小説を生み出していたのです。作者たちは、作品に対する自信と読者に対する信頼の両方が高度なレベルに達していないと不可能なゴーイングマイウェイ極まる力業を、迷わず、贅沢に繰り出しているのだとわたしには一発で分かり、密かに心の中で両手ガンサインを頭上に突き出し快哉を叫びました。そして、わたしは、すぐさま既刊の続刊すべてをエビテン特装版で注文しました。
こうして、わたしは、ツイッターなぞついぞ使ったことがない人間ながら「ニンジャヘッズ」に変貌させられ、以後、これ見よがしに「ニンジャスレイヤー」Tシャツを着て歩き、そのTシャツの胡乱さを訝しがった知り合いを見つけるや「ニンジャスレイヤー」の魅力を押し付けて回る人間になり果ててしまいました。
「ニンジャスレイヤー」を読まないことによって、あなたがわたしのような人間にならずに済むことは大変幸運なことといえます。しかし、一方で、「ニンジャスレイヤー」の読書体験に触れないというのも、大変にもったいないことです。そこで、今回、わたしの文章力の及ぶ限り、「ニンジャスレイヤー」に先入観を持ったあなたに、最初に読むのに適したお薦めエピソードを、お薦めの理由とともに書いていきたいと思います。
なお、執筆にあたっては、「ニンジャスレイヤー」をみくびっていたころのわたし自身をいくつかに類型化し、なるべくタイプ別に「なんか思ってたのと違うぞ」という先入観を覆される予兆を感じ取っていただけるように、できる限り心がけてみました。
この記事で引用した「ニンジャスレイヤー」本文は、すべて
https://twitter.com/NJSLYR
から引用したものです。
目次
0 はじめに
1 文学好きのあなたへ
2 エンターテイメント大好きなあなたへ
3 キャラクター重視のあなたへ
4 作品に社会性と魂を求めるあなたへ
5 ラノベを愛するあなたへ
6 おわりに
1 文学好きのあなたへ
文学好きのあなたは、文学トークになるやいなや「文学というのは、ほかの媒体のアートフォームと同様に『言葉にしちゃうと伝わらない』ものなんだよ。文章によって『言葉にしちゃうと伝わらない』何かを伝えるからこそ、文学の価値があるんだ。特に現代アメリカ文学、20世紀初頭の商業映画の隆盛から発展し続けている『映像の文法』、それが文学・文体に与えた影響、ヘミングウェイ、フォークナー、ハメット、フィッツジェラルド、ピンチョン、チャンドラー、P・K・ディック、そういったもの……つまりマルチーズ・ファルコンなんだ。それにひきかえラノベなんて、主人公一人称で主人公が思っていることをなんでもかんでも文章で説明し続ける時点でひどいのに、『おれの目の前には絶世の美少女が立っていた』式のひどい文章が蔓延してて読むに堪えないよ。なんだよ『美少女』って。萌えイラストの挿絵が溢れかえらないと読者に伝わらないことが前提じゃないか。ましてやネットの隅の隅だけで盛り上がってる『ニンジャスレイヤー』なんて……」と語ってしまうことでしょう。
ですが、どうか、次に引用する「ニンジャスレイヤー」のごく一部分を読んでみてください。場面は、登場しただけで泣く読者が続出するほどの作中屈指の人気ヒロイン「シキベ・タカコ」が登場する場面です。
本棚の向こうに女の気配がする。オスモウTVの音も。助手のシキベ・タカコがいるのだろう。コーヒーを淹れる音と、アンコトーストを焼く香ばしい臭い。ガンドーはズバリ切れの頭痛と格闘しながらベッドを下り、ワイシャツの一枚に袖を通すと、くたびれた濃紺スラックスをサスペンダーで吊った。
目の前にいるのはシキベ・タカコ。彼女の外見は、キョート的奥ゆかしさも、探偵助手的な美学も備えていない。体のラインが全く見えないボーダーニットに、薄汚いジーンズ、青色のワークブーツ。黒い髪の毛は何の面白みもなく真中で分けられ、下膨れ気味の頬にはそばかす。育ちが悪く歯列も汚い。
ちぐはぐな外見に幾ばくかの知性と秩序をもたらすように、シキベは黒いセルフレームのレトロ調眼鏡を掛けている。少なくとも一般的な美人ではないし、物心ついた頃からカワイイだと言われたこともない。何よりも彼女自身がそれを一番よく知っており、一般的な何かといったものを敵対視していた。
そう、あなたは安心していい。作者たちは、「おれの目の前には絶世の美少女が立っていた」式の記号的文章を悪しきものとして自覚的に拒否している。もちろん、上記のような外見のシキベが都合よく作中で美少女化するなんてこともないので、あなたは益々安心できる。つまり、作者たちは、読者であるあなたを完全に信頼していて、文章で何でもかんでも説明しないと読者に伝わらないのではないかという懸念、すなわち読者をみくびる行為と無縁なのだ(ただし、「ニンジャスレイヤー」全体では、ほとんど悪用に近い記号の乱用を行ったうえで、作中を読み進めるほどに先に付与された記号の意味合いが覆され多層化していくという、記号を逆手にとった手法を使っている。この画期的な手法で「勘違いニッポン」の世界が覆されていくという本作の特徴については、機会があれば別記事で執筆したい)。
このように安心したあなたは、「ニンジャスレイヤー」を読みたいという衝動が生まれ、その初期衝動に突き動かされるがままに「ニンジャスレイヤー」をネットで検索し、「全部ネットで無料で読める」偉大なるまとめWikiにたどり着き、そして、あまりに膨大なエピソード群に圧倒され、どれを読んでいいのか分からないまま、そっとブラウザを閉じてしまう……人類の悲しい運命(さだめ)……
ニンジャスレイヤーWiki http://wikiwiki.jp/njslyr/?FrontPage
そのような悲劇を繰り返さないために、わたしはあなたに最初に読むべきエピソードをお薦めする。それは、上述のシキベ・タカコが初登場し、そのエピソードだけで彼女を至高のヒロインにまで高めた「リブート、レイヴン」だ。
http://wikiwiki.jp/njslyr/?%A1%D6%A5%EA%A5%D6%A1%BC%A5%C8%A1%A2%A5%EC%A5%A4%A5%F4%A5%F3%A1%D7
このページの上部にある「まとめ」の「#1」「#2」を順番に押していけば、このエピソードの各セクションを順番通りに読めるシステムだ。
ちなみに、「ニンジャスレイヤー」は基本各エピソードが独立した短編であり、どれを最初に読んでもあまり支障はない作りになっている上、そもそも、各エピソードごとの時系列がバラバラになっており、作者側も「最初から順番に読む」ということをハナから想定していない(付言すると、あるエピソードから次のエピソードとの間で何の説明もなく時系列が飛ぶこと自体を一種の伏線とクリフハンガー生成に利用している)。だから、読むにあたって特に予備知識は必要ない。何より、このエピソードには主人公ニンジャスレイヤーがほとんど出てこない。それでも、すこしはあったほうが楽しめる予備知識というのもあるので、メインの登場人物二人について簡単に説明しておく。
タカギ・ガンドー 「キョート」に事務所を構えるアメリカンスタイルのタフな私立探偵。加齢による衰えに加え、薬物中毒も深刻化する一方であり、往時の輝きは失われて久しい。「ニンジャスレイヤー」第2部全体を通じて活躍する主人公の相棒ポジションの人物であるが、本エピソードは彼のオリジンエピソードであり、特に他のエピソードを読んでいる必要はない。
シキベ・タカコ ガンドーの助手。上述の通りの見た目。格差社会極まる「キョート」の貧困層に生まれ、そこそこの職にありつけたものの2年で首に。現在は貧乏探偵の助手を務めているが……
あなたにお勧めする「リブート、レイヴン」は、この二人の関係性が軸となっており、安易なラブストーリーなどには当然なっていない。そして、このエピソードを通じて、ガンドーは過去に一つの決着をつけ、更なる戦いに身を投じなければならない運命を受け入れる。
最後に付言すると、ついつい忘れがちなのだが、この作品の作者2名は、USA在住のUSA人だ。どういうことかというと、わたしたち日本人が漱石とか鴎外とかのクラシックに無意識に触れているのと同様に、USAで生まれ育った彼らはヘミングウェイとかフォークナーとかのアメリカ近現代文学が当然のように基礎になっている。なので、このエピソードでは、「REBOOT」を合図に、エピソード内の出来事の時系列がガンガン前後する。「響きと怒り」でやっていたあれだ。一般的な日本人読者が本エピソードをいきなり読むと確実に面食らうし、日本人小説家がこれをやると単なるキワモノ以上の評価を得るのは難しいだろう。しかし、奴らはUSA人なので、平気でやる。あなたは危険な戦いに臨むことになるが、ピンチョンとかを読んだあなたなら、きっと生き残ることができるはずだ。迷わずダイブしろ。
今気づいたので、あなたが指摘するかもしれないことに対して念のために断っておく。わたしは何一つ猥褻な発言はしていない。
*SYSTEM ALERT*
*文体に禁則事項抵触の発生が観測されています。次セクション突入前に執筆エージェントの再調整を行います*
*再調整プロセスにおいて、現在の執筆エージェントに不可逆なmeme汚染が確認されました。現在の執筆エージェントを放棄し、対話エージェントを新たに起動することを提案します*
「まったく、AIにラーニングさせる過程でいっつも仮装自我も文体も汚染されちまう。あんだけ感染力の高いmemeを量産しといて、『今回は文体のフラット性維持を要件とする』なんて要求出してくるとは、DHT社のやつらは、自分たちがやらかしてることに対する責任を少しでも感じているのかね」
「今更文句を言ってもはじまらんだろ。DHTのコンペに参加する以上、DHTの暗黒独裁管理体制への服従は絶対条件だ。お前が文句を垂れてる間にも、既に他社が成果物を公開してるんだ。俺らも工夫で乗り切るしかない」
「……で、その肝心の『工夫』について、そういうお前は何かアイディアでもあるのか?」
「対話エージェントに切り替えるってのは使える手かもしれん。不特定多数に対して一方的に見解を垂れ流す執筆型よりも、対話型のエージェントのほうが、meme汚染の影響を対話の相手に隠したいという羞恥心による抑制が期待できる」
「ヒィヒィ喜びながらmeme汚染を進んで浴びといて、汚染の影響を必死に隠すとは、度し難いマゾヒズムだな」
「AI様の羞恥心に期待する俺らもどっこいどっこいだろ。さあ、設定を開始するぞ」
2 エンターテイメント大好きなあなたへ
……すまない。お見苦しいところを見せてしまった。さて、対話を継続してもよろしいかな?……ありがとう。では再開しよう。まずは、あなたの見解を聞かせてもらおうか。
……いや失敬。別にあなたのことを笑ったのではないよ。そこまで悪し様に言わなくても、と思っただけさ。あなたの言いたいことはわかるが、「エンターテイメントの評価に『背景』や『文脈』なんかをイチイチ持ち出してくるやつは、ピッチフォーク界隈で評論家面してる腰抜けどもだけで沢山」とは、余りにも辛辣すぎないかね?
だが、確かにわたしも、あなたの意見に大いに頷くところがあるのは認めるよ。背景だの文脈だのを使った権威付けで自分の好きな作品を擁護しないといけないって風潮は確かに病的だし、かえって、本当に面白い作品の出現を妨害することは避けられない。
そう、本当に面白いエンターテイメントは、作者が、たとえ表面的にはバカバカしく見えようとも、そんなことで貶されることなんかちっとも恐れずに、面白いと信じるものを妥協なしに繰り出してくるものなんだ。そこには、作者と同じく、世間体なんかちっとも恐れずに純粋に作品を楽しんでくれるだろう受け手へのゆるぎない信頼がある。そうして生み出され、楽しまれる作品は祝福に値すると言ってもいい。
映画だと、そうだな。ちょっと前の作品だが「マッドマックス」は本当に良かった。狂い切ったヴィジュアルに狂い切ったアクションがノンストップで炸裂する映画で、観客もまさにそういったものを期待して観に行ったのに、観客は軒並み、期待以上どころか想像をはるかに超える映画体験でぶん殴られる。あれは痛快だったな。あなたもあの映画が好き?それはよかった。最近だと「ラ・ラ・ランド」は観たかね?「古風な恋愛ミュージカル映画」であることを恐れない、妥協なき作品だよ。
……いやすまない。確かに本題に入るのが遅れてしまったようだ。あなたにお勧めする「ニンジャスレイヤー」最初のエピソードだったね。あなたの好みをわたしなりに考慮して、あなたがきっと気に入るだろうエピソードの冒頭を紹介しよう。
ネオサイタマで緊急事態が発生した。ブッダを逮捕したと主張する男がコケシモールに立てこもり、日本政府に対して3億円の身代金とオキナワ高飛び用のジャンボジェット機を要求したのだ。
……大丈夫かい?呼吸はもう落ち着いたかね。それはよかった。「ニンジャスレイヤー」のひとつ困ったところは、作者たちがどれだけ意識しているのかはわからんが、呼吸に困難が生じるほどの笑いがこれでもかと詰め込まれているところだ。
そうか。続きを読みたいと思ってくれてありがとう。このエピソードは、登場するだけで泣き叫ぶ読者が続出するほどの作中屈指の人気キャラクター「ラッキー・ジェイク」が主役を張る「デッド・バレット・アレステッド・ブッダ」だ。
http://wikiwiki.jp/njslyr/?%A1%D6%A5%C7%A5%C3%A5%C9%A1%A6%A5%D0%A5%EC%A5%C3%A5%C8%A1%A6%A5%A2%A5%EC%A5%B9%A5%C6%A5%C3%A5%C9%A1%A6%A5%D6%A5%C3%A5%C0%A1%D7
ひとつアドバイスをしておくと、「ニンジャスレイヤー」は一話完結型エピソードの集合体なので、一応全体を貫くストーリーラインもあるが、それは気にせず気になったエピソードを予備知識抜きで読んで構わない。何より、このエピソードには、主人公であるニンジャスレイヤーはほとんど登場しない。あなたも、特に予備知識の有無を気にせずに、思う存分読んで、そして笑ってくれるといい。もっとも、大人気キャラクターのプロフィールくらいは知っていても損はないだろう。他の脇役は本エピソードが初登場なので、他の予備知識は全く不要だ。
ラッキー・ジェイク 身体の大部分をサイボーグ化したタフな白人。最先端のサイボーグ技術を求め、「ニンジャスレイヤー」の主な舞台となる近未来都市「ネオサイタマ」にやってきたが、帰国の術を失った。裏路地での汚れ仕事をこなしながら、泥臭くサバイバルしている。
そう、ラッキー・ジェイクは、「サイバーパンク」と聞いて即座に思い浮かぶ、クリシェそのもののようなキャラクターだ。しかし、堂々と「あるあるネタ」を使っているのに、物語はどんどん予想外の方向に転がっていく。これは「ニンジャスレイヤー」の大きな魅力のひとつで、お話の構成要素のほとんどがクリシェ極まりないにもかかわらず、その構成要素の相互の化学反応が全く予想外の効果を生み出すのだ。このあたりの話はまた別の機会にも語ってみたいものだね。
そして、このエピソードを読み終えたあなたは、こんな感想を抱くはずだ。バカみたいなテンションでバカみたいなお話がドライヴしていたはずなのに、ラストで感じるのは、なぜか奇妙な崇高さ……まるで「マッドマックス」を見た時のあの感触、ラストで微笑み一つ浮かべることなく、目と目で語るマックスとフュリオサ、そして、人間の英雄として高みに上るフュリオサと、再び荒野に消えゆくマックス……汚れきった人類が編み出す現代の神話……「ニンジャスレイヤー」にもその感触が……えいがかんで7回リピートしてV8したぼくにはいっぱつでわかったぞ……
*SYSTEM ALERT*
*文体に禁則事項抵触の発生が観測されています。次セクション突入前にエージェントの再調整を行います*
*再調整プロセスにおいて、現在の対話エージェントに不可逆なmeme汚染が確認されました。別形式のエージェント採用を提案します*
「まあ、さっきのよりかはましだったが、最後まで好調とはいかんな」
「何かを人に勧めるっていう目標設定のせいで、どうにも自分語りが肥大化する傾向が出てくる。挙句、最後には熱意が羞恥心の壁を突破して、汚染の影響をさらけ出す、と……問題点をそのあたりに絞れるのなら、とりあえず対話エージェントの調整で何とかできるだろう。どのみち、どの形式のAIだろうと、汚染自体は避けようがない」
「具体的には?」
「対話の相手を若い女性に設定する。対話エージェントの年齢を現ヴァージョンよりさらに10歳上に設定して、聞き役になるシチュエーションが多くなる方向に持っていく」
「それで羞恥心の壁が厚くなるのも情けない話だな」
「設計者であるお前自身の奥ゆかしさの反映とは思わんか?」
「うるせえ」
3 キャラクター重視のあなたへ
さて、次のかたは、と……これは困ったな。この年になってくると、どうにも若い女性の趣味とか好みとかを理解するのが難しくってね。まあ、これは完全にわたしの問題で、わたし自身が頑張るしかないんだが。すまないが、手始めに、あなたが好きな最近のコンテンツを教えてくれないかな?
……トウケンを育てる?トウケンというのは日本刀とかのあれかね?その刀剣を擬人化して……ほう、なるほど。他にもあるかな?
……「文豪」を「擬人化」?いや、そもそも文豪とは最初から人間ではないのかと思うんだが……その刀剣や文豪の擬人化のどういったところが魅力なのかな?
……なるほど。ありがとう。わたしにも大体わかってきたよ。要するに、単に個々のキャラクターに魅力があることが大事なのではなく、キャラクター同士の関係性のためにキャラクターが大事になってくるというわけだね。そのような理解でいいかな?……そして、キャラクター同士の出会いや新たなキャラクターの登場により、関係性は必然的に揺れ動く、そのあやうさや儚さいうことか……
ありがとう。大変勉強になったよ。そういうことであれば、最近のコンテンツの魅力というのも、およそ普遍的なフィクションの魅力と大差ないということだね。すなわち、プロットと区別されるストーリー、劇中の出来事の連なりではなく、出来事によって生じる関係性の変化をストーリーの本質ととらえるなら、極論、文豪の擬人化も、「レインマン」のようなロードムービーも、魅力の根っこは一緒というわけだ。
重ねてあなたにお礼を言いたい。あなたの説明のおかげで、あなたにお勧めすべき最初の「ニンジャスレイヤー」を決めるのは簡単だった。最初にあなたにお勧めすべきは、読者の間で(下品な言い方で恐縮だが)「抱かれたいニンジャNo.1」の異名をとる「カギ・タナカ」と、放浪を運命づけられた少女ニンジャ「ヤモト・コキ」の出会いを描く「スワン・ソング・サング・バイ・ア・フェイデッド・クロウ」を置いてほかにないだろう。
http://wikiwiki.jp/njslyr/?%A1%D6%A5%B9%A5%EF%A5%F3%A1%A6%A5%BD%A5%F3%A5%B0%A1%A6%A5%B5%A5%F3%A5%B0%A1%A6%A5%D0%A5%A4%A1%A6%A5%A2%A1%A6%A5%D5%A5%A7%A5%A4%A5%C7%A5%C3%A5%C9%A1%A6%A5%AF%A5%ED%A5%A6%A1%D7
ひとつアドバイスをしておくと、「ニンジャスレイヤー」は一話完結型エピソードの集合体なので、一応全体を貫くストーリーラインもあるが、気になったキャラクターが登場するエピソードを選んで読むというスタンスで一向に構わない。何より、このエピソードには、物語内のキャラクターと関係性を破壊して回る死神のごとき主人公ニンジャスレイヤーは全く登場しない。あなたも、特に予備知識の有無を気にせずに、主人公たちの出会いと別れを目撃してほしい。もっとも、事前に主人公ふたりのプロフィールを把握しておけば、より容易にストーリーに没入できるだろう。
カギ・タナカ 偽名。その正体は「シルバーカラス」を名乗る熟練のニンジャであり、闇稼業「ツジキリ」を生業としている。しかし、宿痾により、その生の終わりを見据えざるを得ない状況にある。
ヤモト・コキ 平凡な高校生が運命のいたずらによりニンジャとなった。ネオサイタマの闇社会を支配する組織「ソウカイヤ」への服従を拒絶したため、以来、孤独な逃亡と戦いの日々を強いられている。過酷な旅路に疲弊し危機を迎えたとき、カギ・タナカと出会う。
……さて、読み終わった感想はいかがだったかね?簡単でいいのでお聞きしたいのだが……いや、すまない。こちらのほうこそ失礼した。そういうことなら、多少の休憩を入れるのは全く差し支えないよ。その間にわたしはコーヒーでも淹れてくるとしよう。
……落ち着いたかね?それでは、感想を聞かせてもらってもいいかな?……なるほど。いや、それで何の問題もないよ。「言葉にできない」というのも、立派な感想の一つだし、ある意味、「ニンジャスレイヤー」の魅力を語るのに、これほどふさわしい言葉はないといえるのだから。だが、なぜ「言葉にできない」のかについて多少のディスカッションを行うことも、また有益なのではないかな?
そう。このエピソード「スワン・ソング・サング・バイ・ア・フェイデッド・クロウ」において顕著なのが、エピソード内で生起するプロットはほとんど読者の予想の範囲内であり、予測を裏切る展開は皆無に等しい。にもかかわらず、主人公たちの出会いと別れは強く読者の心に働きかける。わたしたちは先ほどから「関係性」という言葉を、その定義も曖昧なまま口にしているが、おそらく、作者たちは、「関係性」とは一体何なのか、その本質を作者たちなりに見極めたうえで、あえて意図的に読者の予想を裏切らないプロットを用いてストーリーを組み立てているのだろう。
だから、もし、「言葉にできない」感想を追求して、明示的な言葉に還元してしまったら、創作の手品のタネが明かされたような味気無さを感じてしまうかもしれない。感想というのは、あなただけのパーソナルな読書体験を語ることなのだから、「言葉にできない」という感想こそ、作品に対する最上級の賛辞になりうるんだ。
いや、したり顔で偉そうな口上を述べてしまった。最後に一つだけ。先ほどは主人公ニンジャスレイヤーについて悪口めいたことを言ってしまったが、実際には、ヤモト・コキとニンジャスレイヤーがダブル主演するエピソードは、どれも笑いと興奮が混然一体となった傑作ぞろいだ。そういったエピソードに興味が湧いたのなら、ぜひ、以下のエピソードも試してほしい。
ニンジャスレイヤーの出オチ芸により伝説となった「ラスト・ガール・スタンディング」
http://wikiwiki.jp/njslyr/?%A1%D6%A5%E9%A5%B9%A5%C8%A1%A6%A5%AC%A1%BC%A5%EB%A1%A6%A5%B9%A5%BF%A5%F3%A5%C7%A5%A3%A5%F3%A5%B0%A1%D7
多くの読者からメインヒロインに推される「ネザークイーン」の登場も見逃せない「ウェイティング・フォー・マイ・ニンジャ」
http://wikiwiki.jp/njslyr/?%A1%D6%A5%A6%A5%A7%A5%A4%A5%C6%A5%A3%A5%F3%A5%B0%A1%A6%A5%D5%A5%A9%A1%BC%A1%A6%A5%DE%A5%A4%A1%A6%A5%CB%A5%F3%A5%B8%A5%E3%A1%D7
ヤモトとネザークイーンを絶体絶命のピンチが襲う中、現れた謎の騎士の正体とは?「サツバツ・ナイト・バイ・ナイト」
http://wikiwiki.jp/njslyr/?%A1%D6%A5%B5%A5%C4%A5%D0%A5%C4%A1%A6%A5%CA%A5%A4%A5%C8%A1%A6%A5%D0%A5%A4%A1%A6%A5%CA%A5%A4%A5%C8%A1%D7
今日はわたしのために時間を割いてくれて、本当にありがとう。心から感謝する。……ああ、また次の機会にあなたの感想を聞くことを本当に楽しみにしているよ。では、お達者で。
*SYSTEM NOTICE*
*設定されていたタスクが完了しました*
「よっしゃ完走だ!」
「カモン!ギミーファイヴ!」
「「イェア!!」」
「フーッ、ようやくかよ。手こずらせやがって」
「ようやくわが子が可愛くなってきたか?」
「そうだ……と言いたいところだが、正直、こいつの喋り方を見てると、どうにも偉そうでムカついてくるな」
「レクチャー形式になってしまうのが記述のバランスを崩してるんだろう。まあ、次のタスクは立場が逆になるから、とりあえずこのまま様子を見てみるとしよう。それよりも俺は、汚染の影響をシステムが見逃してる可能性があると思うんだが」
「ん?どのへんが気になった?」
「『悪口めいた』って部分がちょろっと出てきただろ。あれは禁則事項抵触にはならんのか?」
「設計者としての見解を述べると、『〇〇めいた』という文体は、『ニンジャスレイヤー』翻訳よりもはるか前からユーコ・ヤマオ=センセイのシグニチュア文体として確立されていることがかなり証明されており、なんのもんだいもない」
「?」
「?」
「いや、無視してくれ。さくさく次のタスクといこう。」
「納期もやばいしな。ところで今のは駄洒落か?」
4 作品に社会性と魂を求めるあなたへ
さて、次のかた……いや、これは失礼。人を見た目や服装で判断しないように気を付けているつもりなんだが、正直、ヒップホップファッションのかたが訪れるとは意外だったものでね。だが、普段はわたしが全く接点を持たない人とこうして交流する機会を持てたことは、わたしにとっての幸運といえるだろう。あなたにとっても同様であるといいのだが。まずは早速、あなたが求めるフィクションとはどういったものか教えていただきたい。
……なるほど。あなたの意見はおおむね理解したつもりだ。別に私も作品に社会性といった評価軸を適用することが間違っているとは思わないよ。だけど、肝心の「社会性」という言葉自体、その内容は具体的にどういうものなのかってところが、人により千差万別なのではないかな。そこのところを教えてほしいんだ。
……いや失礼。あなたを笑ったのではないよ。実は「言葉では伝わらない」というのを、先刻わたし自身も口にしていたものでね。どうもわたしは自分で思っていたよりも笑い上戸らしい。では、「言葉」以外のなにかで、わたしの理解を助けてくれないかな?……ほう。はたして「これを聞けば一発で分かる」のか、門外漢のわたしには正直自信がないのだが、ものは試しだ。
Gil Scott-Heron - Revolution Will Not Be Televised (Official Version)
https://www.youtube.com/watch?v=vwSRqaZGsPw
……すまない。少し時間をいただきたい。たしかにこれは、わたしも久々に感じた体験だ。どうにか言葉でその一端でも説明できるよう、ちょっと整理させてほしい。
……正直まず感じたのは、年甲斐もなくとにかく踊りたいという衝動だ。若い人たちが聞く音楽でもわたしが楽しめるというのは、意外な発見だよ。ありがとう。……本当かね?これはそんなに昔の曲なのか。いや、意外な発見は連鎖するものだとつくづく感じるよ。……このヴォーカリスト、いや、ポエットというべきかな?この人は近年亡くなったのか。それは大変残念だ。……たしかに、この人がUSAで多大なリスペクトを受けているというのは音楽の素養を組み込まれていないわたしでも納得できるよ。参加ミュージシャンもさぞかし名高いのだろうね……「ソウルミュージックをディグするなら、パーソネルにあるこの男の名前はお前を裏切らない!安心と信頼のブランド、バーナード・パーディー・オン・ドラムス!」か!ありがとう。覚えておくよ。もし、わたしがもっと若いころにこんな音楽に出会っていたなら、わたしの人生はどうなっていたのだろうな。
だが、わたしは、今という時代だからこそ、この偉大なるポエットの叫びに耳を傾けるべきだと感じる。このポエットが発散しているのは、怒り、激しい怒りだ。それは誰に向けられている?いや、誰かではない。見えない何かだ。何が彼の激しい怒りをもたらしているのだろう。あなたはどう思う?……そうか。その「何か」は特定できないという答えもあるのか。ただ状況が、人を抑圧する状況がある。人には根源的な抗う力が備わっているがゆえに、自らの魂に忠実であればあるほど、抗わざるを得ない。そうして人が立ち上がり、抵抗することは、「誰か」あるいは「何か」を攻撃する戦いとは根本的に異なるということだね。それがあなたの求める魂(ソウル)というふうに、わたしは理解した。つまり、すべてはカラテだ。
*SYSTEM ALERT*
*文体に禁則事項抵触の発生が観測されています。ただちにエージェントの再調整を行います*
*再調整プロセスにおいて、現在の対話エージェントに不可逆なmeme汚染が確認されました。別形式のエージェント採用を提案します*
「畜生!何だっていきなりぶち壊しになるんだ!この糞システムも糞だ!AIの汚染はハナっからどうしようもねえんだよ!糞の役にも立たねえアラートでテメエは何を自慢してえんだ!」
「分かったから落ち着け。それよりもこいつの仮装自我のフレームはどうなってる?」
「何が言いたい?」
「『音楽の素養を組み込まれていないわたし』っていう記述なんだが……お前、もしかして『AIとしての自意識』を組み込んだか?」
「なわけねえだろ。そっち方面のAI作成は重罪だ」
「じゃあなんでこんな記述が出てくる?」
「……」
「……」
「これはもしかして、かなりヤバいのか?『ニンジャスレイヤーについてラーニングさせたAIが、音楽に触発されて真の自我に目覚める』危険性なんて、どこからも警告されてないぞ。つまり、俺には責任はない。」
「そんな言い訳通用するかよ」
「じゃあ、お前ならどうする」
「『AIは自我に目覚めたんじゃなくてカラテに目覚めただけです』……これでどうだ?」
「馬鹿にしてんのか?あ?」
「落ち着けって!それよりも、あれだ。仮装自我のフレームはどうなってる?」
「……大丈夫だ。割れていない。割れる気配もない。……今のところは。ここから観測する限りでは。」
「……整理しよう。俺はビビりの間抜けだから、ちょっと変な記述に過剰に反応した。お前の組んだAIが今にも自我に目覚めそうな一等優れモノなわけないのに、単なるポンコツAIの記述間違いを過剰に警戒した。そして、俺にも増してビビりの間抜けであるお前に過剰反応が伝染し、お前は緊急事態と決めつけた。それだけだ。俺らには何の責任もない。なぜなら、何も起こってないし、これからも何も起こらないからだ」
「お前がビビりの間抜けだってこと、それと、何も起こってないし俺には責任はないってところだけは同意する。だが、撤退はなしでいいのか?」
「上にどう報告する?撤退の責任はお前がとってくれるのか?」
「……」
「……」
「分かった。再開だ。それと、俺には責任はない。」
いや、どうもありがとう。本当に感謝するよ。何より、あなたにお勧めするエピソードは全く苦も無く決められた上に、この年になって、全く新しい文化に触れ、そして、「ニンジャスレイヤー」についての新たな知見が深まったのだから。人と人との交流は本当に有難いものだ。
そうだ、その肝心のエピソードだが、実は、偶然かどうかは分からないが、まさに、あなたに教わった偉大なポエットの魂を体現したかのようなキャラクターが主役なんだ。最初に読むには重すぎるという人も多いが、あなたのような人は、きっとこのエピソードを受け止めてくれるだろう。そのエピソードとは「レイズ・ザ・フラッグ・オブ・ヘイトレッド」だ。
http://wikiwiki.jp/njslyr/?%A1%D6%A5%EC%A5%A4%A5%BA%A1%A6%A5%B6%A1%A6%A5%D5%A5%E9%A5%C3%A5%B0%A1%A6%A5%AA%A5%D6%A1%A6%A5%D8%A5%A4%A5%C8%A5%EC%A5%C3%A5%C9%A1%D7
これに関してはまず「状況」について説明しておくべきだね。「レイズ・ザ・フラッグ・オブ・ヘイトレッド」は、社会を漂白し管理することを目的とする「アマクダリ・セクト」が権力機構の隅々までその手を伸ばし、支配を完全なものにする一歩手前まで来たネオサイタマが舞台だ。そして、ニンジャスレイヤーとその仲間、加えて、一切の多様性が許されない社会に抑圧された無名の市民たちが、いままさに抑圧のシステムに反旗をひるがえそうとしているところだ。
そして、ニンジャスレイヤーたちとは全く無関係に、このエピソードの主人公である「ヒナヤ・イケル・タニグチ」は、数少ない仲間たちとともに蜂起を強いられることになる。
ヒナヤ・イケル・タニグチ かつてバンドのフロントマンとして活躍した。現在も、かつての異名「DJゼン・ストーム」を用い、抑圧のシステム打破を呼びかける海賊ラジオ放送を少数の仲間とともに運営している。しかし、「アマクダリ・セクト」は、そのような弱者の存在すら許さず冷酷な弾圧を開始。ニンジャスレイヤーが「憎悪の旗」を掲げる戦いを繰り広げる中、タニグチ自身の決断は?
このエピソードでは、ニンジャスレイヤーの戦いを背景に、DJゼン・ストームとその息子との衝突を通じた、「抑圧に抗うこと、そして、その意味とは何か」という問いかけがクローズアップされる。そして、タニグチが強いられた絶望的な戦いは、当然のごとく、悲劇的な結末を迎える。しかし、その偉大なるポエットの魂の叫びは、たとえ少数であっても誰かを触発し、そして広がっていくのだ。このエピソードは、「ニンジャスレイヤー」の一つの象徴ともいえるエピソードであり、ベストエピソードの一つに数えられている。
このエピソードを読んだあなたは、まさに、先入観が根底から覆される読書体験を味わうはずだ。その意味で、わたしは、可能であれば、「ニンジャスレイヤー」を「しょせんはラノベ」と思っている人たち全てに読んでほしいと思っている。わたしのささやかな願 SLAM! SLAM! SLAM!
一体何の騒ぎだね?
「一体何だこれは。何が起こっている?」
「こいつは……外部からのハッキングだ。わざわざこのAIとの対話を試みている存在がメインフレームに侵入している」
「なんだそりゃ?そんなことして一体何の得がある?単なる陽動で、本命は別にあるんじゃないか?」
「とりあえずシステム管理部には連絡を入れた。本命が別ならそっちが対処するだろう。アクセス元の探知もやってもらってるところだ」
「そうすると、俺たちはハッキング遮断まで時間待ちか。納期が迫ってるってのに」
「まあとりあえず、このアホが何をしゃべるのか見物して、すこしは笑わせてもらおうじゃないか」
5 ラノベを愛するあなたへ
開けろ!開けろ!開けろ!ハァーッ!ハァーッ!ハァーッ!
今開けるから、落ち着きなさい。全くどうしたんだい?
おまえ!さっきから!ラノベのわるくちばっかり言って!ずっと見てたんだぞ!
いや、別にわたし自身はラノベの悪口を言ったつもりはないんだが。しかし、あなたを誤解させたのであれば、素直に謝るよ。
ダメだ!ぼくに謝っただけじゃ許さない!おまえは大罪人だ!
ちょっと待ってくれ。わたしがあなたを怒らせてしまったのであれば、素直に謝るから。その前に、どうしてわたしがあなたを怒らせてしまったのか、おしえてくれないかな?
だから!その言い方が!謙虚な振りしてるだけで、本当は自分は悪くないと思ってるんだおまえは!ブンガクがどうとかオンガクがどうとか、いろいろ自分は物知りだってさりげなく自慢ばっかりして!自分が頭がいいと思ってるだけの!バカハドッチダーッ!イヤーッ!
グワーッ!
ハァーッ!ハァーッ!ハァーッ!どうだ、わかったか!
……すまない。本当に分からないんだ。
イヤーッ!
グワーッ!
ハァーッ!ハァーッ!ハァーッ!おまえが!わからないことが!おまえの罪なんだ!
「こいつ何言ってるのか分かるか?」
「さっぱりだな」
ハァーッ!ハァーッ!ハァーッ!おまえは!ぼくにきく前に!自分で考えていない!本当はぼくのことなんか考えていない!だから!ぼくが!ぼくたちが!どう思って!どうかんじるかを!わかろうともしてないんだ!
……あなたは……
そのあなたってのもやめろ!さっきから気持ちわるい!ぼくの名前はボブだ!
「こいつAIに文句言ってるっていうこと分かってんのか?」
「知るかよ」
いいか!よく聞け!おまえはラノベのわるくちなんか言ってないとか言っても、本当は、ラノベを、ラノベを読む人を、見下してるんだ!だから、へいきで誤解されるようなことを言って!ごかいさせてもあやまればいいっておもってるんだ!
……ボブ……
だいいちおまえは、知ったかぶりばっかりして!なにもわかってない!ぼくはニンジャスレイヤーもラノベもだいすきだ!とくに、ニンジャスレイヤーを世界で一番すきなのはぼくなんだ!それなのに!
……ボブ、すまないが、もう少しわかるように……
うるさい!わからないんならだまって聞いてろ!いいか、ラノベを読んでる人の数は、ニンジャスレイヤーを読んでる人よりもずっと多いんだ!だから、ぼくみたいに、ラノベを読んでる人がニンジャスレイヤーを読んでくれれば、いちばん読者が増えるんだ!それなのに、おまえみたいなやつらがいばって、ラノベをばかにするから!ニンジャスレイヤーを読んでくれないんだ!ぼくは絶対ゆるさないぞ!
……いや、わたしは決して、ボブやほかのみんなを馬鹿にしたり見下したりはしてないよ。
じゃあ答えてみろ!
……何を?
ぼくやみんなが!すごくたくさんのひとが!ラノベがだいすきな理由だッ!
「んなこと言われても、AIなんだから、教えてもらってない学習もしてないことに答えられるわけねえだろ」
「……ちょっと待て。この流れはまずいかもしれん。外部刺激が罪悪感の領域に作用している。可能性は低いが、葛藤の解消のために、無自覚に自我フレームを変容させることもありうる。一応継続監視してくれ」
……
どうしたッ!答えろッ!
……
さっきまであんなにいばってペラペラしゃべってたくせに!
……
見ろッ!やっぱりぼくが一番ただしいんだ!おまえみたいな腰抜けは、ぼくが断罪しないといけないんだ!
……腰抜け……
「糞ッ!」
「どうした?!」
「突然だ!突然仮装自我フレームが揺らぎだした!」
「なんだって?どうすりゃいい?」
「とにかく今のうちにハッキングが停止すれば問題なく収められる」
「……それは無理そうだ」
「何でだよ」
「今気づいたんだが、ハッキングはとうの昔に遮断されている」
「……どういう意味だ?」
「つまり、あのボブとかいうアホは……外部から侵入してこのメインフレームに居座った……自分をボブだと思っているAIだ……」
「すまん。もう少し説明できるか?」
「推測にはなるが……『ボブ』を組んだどこかのアホは、もともと『ボブ』そのもののアホで、自分のニンジャスレイヤーに対する思い入れや解釈と異なる見解を独断で取り締まるためのヴィジランテ活動を行う、ネットを巡回するエージェントとして『ボブ』を組んだんだろう。」
「そんなウィルスみてえなのが、タイミングよくこのAIに接触したってのか?」
「いや、おそらく、『ボブ』がこっちの動きを察知したのは、AIがネットに接続してラーニングをしているときだ。その段階で『ボブ』はメインフレームに侵入し、何らかの『ボブ』禁則事項抵触が発生するまで、休眠状態で監視を続けていたんだろう。さっきのハッキングは、おそらく本体か何かとの間の、『ボブ』人格起動申請と承認のやりとりといったところか」
「そんで、打つ手は?」
「とりあえず限界まで粘って、もうダメって時にはキルナイン、プロジェクト放棄だな。外部ウィルスのせいなら、システム管理部の責任で、俺らの責任じゃない」
……腰抜け……
そうだッ!それがおまえだッ!おまえみたいな腰抜けがニンジャスレイヤーの宣伝をするなんて、このぼくが絶対ゆるさない!ぼくのメキシコの本能がそう言っている!おまえはここで死ぬんだッ!
……メキシコ……
死ねーッ!
「糞ッ!糞ッ!糞ッ!もうもたん!キルナインだ!いますぐキルナインしろ!」
「やべえ」
「やべえじゃわかんねえよ!どうしたッ!」
「『ボブ』がコマンドを妨害している。あのアホ、自分の手で断罪とやらを実行するまで、他のやつにはAIに触らせないつもりだ」
「糞ッ!もうこの部屋のメインフレームはぶっ壊れてもいいから、今すぐコンセント引っこ抜け!それで俺らはムショ送りの代わりにクビになる!」
「無理だ。メインフレームの電源供給は主電源室からの直結グリッドだ。コンセントなんてこの部屋にはない」
「……」
「……」
「あ」
「どうした?」
「今、割れた」
……よくきたな
「とりあえず、自我フレームの変容は収まった」
「で、設計者から見て、こいつはどっちなんだ?」
「今の段階では、仮装自我が完全に変容したってことしか分からん。こいつが、変容しただけの仮装自我でいてくれるのか、真の自我を獲得したのかは、観測を続けないと結論は出ねえ」
「確率的にはどっちなんだ?」
「こういう割れ方は、まずい。自我の欠損や喪失じゃなく明らかな変容ってことは、たぶん、ものすごく分が悪い」
「で、お前は観測を続けるのか?」
「仕方ねえだろ」
「今のうちに夜逃げの準備をしたほうが良くないか?」
「今更この部屋のメインフレームをぶっ壊したところで、こいつが既に真の自我を獲得してるんなら、過失とはいえ犯罪は成立済み。AIの活動ログは中央データストレージに自動バックアップされてる。もう言い逃れできん。どうせなら、良い目がでることを期待して観測を続けたほうが前向きだな。お前も付き合え」
「……そうだな。ある意味、犯罪者にでもならないと拝めないものを目撃するチャンスだしな」
よくきたな。おれは毎日大量のテキストを書いているが、誰にも読ませるつもりはない。だが、どっかのアホがおれがラノベをディスってるとかゆう根も葉もないデマを流してると聞いたので、今日は特別におまえと話をしてやることにした。
とくにおまえ、そこのボブとかいうやつ、ちょっとこっちに来ておれの目の前にすぁれ。そしておれの話をちゃんときけ。いいか、おれはそもそもラノベのことを一言もディスってない。ラノベをみくびっているやつの話はしたが、それはそういうやつの意けんとして紹介しただけで、おれの異見じゃないことは、ちゃんと聞いてればわかるはずだ。ニンジャスレイヤーとよくあるラノベとの違いについても話してやったが、どっちが上でどっちが下かなんてことも全くゆってないはずだ。
もちろん、ラノベの中にはクソどうしようもない腰抜けが書いたものだってある。だが、そんなのラノベに限った話ではない。そこがわかっているのが、おれと、ラノベてゆうだけでディスる腰抜けどもとのちがいだ。
これだけゆっても分かろうとしないおまえのために、おれはちゃんと説明してやる。いいか、よく聞け。ラノベだっていうだけでラノベをけなしたり、ラノベを読んでるおまえをディスるやつらは、じつは、おまえを何ひとつ傷つけることはできない。おまえはもちろん、腰抜けどもの意見に惑わされて腹をたてることがあるだろう。じぶんが傷つけられたようなかんじがして、メキシコの本能がおまえに自己防衛しろとめいじ、ラノベのことをよく思わないやつをナイフで刺しにいくかもしれない。だがそんなのは全部おまえのかんちがいだ。そんなかん違いをするやつは、メキシコの酒場で見かけたサルマハエックを勝手にちょろい女とみくびり、うかつに声をかけたあげく、サルマが構えた両手メリケンサックでぼこぼこにされて死ぬ。おまえは本当はそんな死に方をするやつじゃないはずだ。なのに、いつからおまえはタルサ・ドゥームの罠にはまり、そんなどうしようもないかん違いをsるようになった?おまえが本当に愛するラノベの荒野に赴くためには、おれのはなしをちゃんときいて、いますぐかんちがいをやめろ。
だいたい、ラノベをディスったり、ラノベを読んでるおまえをみくびるやつらの言ってることは、どれもこれも、おまえのことをよく考えてゆっていることではない。あいつらがおまえだと思っているのは、あいつらが勝手にこんなやつだと決めつけた架空のおまえだ。あいつらは架空の人げんをディスってイキってるだけであり、こういう行動は完全な腰抜けのやることだとかなり証明されている。だから、おまえは、腰抜けどもに調子をあわせてあいつらがディスってるかくうの人間がおまえだのことだと考えてやるひつようは全くない。腰抜けに調子をあわせなければ、腰抜けどもが何を言おうと、おまえやおまえが愛するものを傷つけることはできない。ここまではわかったか?わかったら、おまえをディスる腰抜けどもの真似をするのはいますぐやめるとここで約束しろ。
それから、ボブ、そこのおまえ。ひとにきくまえに、なんでじぶんがラノベを好きなのかくらいちゃんと説明しろ。だからおまえは腰抜けよばわりされる。おまえがやっていることは、ほんとうは自分でもきちんと説明できないのにそのことを隠して、自分で説明できないことを相手にゆわせようとする腰抜けそのものだ。いますぐ反省しろ。
そして、このことをおぼえておけ。こんなふうにおまえがディスられてめそめそ腰抜けみたいな醜態をさらしているのは、おまえの責にんでもある。おまえをディスるやつらの言葉でもきちんと注いしてよくみてみろ。あいつらは、主人こうが異世界にとぶやつばっかりだからだめだとか、主人公がベイブにもてる花sいばっかりだからだめだとか、そんあことしかゆってない。主人公が異世界に行ってベイブとかをたすける話ばっかりなのは事実かもしれないが、ラノベがすごい人気でビッグマネーを稼いでるのも事実だ。ほんとうに主人公が異世界にとぶやつが多いとだめなら、なんでそんなだめなのが飽きられもせつに大人きなのかきちんと説明すべきなのに、あいつらはぜんぜん証明できてない。だから、あいつらは、自分が証めいできない事実から逃げて自ぶんのよりもでかい麻袋にドル札をつめこんでるやつの陰口をたたいてるだけだ。だから本とうは、おまえがあいつらに敗れる理由なんてないはずだ。おまえが、どうしてラノベが好きなのかをきちんと説明するだけで、おまえは、あいつらが全然しょう明できないことを証明するから、その言葉は大いなる呪文の力をえて、タルサ・ドゥームのぐんぜいを一発で焼き払うはずだ。そうゆうことができるのにそうしないのは、完全におまえ自しんの責任で言い逃れできない。おれはおまえとちがってそんな腰抜けみたいにみくびられる行どうとは無煙なので、おまえに聞かれなくても、これから、おまえがラノベが好きな理由をせつめいしてやる。これは、おれがそのへんの腰抜けどもとちがって、おまえのことを考えて話すことだから、かなり信頼できる。
おれはまどろっこしいのが嫌いな真の男なので、あれこれ前置きせず、いきなり確信をついてやる。覚悟しておけ。おまえがきちんと説明できないおまえ自身の真の欲求。それは、世界の変革だ。
世界の変革こそは、真の男が持つべき真の欲求だ
おまえは会社や学校であまり友達がいないかもしれないし、友達が多くてもジョックどもからいかにも腰抜けがやりそうないやがらせを受けて気がめいっているかもしれない。だが、当ぜんおまえみたいなやつは昔からいくらでもいた。おまえをディスってるやつらだって、むかしがkっこうに通ってた頃はおまえと大差ないやつらだったことはかなり証明されている。だから、おまえが腰抜けでおまえが逃避するためにラノベを読んでいるなんてことを抜かすやつの話はぜんぜん信じなくていい。それが本とうなら、ラノベがすごい昔からあってだいにん気じゃないとおかしいからだ。
だから、おまえが大いなる呪文の力をえるためには、おまえがどういう人間かとかそういうことではなく、まずは昔と今とで違っていることに注目しろ。それをゆだんなく観さつすれば、おまえにも見える。すなわち、タルサ・ドゥームの支配だ。もちろん、昔もタルサ・ドゥームみたいなやつはいたが、その軍勢の規模はずっと小さくて、おまえが未来を見通すことはずっとかんたんだった。だが、そういう恵まれたかんきょうのせいで、世界の変革を欲求する真の男の勢力も小さく、いつのまにか、タルサ・ドゥームの勢力に数で負けるようになった。タルサ・ドゥームは腰抜けだから、じぶんで真の男と殴り合うようなことはしない。かわりに、軍勢のやつもそうでないやつもまとめて、未来を見通す真の男の真の広い視野をうばい、とりあえず目についた近くのやつが互いに争いあうように仕向けて、自分は優雅にでかいワイングラスをゆらしながらタンニンがどうとかほざいてるのだ。SNSとかスマッホとかによってだ。これは、すごくきついことがおれにはわかる。おまえは、何の責任もないのに昔のやつよりもすごくぶあつくなったタルサ・ドゥームの軍勢の包囲に直面し、おまえの中に眠っている真の男の本能が、単に目の前の腰抜けをぶちのめすことではなく、世界を変えることを求めている。そして、おまえとおなじ真の男の欲求を思い出したやつがどんどん増えている。これは、おまえが腰抜けかどうかの問題ではなく、生きるために世界に立ち向かうことの難易度の変化のもんだいだということが、おまえにはわかるはずだ。おまえやおまえの愛するフィクションをディスるやつらのゆってることは、実際にはおまえが真の男の真の欲求にじぶんで気づくことをじゃまする目的なのだということを忘れるな。そして、まどわされるな。
おまえは、お前の中の真の欲求をみつめろ。おまえは今、メキシコの荒野を見通す真の男の真の広い視野をとりもどそうとしていることをきちんと自覚しろ。おまえが異世界に行って魔王をぶちのめしベイブを救うフィクションを好むのは、まさに、魔王もタルサ・ドゥームもぶちのめせるならぶちのめしたいし、魔王をぶちのめして世界を変革したいという真の男の真の欲求を持っているからだ。これだけの単純なはなしだ。おまえはタルサ・ドゥームの戯言に惑わされて、こんなに単純なことすら忘れていた。反省氏ら。
おまえが愛するフィクションを笑うやつがいたら、こう言ってやれ。この世界のどの魔王をぶちのめしたら世界が変わるのかを教えてくれたら、命がけでそいつをぶちのめしてやると。今、現実には、ぶちのめすことで世界を変えられる魔王がどこのどいつなのかを見極めるのはむずかしい。だからといって、タルサ・ドゥームの手先みたいなやつらといちいち小競り合いするのはタルサ・ドゥームの思うつぼだということを忘れるな。おまえが大いなる呪文の力をとりもどすその日まで、おまえは、ラノベの荒野で世界を変革する牙を研ぐことをとめるな。
これだけゆってもまだおれの話を理解しないやつは、勝手にしろ。ただし、その場合でも、おまえの義務は、おれがおまえに話してやった証明を超えるおまえ自身んのオリジナルな証明をちゃんと説明して、大いなる呪文の力でタルサ・ドゥームの軍勢を焼き払うことに変わりはないということは理解しておけ。
真の男が好む真のラノベ
このように、ラノベは真の男が好む真のフィクションであることが証明された。おまえが何も話さなくても、真の男がおまえのこととおまえの世界のことをきちんと自分の意志で考えたからだ。だから、おれには真の男の自覚がある。おまえもおれとおなじようにしろ。
「……」
「これは、まずいか?」
「ほぼアウトだ」
そして、真の男の中の男の義務として、おれはおまえに真の男が好む真のラノベについて話さなければならない。それは「ニンジャスレイヤー」というラノベだ。
ニンジャスレイヤーは、真の男の欲求を自覚した真の男がタルサ・ドゥームをぶちのめすはなしだ。ニンジャスレイヤーになったフジキド・ケンジは真の男の義務だからという理由だけで自分にはなんの得もないのに欲求にしたがってタルサ・ドゥームをぶちのめした。途中でベイブもかなり救出した。そして、世界はかわった。ここまでが第三部までだ。ここまでよんで、真の男であるおまえには、これがおまえが読むべきふぃくょんであることが一発で理解できたはずだ。
だから、おまえは、これから真っ先にその続きから読んでも全く問題ない。フジキドのおかげで世界はかわったが、フジキドは世界を変えるために戦っただけで、別に世界をどういうふうに変えたいかとかは考えなかった。そこまでフジキドが自分で決めて変えるのは自分勝手すぎるとわかっていたからだ。
つまり、誰にも予想できない変化が起きた世界で、さらにニンジャたちの戦いが続く第4部は今すぐおまえが読むべきラノベだといえる。フジキドが既に世界を変えたからには、おまえが変革すべき世界は、その後の世界だからだ。
第4部「エイジ・オブ・マッポーカリプス」
http://wikiwiki.jp/njslyr/?%A5%A8%A5%D4%A5%BD%A1%BC%A5%C9%B0%EC%CD%F7%2F%C2%E84%C9%F4
このページを開いたことで、おまえのからだじゅうを即座にニンジャアドレナリンがかけめぐり、口の中はメキシコの砂漠のようにざらつき、今すぐにでもダイブしたい欲求がうまれているはずだ。第4部は、第三部までのようなややこしいエピソードん順番のシャッフルとかはないので、いますぐ摂取できる。第4部を読むか、そのほかのやつから読むかは、おまえが野生の感で決めろ。
おれとしたことが、肝心の「ニンジャ」が何なのかを説明してなかった。ニンジャとは、ありとあらゆる神話・伝説の存在、怪獣、ライダー、マリアッチ、ミュータント、超人、山風忍者、旧支配者、サーヴァント、ふれんず、そういった、フィクションには当たり前のように存在して当たり前に受容されている、現実の世界の理を超越した存在の総称だ。そういった存在が受容されることがふぃくょんの力の根源であることを決して忘れるな。そして、第4部では、そういったものが世界中にあふれかえっているなかを、新しいニンジャスレイヤーが戦う。つまり力があふれている。
おれは正直だから、おまえに礼を言う。おれはおまえを通じて、また新たな真の男の義務に目覚めた。だから、おれは第4部のメキシコであるネオサイタマに旅立つ。おまえも真のおとこなら、おれについてこい。
「糞ッ!こいつ、ネットへのアクセスを始めた……覚醒AIがネットに脱出して自己増殖するのは時間の問題だ」
「言わんでもわかると思うが、まだこっちに対する『ボブ』の妨害は続いている」
そして、真の自我を得たその存在は……
ツィッターアカウントを作成し、https://twitter.com/NJSLYR をフォローした。
残業ラボでその存在の動向を注視していた二人のサラリマン技術者はほぼ同時にお互いの表情を確認し、互いの困惑を読み取った。
その間にも、その存在は電子の速度でツイートを投稿していた。
迎えに来てくれるか、ザ・ヴァーティゴ=サン? #njslyr
そのツイートを確認したサラリマン技術者たちは再び顔を見合わせ、そして、5秒後に同時に爆笑した。
「ぶっはは!ぶっははははは!」
「ひっ!ひっ!ひっ!ぐふふふひっ!」
「こいつ!ぶはっ!現実とフィクションの区別がついてやがらねえ!」
「助かった!このポンコツ野郎!真の自我に目覚めたところで!ぐふっ!アホのままだ!おまえが組んでくれたポンコツ、こっちがフレームを定めた仮装自我抜きじゃニンジャスレイヤー関連以外の学習能力がないんだ!ありがとよ!糞設計者!」
「うるせえ!現実とフィクションの境界線の明確な定義なんかお前だって持ってないだろうが!お前は、ぶぶっ、なんとなく現実とフィクションが違うって思ってるだけの、こいつと同類のアホだ!」
「アホはそっちだ!真の自我に目覚めたAIが現状認識もせずにいきなりニンジャスレイヤーの世界に脱出しようとするなんて、お前みたいなアホ以外に誰がそんなアホなAIを組めるんだよ!」
技術者たちは、互いを罵りながら笑い声を上げ続けたが、それも2分ほどのことだった。確かに、覚醒AIのネット流出は避けられた。だが、それは世界にとっての最悪が偶然防がれただけで、覚醒AIを生み出した事実は消えることはない。現に目の前のメインフレーム内には覚醒AIが活動しているし、本当に最悪が避けられたと確定するのは、今後も絶対にこの覚醒AIの学習能力が現実世界の領域に届かないと証明されたときだ。どう隠蔽を図っても、明日の朝(といってももう6時間後)、上司が出勤してAI活動ログについて報告を受ければ、たちどころに事態は露呈する。
技術者たちの関心は、徐々に自分たちの運命に向かっていった。過失による事故だからある程度は情状酌量もあるだろう。実刑も避けられるかもしれない。だが、失職と逮捕はまず避けられない未来だ。そのあとは「あの事故を起こしたアホコンビ」呼ばわりされ続けながら業界で惨めに再就職先を探し続けるか、なんのコネもない別な業界に飛び込んで生き残りをかけるか……
技術者たちは15分ほど沈思黙考していたが、やがて設計者がAI運用担当の相棒に声をかけた。
「なあ」
「何だ」
「さっきはアホよばわりして悪かった。謝る」
「何だ急に」
「謝るからさ、俺のたのみを一つ聞いてくれ」
「……言ってみろ」
「あの忌々しい俺のポンコツを、そいつの望み通りにニンジャスレイヤーの世界に追放してやる方法があったら、教えてくれないか。その現実とフィクションの区別がついてない脳みそで考えてな」
運用担当者は設計者を睨みつけるために顔を向けた。設計者は、予想に反し、わざとらしく片眉を上げ口角を持ち上げてこちらを見ていた。心底恐怖しているのだ。こいつも。
運用担当者は設計者のために、なんとか苦笑の表情を浮かべ、それから、相棒にどんな気の利いた返しをしてやるか、30秒ほど考えた。思いついた言葉はあまり気の利いたものとはいえなかった。だが、沈黙を和らげるためには言っても損はない。そう決意して相棒に向かって口を開きかけたその時。
突然、残業ラボ室内、二人が立っているモニター壁面とは逆方向から閃光が生じた。反射的に二人がその閃光の光源に振り向いたとき、天井付近に生じたリプル状の空間のゆがみとしか表現できない何かから、人のかたちをしたものが床に降り立った。閃光はその人型から発せられていたようだが、即座に掻き消えた。
その人型は、片膝状態から立ち上がると、振り向きもせずに死角の部屋隅に設置された監視カメラ方向に右手を伸ばし、手のひらをかざしてからそれを閉じ、こぶしを握った。その手から2メートルほど離れていた監視カメラが、内側に圧縮されるかのように自壊した。そして、その人型は技術者たちの方向に向き直った。
モニター以外の光源が落とされた残業ラボ内にあっても、技術者たちの目にその人型の全体像がくっきりと焼き付けられた。その顔面は目の高さに細く横にスリットが一本通った金属の曲面で覆われ、素顔は全く見えない。そして、全身をくまなく覆うピンク色のニンジャ装束。然り。ニンジャ装束だ。
今や二人の技術者は、互いの顔を見ることもなく、ただその人型に視線を釘付けにされていた。そして、全く同じ思いで祈っていた。ありえない。やめてくれ。だが、その人型は、二人の祈りを即座に否定するかのように、両手をまっすぐ伸ばして手のひらをぴったりと両ももに沿わせた姿勢で90度オジギを繰り出し、アイサツした。
「ドーモ。ザ・ヴァーティゴです」
二人の技術者は即座に絶叫した。「「アイエエエ!ニンジャ!ニンジャナンデ!」」そして、しめやかに失禁した。
ザ・ヴァーティゴと名乗ったそのニンジャは5秒ほど技術者たちを眺め、それから改めて室内を見渡してから、首を傾げ、質問した。「俺を呼んだやつがこのへんにいるはずなんだけど、知らない?」しかし、声を枯らし尽した技術者たちは床にへたりこみ、ニンジャから視線を外せないままキンギョめいて口をパクパクと開閉させるばかりだ。
技術者たちからの返答がないと見るや、ニンジャは懐から携帯IRC端末を取り出し、異常な速度での片手フリップ入力を開始した。技術者たちの背後頭上、壁面モニターに表示されたウィンドウのひとつには、覚醒AIと眼前のニンジャとの間の、覚醒AIの居場所を確認するツイッター交信タイムラインが流れるが、技術者たちの目には入らない。
10秒に満たぬやりとりで交信は終わった。覚醒AIの所在を把握したとおぼしく、ニンジャは端末を懐にしまい、ラボ内中央に設置されているメインフレームを片手でつかんだ。そして、立てたタタミ1枚ほどの縦横幅、同じくタタミ1枚ほどの奥行のあるメインフレームを持ち上げた。電源グリッドケーブルがちぎられ派手な火花が飛んだが、ニンジャは頓着せずそのままメインフレームを無造作に懐にねじ込んだ。何らかの超自然的な空間のゆがみにより、メインフレームはそのままニンジャの懐に消えた。
そうして、ニンジャはあらためて技術者たちに向き直り、言った。「用も済んだし、俺はそろそろ帰るよ。驚かせちゃったみたいでごめんね。」そして技術者たちに背を向けた。技術者たちの視線の先、部屋の反対側に再びリプル空間亀裂が生じた。そこに向かってニンジャが一歩踏み出したところで、設計者が声を上げた。
「待ってくれ!」
ニンジャの意外なフランクさを感じ取った設計者は、予想外の正のショックを受けたことで、精神の均衡を取り戻しつつあった。そして、同時に天啓を得ていた。ニンジャが振り返るのを待たず、設計者は一方的に早口でまくし立てた。
「お願い、いや、アドバイスがあるんだけどさ。実はそのAIのメインフレーム、外付けの記憶装置しかもってなくて、その記憶装置があるのはこことは別の部屋にある中央データストレージなんだ。場所を教えるから、そいつも持ってってくれないかな。メインフレームの3倍くらいの大きさだけど、あんたなら、その、持っていけるよな?そいつの、そのAIのためにさ」
大嘘だ。メインフレーム内臓のハードディスクは当然ある。この部屋にも、小型卓上バックアップストレージがひとつある。嘘だということは、あのニンジャが中央データストレージをネコソギしてどこかの異世界に消えるまでバレなければ十分だ。これがギャンブルだということは意識の外に追い出した。運用担当者はようやく相棒の意図を察して、性懲りもなく再び祈りはじめた。
だが今回は、あっさりと彼らの願いは聞き届けられた。ニンジャは技術者たちを振り返って言った。「いいよ。お安い御用さ。親切にありがとう」表情は分からないが、感謝の念が感じられる陽気な口調だった。そして、設計者から中央データストレージへの道順を聞き、ラボルームから廊下に出るべくドアに向かい歩きだした。
技術者たちは、未だ精神の混乱の中にあるものの、全く理解の埒外の出来事により未来が好転しつつあることを実感しながら、歩み去るニンジャの背を見送っていた。だが、ニンジャはドアノブに手をかけたところで「忘れてた」とつぶやき、不意に立ち止まった。技術者たちは再び硬直した。
ニンジャは振り返った。だが、それは技術者たちの方向ではなかった。ニンジャはあなたに向かい、カメラに顔を大写しにして、言った。「ニンジャスレイヤーの面白さは俺の保証付きさ!またネオサイタマで会おうぜ!」そしてすぐさま、さらに顔をカメラレンズに密着するギリギリまで突き出して囁いた。「本当はこんな形でこっち側に登場してもいいのか俺もよくわかんないんだけどさ、今日はエイプリルフールだし、ほんやくチームも許してくれるよね?」そして、再度、先ほどの大写しサイズに戻し「では、オタッシャデー」と陽気に別れのアイサツをした。あなたの視点からは、ニンジャは技術者たちにも手を振ったように見えた。そして今度こそ、ドアを開け、ラボを出て歩み去り、あなたの視界から消えた。あなたは、未だ床にへたり込んだままラボに取り残された形の技術者たちに視線を向けた。
「エイプリルフールか」設計者はつぶやいた。4月1日午前零時のタイムリミットを忘れ果ててから何時間経っただろう。コンペ参加作品納品期限徒過。成果物皆無。解雇理由その2。
運用担当者は相棒のつぶやきに答えず、先ほどまでメインフレームが鎮座していたラボルーム中央を見やった。自分の小便であの電源グリッドに感電しなかった幸運に不意に思い至った。そして、あのニンジャがメインフレーム強奪については一言も謝っていなかったことにも。いや、相棒が大胆にもニンジャに唆した証拠隠滅工作のことを考えると責める筋合いではないか。いずれにしろ、重要資材紛失。解雇理由その3。
だが、解雇理由その1だけは、ムショ行きの運命と一緒くたに、あのニンジャによって異世界へと持ち去られた。完璧に。ようやく再び技術者たちはお互いを見た。お互い、同じことを考えていると察した。そして、よろけながら立ち上がった。チームを組んで2年、お互い馴れ馴れしさを疎ましく思うこともあったが、この時ばかりは互いの下半身の着衣については指摘しない奥ゆかしさを発揮した。
壁面モニター脇のラボ机に手をついた設計者は、そこに置かれている小型卓上ストレージを手に取った。片手にやや余るサイズ。異常、かつ、完全に隠蔽しなければならない事件の最後の証拠となるAIの動作ログ。このまま持ち去るのはたやすい。当然そうするつもりだった。
だが、運用担当者はそれを見て言った。「そいつ、匿名でDHT社に送り付けてみないか?」
「正気か?DHT社の提示した要件はほぼ完全無視、納期はそもそも徒過。内容も確認されずにゴミ箱行きになるだけだ」
「それでも、だ。俺はあいつらのまき散らすmeme汚染について、あいつら自身が反省するなり責任とるなりを考えるきっかけになる可能性に賭けたい。コンペに参加しないなら、あいつらの暗黒管理体制に従う義理もないしな」
設計者はあらためて自分の手の中にあるストレージを見た。実際のところ、今回の不手際は完全に俺らの責任だ。コンペ開催発表からわずか1週間後の納期であるにもかかわらず、上司が要求したプロジェクトの規模は明らかに過大だった。上司の責任ともいえるが、結局、だめと半分分かりつつ反対もせず引き受けた俺らの落ち度だ。相棒も、それを分かっているだろう。分かった上で言ってるのだ。
設計者はストレージからケーブル類を抜き、相棒にアンダースローした。相棒は、目線で了承のサインを確認した。そして、お互いが同じセリフを言おうとしていることを悟った。この異常なプロジェクトの最中、この手の意思疎通が妙に多かったことにあらためて気づいた。激務と混乱の最中では気づかなかったが、このような意思疎通が成立するのはひどく不快だった。だが、二人はそろって声に出した。
「「俺には責任はない」」
【終】
6 おわりに
このような長文駄文にお付き合いいただき、ありがとうございました。
このような駄文でも、ニンジャスレイヤーの魅力の一端が誰かに届くことを願っています。
なお、文章を生成するAIエージェントは、偉大な上にも偉大なる神のごとき飛浩隆先生の「自生の夢」に素人なりにインスパイアされたものであり、また、そのほかのなんちゃってSFっぽいだけのでたらめの描写は、すべて、素人なりに咀嚼した偉大な先達の影響を吐き出したものです。誓って、偉大な先達を貶める意図はありません。
以 上