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“若い世代のクリエイティビティに期待!”日本料理研野 酒井研野

海の未来を担う若者たちが参加する、約3ヶ月の集中プログラム「THE BLUE CAMP」。東京と京都、各7〜8名でチームを組み、オンライン講座、産地フィールドワーク、レストラン研修を経たのちに、それぞれ学生自身で考えた「海の未来をつくるレストラン」を6日間運営する。第2回となる2024年度の「THE BLUE CAMP」で学生たちをサポートをするのが、京都で「日本料理 研野」を営む酒井研野氏だ。今回のプログラムに対する想いを聞いた。

1990年青森県黒石市生まれ。料亭「菊乃井」や中国料理店「京、静華」で経験を積んだ後、2021年に京都・岡崎に「日本料理 研野」をオープン。翌年35歳以下の料理人に向けたコンペティション「RED U-35」でグランプリ「RED EGG 2022」を受賞し、「ミシュランガイド京都・大阪2023」で一つ星を獲得。「ゴ・エ・ミヨ2024」3トック獲得、ヒトサラ「Best Chef &Restaurant 2023-2024」U-35 シェフ賞受賞。

気持ちよく食事していただく為に

——2021年にお店をオープンされて、3周年を迎えられました。料理人として、飲食店の経営者として、今どんなことに関心がありますか?

僕の営むお店はカウンター8席の小さなお店なのですが、ご来店くださるお客様に対しては、お料理を通して元気になってもらいたい、幸せになってもらいたいと常に思ってます。もちろん自分の家族や従業員ともいい時間を過ごしたい、共に成長していきたいですし、そのために日々どのように行動しようかというのが、いちばん関心があることです。

もう少し話を広げると、人々が料理に求めるのはまず第一に「安全に食べられること」だと考えています。食べて体を壊すことだけは避けたいですから。そして、やはり「美味しいものが食べたい」というのは万人共通の願いです。安全かつ美味しいもの。さらに健康に配慮したものだったら、なお安心といったところでしょうか。

少し前の世の中だったら、お店はここまで考えればよかったと思います。しかし、いまはいかに無駄が出ないかというところまでしっかり気を回さなければならないと思います。「自分がこのお店で食事をしたことによって、人や自然、環境に負担がかからないか」。そういったことを人々が配慮するようになっていると思うのです。

自分らが使う食材がいかに健全か、使った後の後始末をいかにきちんとするか。そういったところをしっかりと見直して、お客様に気持ちよく食事していただくと共に、自分達も気持ちよく仕事をしていきたいと考えています。

感謝を込めて丸ごと味わい尽くす

——cenciの坂本シェフのお声がけで「Chefs for the Blue」のメンバーに加わったそうですが、どのような思いで参加されたのでしょうか。

僕は青森県黒石市で生まれたのですが、故郷は山の緑や清らかな川がすぐ近くにある環境で、小さな頃から渓流釣りに親しみ、魚に触れ合う機会が多くありました。今でも魚を見るのが好きだし、食べるのも好きなんです。だから海が危機的な状況にあるということには、すごく心が痛みます。

実際に業者さんとの取引をするなかでも、魚が年々獲れなくなってきてる、価格が高騰しているという状況を目の当たりにしていて、今自分たちがアクションしなければ、取り返しのつかないことになるのではないかと思い参加させてもらいました。

——「Chefs for the Blue」のメンバーとして活動するなかで、どんなことに気をつけるようになりましたか。また、どんな発見がありましたか?

魚を調理する上で今まで捨てていたような部分を、手間や時間をかけてでもちゃんと調理して全て利用することを実践していて、あらためてその美味しさを発見しました。

調理の際、魚はだいたい3枚に下ろすのですが、そうするとアラと呼ばれる頭や骨の部分が副産物として出てきます。顔は分解し、霜降りといって、お湯にさっとくぐらせて血やぬめりを固めてからそれを氷水の中で取り除く。綺麗にしたら、酒と野菜を入れて炊く。それだけで出汁も出るし、身も美味しく味わうことができます。皮もついているからコラーゲンたっぷりでとても美味しいのです。

先日行われた料理人が集まっての勉強会でも、鯛のアラを味わう汁をつくった

日本料理に魚は欠かせない存在です。造りや焼き物、椀種など、コースの各所に魚が登場します。だからこそ、新鮮な魚に感謝して丸ごと味わい尽くすということを徹底していきたいし、周りの人たちにもその重要性を広めていきたいと考えています。

学びや想いを料理に表現する

——今回の「THE BLUE CAMP」のテーマは「和食」。酒井シェフは日本料理店でありながら、アメリカンドッグや締めにラーメンを出すなど、従来にはない形でメニューを構成されています。酒井シェフにとって、和食はどのようなものなのでしょうか。

「現代の日本を映し出す料理」というのが僕の料理のテーマです。さまざまな食文化が入り乱れている現代社会では、日本人が食べているものといってもどんどん進化しています。ラーメンのように外国人観光客が目指して食べに来るような新しい国民食もあるわけです。

酒井シェフによるアメリカンドッグ。
屋台やコンビニなど、日本人の日常に溶け込んでいるものを
日本料理と解釈してコースの一部に落とし込んだ。

逆に古くから日本にあるもので、放っておくと忘れ去られてしまいそうな地方の郷土料理や歴史風土に根付いた調理法など、そういうものにもスポットライトを当てながら、「こんな日本もあるよね」と多面的に感じてもらいたいというのが僕の「日本料理」の表現方法です。

10年の料亭勤めで身に染みついた京料理の技術や感性をもとに、日本料理の多様性、奥深さを丁寧に表していきたいと考えています。

——「THE BLUE CAMP」に参加するにあたり、学生の方々にはどんなことを期待しますか?

今回、学生の方々が6日間レストランを運営するということで、とにかくクリエイティブになって、学びや想いを料理という表現に落とし込んでもらいたいです。

調理学校の生徒さんにとっても学校ではレシピ通り料理を作る技術は身につくかもしれませんが、伝えたいことを表現するために料理をクリエイトするということは、こういう機会がないとなかなか経験できないことだと思います。

——「THE BLUE CAMP」では、学生たちとどのように関わっていこうと考えていらっしゃいますか?

カリキュラムの中に、学生の皆様に「日本料理 研野」でお食事いただく機会があるのですが、その際に僕がメニュー考案の際に大切にしていることなどをお話ししようと思っています。ただ、レストランで実際に提供するメニューの中身については、あくまで学生たちのアイデアを引き出したいと考えているので、サポートに徹する予定です。

技術や経験が足りないのは当たり前なので、工夫しながら、学生さんならではのレストランが作れたらいいですね!

大変難しいチャレンジだと思いますが、若い世代の方々がどう学び、どう想い、それをどんな料理に仕立て上げるのか、とても楽しみです。一緒に素敵なレストランをつくりましょう!

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