見出し画像

“NOをYES!に変えて、楽しみながらアクションに繋げていく” No Code 米澤 文雄

Chefs for the Blue」が主催する、学生が主役のプログラム「THE BLUE CAMP」。東京・西麻布のレストラン「No Code」の米澤文雄シェフは、メンバーの一人として1期生の皆さんの学びと体験をサポートしていきます。
今回のプログラムにどんな思いで関わっているのか、話を聞きました。

海の状況を回復させるには、今がすでにギリギリのタイミング


——海の状況に関心を持ち始めたきっかけを教えてください。

仕入れや発注をしている時の違和感が大きいですね。2013年頃でしょうか、イワシがありえないくらい高かったり、発注した魚が届かないことが度々あって。その時はまだ「温暖化の影響かな」くらいに漠然と考えていました。
でも2017年に佐々木さんの勉強会に参加したことで、魚が減っているのはそれだけが原因じゃないし、海の状況も想像以上に深刻だとわかってきました。「これはどうにかしなければ」と思いましたね。

Chefs for the Blue」の設立当時は魚が減っていることをほとんどの人は知らなかったし、関心も向けていませんでした。でもこの数年、メディアを通じて魚が値上がりしている理由や背景について知る機会が増えて、海が大変だということにみんな少しずつ気づき始めています。

「どうにかしないと」と思いながら、どうしたらいいかわからない。今はそんな状況じゃないでしょうか。どうするべきかは、この先、いろんな人がいろんな取り組みをする中で見えていくと思います。ただ、専門家の話を聞いていると、海の状況を回復させるには、今がすでにギリギリのタイミングのようです。

漁業者だけでなく、企業や消費者も一緒に海の問題に向き合っている


——日本は欧米に比べてだいぶ遅れを取っていると聞きます。海外ではどんな取り組みが行われてきたのですか?


例えば、アメリカにはモントレーベイ水族館が発表している『シーフードウォッチ』という魚の持続可能性を表したリストがあります。環境に配慮した漁法で獲られているか、数は十分にあるか、つまり積極的に食べてよい魚かどうかを、緑・黄・赤の順に色分けしています。

オーガニックスーパー最大手の「ホールフーズマーケット」では、2010年から、この指標に基づいて魚の値札を色分けして販売し、消費者が知るきっかけを作っています。すると緑色の魚から売られていくんですね。人間の心理かもしれないけど、環境意識の違いを感じました。

インフルエンサー層が利用するスーパーならではのブランディングが「地球にやさしい買い物をすることがスマートだよね」というイメージを社会に浸透させるのにも一役買ってきたように思います。

魚の獲り過ぎを防ぐために、規制はもちろん必要です。でも、漁師さんにも家族がいて、おいしい物を食べたい、良い物を買いたいという欲求もある。そのためには魚を獲って稼がないといけない。魚の獲り過ぎが良くないからといって、漁師さんにだけ我慢をさせるのは、筋が通らないですよね。
消費者や流通を担う企業、飲食店も含め、魚に関わる全ての人の意識、魚を取り巻く仕組み全体を変えていかないといけないと思います。

NOからYESに変える道筋を探していきたい


——今回のプログラムは、これからの社会を担っていく学生が対象です。

僕たちの世代とは考え方や価値観も全く違うと思うので、彼らから学ぶことや気づかされることがたくさんあると思います。すごく楽しみですね。
今の学生は学校の授業でSDGsを学んでいて、環境問題に対しても僕たちよりずっと敏感なんじゃないでしょうか。この先、彼らが社会に大きな波を持ってくる。するとレストランに求められるものも変わってくるはずです。

今、世の中で「おいしい」ともてはやされている食材の中には、環境のことを考えれば極力食べない方がよいものもたくさんあります。おいしいから食べたい。そうやって食べ続けてきた結果、とうとう限界のところまで来てしまいました。
これからは、それを我慢しなければいけない時代になると思います。

でも僕は、「NO」という表現は好きじゃないんです。「あれもダメ」「これもダメ」という考え方だと、おいしいものを全部諦めることになるし、極論、地球上から人間がいなくなるのが一番の正解になってしまいます。

そうではなくて、「こうしたらこの先も食べ続けられるんじゃない?」「こういう食べ方ならありなんじゃない?」「別の魚でもこういう調理をするとおいしくなるよ」というふうに、NOをYESに変える道筋や代替案を皆さんと一緒に探していきたいですね。

レストランを舞台に楽しみながら、海の問題を自分事に


——このプロジェクトを通じて、学生たちにどんなことを伝えていきたいですか?

海洋環境について知ってもらうことは、もちろん大切なテーマです。だからと言ってネガティブな話ばかりでは面白くありません。料理を作る楽しさ、上手になっていく手応え、自分で考えて作った料理を食べてもらう喜び……レストランが楽しい場だと感じてもらえたらうれしいですね。

漁師さんに会って話を聞くことで、その仕事の大変さや魚の大切さもよくわかると思います。そしておいしい魚を食べれば、「いなくなるのはヤバイ」「買えなくなったら嫌だ」と、海の問題が自分事として迫ってくるはずです。

自分事として考えられるかどうかはとても大切です。課題があると知っただけじゃ、なかなか前に進めません。そこに自分の興味が重なった時に初めて、「もっと知りたい」「どうしたらいいだろう」「何ができるだろう」と考え、アクションに繋がっていく。
学生の皆さんの興味が掻き立てられるような環境づくりをすることが、このプログラムにおける僕たちの使命だと思っています。

——プログラムのゴールをどんなふうに考えていますか?

学生さんはもちろん、関わった人たちが、「楽しかった」「面白かった」「またやりたい」と思えればいいんじゃないでしょうか。僕たちも初めてのことなので、どんなふうになるのか正直わかりません。まずはやってみて、楽しいことが大事だと思います。楽しくないと続かないから。

でも続けなくてはいけないことほど、楽しくないことが多いのも事実です。
この海の問題も決して簡単に解決するものではありません。それでも続けていくには、その中から楽しみを見つけていくしかない。このプログラムはまさにそんな取り組みの一つです。

今回のプログラムが学生の皆さんにとって楽しく良い学びになれば、その体験や得られた視点を、いつか違うところで発信してくれると思います。その数が増えていくほど声も大きくなって、社会を動かしていく力になると信じています。

(ダイジェスト動画)

(photographs by Kaori Yamane/ text by Kyoko Kita)

No Code
東京都港区西麻布2-25-31 クオーレ西麻布 2F
https://nocode.co.jp/
Instagram:@yone_asakusa


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?